アッチェレランド 後編
(承前)
◆テキストサイトって何ですか
何がしっくりこないかっていう話なんですが、まあ全部です。全部。
コテコテのテンプレラノベはもちろんなんですが、そうじゃないものも、いままで自分が書いてきたものとうまくつながらないんですよね。
元々、わたしは一般文芸が好きで、特にミステリをよく読んでたんですが、それも古今東西を問わず、また本格だったりハードボイルドだったり冒険小説だったりと、サブジャンルもわりと多様に読んでたんですよ。ミステリって一口に言っても、すごく広いので。
加えて、純文学もそれなりに読んではいて、いわゆる文豪の作品もそうですが、現代文学も好きな作家は何人かいて、海外作品に目を通すこともあったんですね。
ラノベも一時期はハマってけっこう読んでたりしました。
それで年間何百冊、というのを10年以上続けてきたわけですよ。
なので、自分でもそれなりに読んでる方だろうと思っていたんですが、Webで書きはじめてびっくり仰天です。
何これ、読んだことないというカルチャーショックの連続。
まあ、ラノベを読んでたと言っても、Web小説の影響力がほとんどなかった時代のものなので、そこが違ってくるのはわかるんですよ。
ただ、一般文芸寄りの作品もなんかよくわからないというか。どういう系譜の作品なんだろう、これはと。
おそらくですけど、Web小説もなんだかんだでもうそれなりに歴史があるので、わたしが知らない系譜というものもあるんでしょう。
わたしは年齢的にはニコニコ世代、ケータイ小説世代と言ってもおかしくないんですが、その時代パソコンもケータイも持ってなかったので、ことネット文化に関してはスマホ登場以後の世代なんですよ。
なので、当然自分が知らない世界はあるだろう、と。
加えて、わたしはなまじ古今東西を問わず読んできたばかりにトレンドに疎いとこがあったんですね。
そこは日々更新していかないとなあと思って、Web小説を研究するようになったんですが――
まあ、これがピンとこない。
自分で書いてても、なんかズレてるなと。
ズレてても自分が楽しめればいいんですが、そこの手応えも微妙でして、なんというか、よくわからないのでなんとなくで書いてる部分が多いんですよ。Webに合わせた部分って。
◆書き方ァ!
これは内容というより書き方の問題? かもしれないです。
「こういう要素があったら受けます」というのがあるじゃないですか。
ここまではわかるんですよ。「たしかに自分ではあんまり書いたことないけど、おもしろいのはわかる」と。
というか、そう思えた要素を取り入れて書くんですが、その書き方ってこれでいいのかなと首をかしげることが多くてですね……
そこは自分なりにアレンジすればいいと思うのですが、それをやると自分の色に染まりすぎるよな、というのもあって、すごく遠慮して書いてたんですよね。
話そのものの見せ方としては、自分の得意分野に持ち込んでトリッキーに持ってくことが多かったんですが、なんかこれも空回りしてるというか、それだけの話になってる気がしたりしなかったりして。
それはやっぱり、それ以外の部分がよくわかってないからだと思うんですよね。作品全体として見たとき、内容と手法が調和しきってないというか。
もしかしたら、そういう部分を楽しんでくれた読者さんもいるかもしれませんが、自分で書いててよくわからない部分なので、そこから発展性がないんですよ。
この方向性でもっとおもしろいものを――と考えても、「いや、どこを伸ばせばいいの?」となるんですよ。
足場がぐらぐらなので、どこにも踏み出せないというか。
なんらかのきっかけで一気に開眼する可能性もあるとは思うのですが、リソース配分としてちょっと割に合わないというか。他にするべきことがあるんじゃないかと。
少なくとも、いったん保留にして原点に戻った方がいいんじゃないかと判断したんですよね。
ただ、「あれ、どっちから来たんだっけ?」となりまして。
もう完全に迷子ですね。知らない道を開拓しようと冒険心を出したのはいいものの、元の道に戻れなくなってしまったという。
そういうこともあって、自分の感覚というものから遠ざかってたのではないかと、ここ数年を振り返って思います。
◆Webでは評価されない項目ですからね
ただ、最近は少しずつむかしの感覚を思い出しつつあるんですよね。
小説で何がしたかったかってところです。
ここ数年は「何ができるか」っていうことばかり考えてたんですけど、それ以前に「何がしたいか」っていうのも大事ですよね。そこが原動力になってきますから。
わたしがやりたいことっていうのは、まあ、たぶんWeb受けはしないです。
もっと言うと、Webに限らず全然一般的じゃないだろうなっていう話が多いです。
おもしろいかどうかは別にして、求められているかいないかで言ったら、ほとんど求められてないものだと思います。
だからこそ、自分で書くしかないんですが――いっそ、純文学を名乗れれば楽かもしれませんね。純文学は一流一派的なとこがあるので。
とにかく、そういう自覚があったので、積極的に新しい要素を取り入れようとしてきたんですが、ちょっとそっちに傾きすぎたかなと。
わたしのモットーは「しなやか」であることで、「自分らしさ」に固執せず、
「自分はこうだから」と決めつけず、それでいてこれまでの経験を活かす形を考えていこうと。
「自分らしさ」というのは、その結果にすぎないと思うんですよね。
ただ、その結果として原点を見失ってしまったと。経験を偏重しすぎたんですよね。そのはじまりの部分を再評価すべきなんじゃないか、という話でした。
ともあれ、Web的(というのも便宜的な表現なんですが)な要素、書き方をまったく捨ててしまうつもりもなくて、苦手とわかったことで開ける道もあると思うので、それも模索していこうかなと。
そもそもが、書き手として、人間として自分がいかに貧しいかってとこで悩んで悩んで、だからこそ、それを主題に物語が作れるようになったのが戸松秋茄子という書き手なわけです。
それと同じように、「Web的じゃない」というのはもう十分悩んだので、それを反転させていければまた新しいものが生まれるんじゃないかと思います。
なので、なんだかんだで必要な回り道ではあったかなあと。
もっと近道できないのかとは常々、思うのですけどね。
それでも非才なりに前進して行ければ、それでいいかなと。
天才には書けないものを書いていきたいところです。
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