第3話 街へ
私とスーヤ、リーラは森の中を歩いていると、泉を発見した。
「あ、水が湧いている」
「本当だ」
「気をつけて。魔物がいるかもしれないわ」
スーヤの声に駆け出した私とリーラは勢いを失ってズッコケそうになる。一応、泉の周りを一周してから泉のほとりに行く。泉から湧き出た水は沢になって他の所に流れているようだ。
「最初に水を汲んでおこう」
私はアンダーの左横の紐に手をやって魔法収納になっている水筒を取り出す。こういうのを魔法空間収納というらしい。スーヤ、リーラも水筒に水を汲む。
「冷たい」
その後、ビキニアーマーを外した3人で泉の中に入って水浴びをする。水を掛け合ったり日光浴をしたりする。しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。遊んだ後は腹ごしらえをして3人は再び街を目指す。スーヤの提案で今度は沢に沿って進む事にした。今は、街に行った事のあるスーヤが頼りだ。
日暮れ前に森を抜け、暗くなる前に夜営の準備をする。マントテントを張り、ゴブリンと化けウサギの肉を焼いて食事する。その後は魔法力を溜め込む作業をする…。
次の朝。マントテントから外に出ると、すっかり陽は高くなっていた。随分とやり過ぎ…寝過ごしたようだ。3人は急いで肉を焼いて食事を済ませる。沢で水を汲み直してから出発する。スーヤによれば、後3泊程かかるらしい。が、毎晩、魔法力を貯めながらだとその倍はかかるだろうと私は思った。水・食糧は問題無いが。
「思っていたよりも遅れていますね」
スーヤは歩きながら言う。沢は既に川になっているが私の想定よりも遅れていた。
「毎晩、魔法力の貯め込み作業をしていれば、こうなるだろう」
私は躊躇いも無く言い返す。スーヤは黙ってしまいリーラは申し訳なさそうにしている。スーヤとリーラの装備や武器は魔法力にとても大きく依拠しており、常に膨大な魔法力を装備から求められているのだ。私の場合は魔法力を必要とするのはビキニアーマー程度で、しかも通常使用では、もう溜め込めないので2人に分けてやっている程だった。因みに『黒石大剣』は「血の契約」をしてある為、魔法力の補充は必要無い。
「でも、もう、街は近いんでしょ?」
「ええ。それは間違い無いですが、このペースだと後2日かかりそうです」
私の問いにスーヤは苦笑いを浮かべながら答えた。それで、また無言になってしまった。
(後、4日かい……)
心の中でツッコミを入れながら黙々と歩く。暫く歩いた所で私は立ち止まった。
「どうしました?」
スーヤは不思議そうに質問する。
「ちょっと嫌な予感がする」
私はそう言うと「抜剣」を命令して『黒石大剣』を手にする。地形は平坦な草地がなだらかな丘陵地帯に変化しつつあった。視界が限られる場所は、敵が待ち伏せている可能性がある。リーラも矢を弓につがえていつでも射られる態勢を取る。
「リーラ、援護して」
「了解」
それを見てスーヤも魔杖の持ち方を変える。そのまま稜線を幾つか超えた所で誰かが戦っている気配がした。私はそっと、稜線から顔を出して辺りを窺う。スーヤとリーラも顔を出す。
私達は、1人の金髪少女がゴブリンの大群と戦っているのを目撃した。善戦しているようだが、多勢に無勢。すっかり取り囲まれていて、このままでは結果が知れている。
「よし、あの娘に加勢するわよ!いーい?」
私の言葉にスーヤとリーラは力強く頷いた。
「では作戦。スーヤは外側の取り巻きを爆裂魔法で駆逐して数を削る。4発は撃てるでしょう?」
スーヤは頷く。
「リーラは魔爆矢で粗削りしてから援護を頼むわ」
「了解」
リーラはニコニコしながら了承する。
「私は大剣で薙ぎ払いながらあの娘を救出する。そしたら、スーヤは残りのゴブリンを打ち漏らしがないように特大爆裂で消しちゃいなさい」
「分かりました」
「よし、やるぞ‼」
オー!
3人は時の声を上げた。
いやああっ!はああっ!
フィーナは美しい金髪ロングを振り乱しながら魔槍をブンブン振り回してゴブリンを華麗に薙ぎ倒す。
「くっ!数が多過ぎる………!」
しかし、フィーナは苦戦していた。もう、魔槍や龍の装備に魔法力は残っていなかった。今や文字通り物理で戦っているのだ。どうやら、ゴブリンの数を見誤ったようだ。
その時だった。
きゃああっ‼
フィーナの身体が宙に浮く。ゴブリンに背後から持ち上げられたのだ。思わず悲鳴を上げる。
「あ、あれを見て!」
リーラが指を差す。そこには、金髪少女がゴブリンに持ち上げられている光景が目飛び込んで来た。
「作戦変更。リーラは上空からあのゴブリンを射って。その直後に私が跳躍で救出。スーヤは、私が脱出したら爆裂魔法でゴブリンどもを消し去って!」
「了解」
「任せて」
リーラは蒼鳥の羽の力を発動して上空に舞い上がる。そして、標的のゴブリンに狙いを定めて矢を放つ。
どすっ!
矢がゴブリンの頭に突き刺さって後ろ向きにゴブリンは倒れる。
「おっと」
その瞬間、私は魔法跳躍で金髪の少女の所に着地して、宙に浮いた所を抱きかかえて再び魔法跳躍で脱出する。フィーナは余りにも突然の事で声すら出ない。
「エクストラファイヤーボンバー‼」
私の脱出を確認したスーヤは超特大爆裂魔法を発動してゴブリンの大群を焼き払う。
ちゅどーーん‼‼
爆裂魔法が炸裂する。撃ち漏らしはリーラに処理を任せる。私はスーヤの側に着地する。程なくしてリーラも上空から舞い戻って来た。
「全部、討ち取ったよ」
「作戦成功ね」
リーラとスーヤは満面の笑みを見せる。
「あなた方は…」
フィーナはやっと話す事ができた。
落ち着いた所で自己紹介をする事にした。金髪の少女はフィーナと名乗り助けてもらった礼を礼儀正しく述べた。私より背丈があってでカワカッコいい、如何にも姫騎士という印象だ。……が、急にフィーナはもじもじし出す。
「魔法力の事かしら?」
私は優しくフィーナに聞く。フィーナは耳まで赤くしてコクンと頷く。
「じゃあ、スーヤ。平らな所にマントテントを張って」
「そうね」
スーヤはどこか嬉しそうに応じた。暫く、街にはたどり着けそうにも無いな。私は諦めの境地と張られたマントテントの中に入った。
つづく
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