私の生命を救ったとして、城に招待も致しましょう!


「まず、持っている回復薬と食料を全部寄越せ? そんなもん、用意を怠った自分たちの責任せいだろー?」


そう言って、連中に向けて広げた右手の親指を折り曲げる。


「次に、治療魔法が使えるならやってくれ? そんなもん、治療師を連れてこなかった自分たちのせいだろー?」


そう言って、人差し指を折り曲げる。


「さらに、馬車が壊れたから目的地まで乗せていけ? そんなもん、ろくに戦えもしない軟弱者のクセに魔物が棲む森を通った自分たちのせいだろー?」


そう言って、中指を折り曲げる。


「そして、自分は高位な立場だから、誰もが平伏ひれふして言う通りにすると思ってる? そんなもん、自分の国以外では通用しないだろー?」


そう言って、薬指を折り曲げる。


「そのすべてに対価を支払わず、私から奪うつもり? そんな要求……誰が聞くか!」

「ふざけるな! 今すぐ馬車から降りろ! そうしたら生命だけは助けてやる‼︎」


騎士が、抜刀したままのきっさきを私に向けたまま、反対側の手で魔導具を投げつけてきた。

それは馬車に張られている結界で消滅した。

聖女のチカラを使った結界が、そんな魔導具で解除できるはずがない。

驚愕の表情に変わったのは、自称・魔物に襲われた被害者たち改め『野盗に堕ちた破落戸ならずものたち』の方だった。


「どう考えても自業自得だろ?」

「待って……! 待って、ください。今までの非礼は伏してお詫びします! ですから、私たちをユーゲリアの国境まで送ってください! お願いします‼︎」

「たった今、馬車を奪おうとして失敗した野盗を、誰が乗せるんですか?」

「でしたら! この方だけでもお乗せください!」


そう言って壊れた馬車の後ろから出てきた年配の男は結界の前で土下座をする。

その横で偉そうに胸を張る若者。

─── ねえ、自分のステータスを確認しないの?


「私は……」

「ユーゲリアの王子シャクヒン、ですよね」

「は、はい! その通りです。私をご存知でしたか! 私を国に連れて行ってくれるなら、ついでに王都までお願いします! 礼ならその時にいくらでも。私の生命を救ったとして、城に招待も致しましょう!」


厚かましいな、じゃないのかよ。

もちろん、国境まででも送る気はないけど。

だいたい、ユーゲリアは方向が真逆だ。


「それのどこが礼だ?」

「え……? 城に客人として、いえ、この私の生命の恩人として滞在が許されるのですよ? 名誉なことだと思いませんか?」

「はあ? のなら、私も偉いんだよね。なんたって、『城の中に特別に造られた白亜の宮殿に昨日まで住んでいた』んだから」


私の言葉に、それまで私を見下みくだしていた全員が青ざめた。

それはそうだろう。

世界は広しといえど、王城内にある白亜の宮殿といえば、ここアノール国の『聖女の宮殿』以外に存在しないのだから。

そこに住めるのは聖女と次代の聖女のみ。

先代は亡くなり、今いる聖女はたった一人……のはず。

侍女が宮殿に入ることができるのは、王城の厨房からの上げ膳据え膳と、起床と就寝の時だけだ。

それは住んでいると言わない。


食事は国王よりも良いものが提供されていた。

宮殿にもキッチンはあったが、包丁などが置かれていなかったのは自害を防ぐためだ。

そのため作れたのはお菓子類だけだった。

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