あまりにも罪名が多すぎる。


「あ、あの、聖女様だと露知らず……」

「知ってたらどうする気だ? シャクヒン」

「あ、私は一応王子なので敬称を」

「シャクヒン。野盗に堕ちた罪人のカシラの名」

「─── え?」


驚いた青年ことシャクヒン。

すぐに自分のステータスを開いて現在の称号を知ったようだ。


「わ、私が……野盗のカシ、ラ……?」

「そりゃあ、そうよね。さっきまでの慇懃無礼な態度は酷いものだったもの。そして、部下に魔導具を投げさせた。止めることもしなかったよね。逆に笑ってた。それは『成功する』と思ったからだよね」

「いえ……! それは」

「違わない。ああ、ついでに言うなら、この馬車は『記録装置付き』だから。アンタらが馬車の前に飛び出して往来を強制的に止めたときからここまでの全記録が現在進行形で残されている。もちろん、野盗に落ちたところも。これ、商人専用で最新式の荷馬車だから。そうそう、他国で罪を犯したら自国の罪も重ねて罪名は二倍になる。って、王子なんだからそれくらい知ってるか」


バンッという音の直後に煙が彼らを覆った。

煙が薄れると、彼らは鉄の鎖でグルグル巻きにされて地面に転がっていた。

口を動かしても声が封じられているから音も出ない。


「そういえば、それって野盗捕縛用装置なんだっけ。家族で移動してた時は起動したことなかったから、私も初めて見た!」


バッシュッという音で、騎士モドキなど数名が全身をのけ反らせて跳ねると、そのまま全身を痙攣させて動かなくなった。

それを見たシャクヒンたちが青ざめる。


「え~っと……なんだったっけ? あ、そうそう。『叛意を持つものは罰を受ける』だっけ。でも叛意って裏切りのことだよね。─── ああ、国に謀反を起こす気だったんだ。だから王子を野盗に堕としたんだね」


誰の返事も反論もでないから、寂しい独り言のようだ。

ピロンッと音が鳴って、ステータスが開いた。

この音は本人以外には聞こえない。


「あ……。賞金首だったんだ」


野盗捕縛用の魔導具が起動して対象者を捕縛した場合、すでに手配書が出回っていればその手配書が捕縛した者のステータスに届く。

手配書がなければ、新規の手配書が自動で作成される。

魔道具には鑑定機能がついているため、どんなに誤魔化そうとしても真実が記載される。

そして騎士モドキたち、気絶した連中は各国で犯罪を繰り返していた『おたずね者』だった。

彼らは問答無用で公開処刑しばり首だ。

あまりにも罪名が多すぎる。

騎士モドキ一人だけでも五十件以上の傷害と八十人以上の殺害、二百件を超える窃盗や強盗などの事件を犯していた。

全員が捕縛された以上、元王子たちは私を襲った事件が初犯だろう。

しかし、罪は罪だ。

立場が高いからと言って、見逃されることはない。

逆に、その高さから重い刑になる。

言っちゃあなんだけど、元聖女に対して罪を犯したんだもんね。


「さて。罪人は私が聖女だとバラすのかな~? でも、そんなことしたら『聖女相手に野盗を働いた』として、さらに罪が重くなるよね~。ユーゲリアだって、ただじゃ済まない。国が滅ぶ程度で済めば良いよね~。まあ、王族全員がしばり首になるかも……」


そう脅したら、意識の残っている連中が青ざめた。

─── これで、元聖女わたしのことは口にしないだろう。

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