死ねば赦されると思っているのですか?


「役に立たない聖女なんかいなくてもいい!」


それが、当代の聖女様が祈りを止めた決定的な理由コトバだ。

罪を問われただけでなく、にそう言われて聖女の立場を奪われた聖女様は、地下牢で三年過ごした。

その三年の間に世界は一変していた。

聖女様を地下に閉じ込めた国王の息子おうじは国家転覆罪か国家騒乱罪で処刑されたのか、一切の記録は残っていない。

それでも当時の記録には『懸想している女性に聖女という称号を与えれば、反対している周りを黙らせて結婚できると思った』と表記されている。

聖女を『神殿の最上位に立つ女性の称号』という認識だったことがうかがえる。


聖女様は地下から出されて、結婚を控えている王太子夫妻のために作られていた王城内の真新しい屋敷を与えられた。

それが今の『聖女の宮殿』だ。

そして、次代の聖女様は聖女を継ぐまで『聖女の宮殿』に幽閉されることになった。

もう一度、聖女としてチカラを貸してほしいと言われた聖女様は誓約を交わした。

これが、国内外の王族や貴族から平民、子供ですら知っている『聖女様との決まりごと』。

─── それを第三王子によって発動されたのだ。


「そこを何とか……」

「『聖女を二度と求めるな』。その誓約を早速破るのですか? 親が親なら子も子ですね。厚顔無恥とはよく言ったものだわ」


私の言葉に顔を赤らめて俯く財務大臣。


「ああ、その罪人たちの取り扱いには注意しなさい。処刑した後の死体をバラバラにして地面に埋めれば大地が腐り、焼却すれば大気が汚染されて未知の病気に感染する。灰を川に流せば腐臭漂う水と化すわ。─── 何を驚いているの? 『神の意に背くもの』が、死ねば赦されると思っているのですか?」

「罪人だと‼︎」


罪人たちは口々に騒ぐ。

しかし、彼らはすでに『この地を滅ぼす』罪人だ。


「静まれ! 陛下の御前おんまえだぞ!」


宰相の言葉に、まだ第三王子の肩書きが活きていると思っている一人以外が口を噤む。


「聖女なんか必要ない! お前は『何もしていない』じゃないか!」

「聖女は祈る度に生命を削られる。聖女を否定するということは、歴代の聖女様が自らの生命をかけて大地に与えてきた恵みを否定するということ。歴代の聖女様の恵みを否定した以上、恵みは消える。私たち聖女はこの国の謂わば生け贄。だからこそ、この宮殿内で

「そ……。知らない! そんなこと聞いたことはない!」

「そんなはずはない! 王族は二度と同じ過ちを繰り返させないため、この聖女の宮殿には許可なく入ることは許されておらぬ!」


国王が我を忘れて声を荒げる。

しかし、彼らが何と言おうと決定は覆らない。


「すでに神はあなた方を見捨てました。ごらんなさい。聖石は崩れ去りました。各地に置かれた聖石も同じく崩れ去ったでしょう。あなた方も、この国も、この大陸も。二度と聖女を求めることは叶いません」


倒された聖石はすでに黒ずんだ砂と化していた。

────── 聖石は失われた。

『聖女となれる者』が現れたとしても、二度と聖女にはなれない。

神に認められて聖女のチカラを与えられて、初めて聖女になれるのだから。


「さあ、私の話はここまでです。私はすでにこの国とは無関係ですから、この先は皆さんで頑張ってくださいね。─── たとえ、その先が『滅びの道』に続いているとしても。そう導いたのは、彼らではない。彼らを育ててきたあなた方ですよ」

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