第17話 リンと初めてのMPK その3 『悪夢の始まり』
さっきよりも、犬の遠吠えがハッキリと聞こえた。シュガー同盟の四人は、ドンドン大きくなる地響きに何事かと通路の入り口を見ると……何かが通路から、のそっと姿を現した。
「ん? なんだアレは?」
「コボルトではないでござる。犬でござるか?」
「なんで犬がダンジョンにいるの? あれ? あの犬……なんか変じゃない?」
「なんか犬というか……やけに角張っているような?」
一体あれは何だと四人が疑問を口にした瞬間、のそのそと歩いていた犬っぽい何かが、猛然と四人の佐藤へ向かって駆け出した。すると大きな地響きが広場の中へと雪崩込んできた。
「なっ⁈」「えっ!」「はっ?」「ひっ!」
広場に雪崩れ混んだものを見た瞬間――四人の佐藤は言葉を失い、顔を青くしてしまう。
ガチャガチャと、およそ生き物が鳴らすとは思えない重厚な足音を立てながら、犬(?)みたいな何かが……数えきれないほど大量のモンスターを引き連れて駆けて来た!
「な、なんなのアレ?」
「イベントでござるか⁈」
「こちらに向かって来ていますよ!」
「なんだ、あのモンスターの大群は⁈」
シュガー同盟の四人が驚愕の表情を浮かべ固まっている間にも、ドンドン迫り来る謎の大群……それはリンの召喚した愛犬コタロウと、ヘイトスキルでダンジョン内のモンスターを『コレでもか!』と引きつけてトレインしてきた、モンスターの
そして十秒と待たずに、瞬足のコタロウがシュガー同盟の前へ走り出ると――
「わお〜ん」
――と、まるで『これあげる〜』と言いたげな声でコタロウが吠え、シュガー同盟の足元を素早く駆け抜けていった。
「グオ〜ン」
と、モンスターの大群は雄叫びを上げながら、シュガー同盟を無視してコタロウのあとを追いかける。そして群が四人を取り囲むような位置どりになった瞬間だった。
「リン、いまよ!」
「うん! コタロウ『
リンを守りながら、モンスターを牽制していたハルカが合図を送ると、あらかじめ開いておいた召喚メニューから、召喚解除のボタンをリンはタップする。
するとシュガー同盟の目の前を走り去ったコタロウは、突如として、まばゆい光りを放ち、愛犬はその場から一瞬にして消え失せてしまった。
「な、犬が!」
「待つでござる、これってまさか⁈」
「ヤバいよ、モンスターのタゲが!」
「モンスターを
足元を通り過ぎたコタロウが視界から消えた瞬間、血の涙を流さんばかりの形相で走っていたモンスターが
その数、百を超えるモンスターに四方を囲まれ、逃げ場を失ったシュガー同盟の四人……やがて近くにいたモンスターが失ったターゲットの代わりに、すぐ目の前に現れた新たなる敵をロックオンする。
すると右へ習えとばかりに、次々と四人を取り囲むモンスターのターゲットが変わってゆく。
「マズイでござる。この数で一斉に攻撃されたら、一匹あたりのダメージは少なくても……総ダメージで死ぬかもでごさる!」
「ちょっと待ってよ。このゲーム、死んだら現レベルで稼いだ経験値の五十%がなくなるんだよ⁈ 二週間掛けて稼いだ経験値がパーだよ、パー、逃げよう!」
「どうやって逃げるのですか⁈ ここまで囲まれたらモンスターが壁となって逃げられません。それより煙玉で隠れて、やり過ごしましょう!」
「馬鹿野郎! 煙玉は一度使えば、十分間は再使用できない。さっき使ったばかりだから、しばらくは使えん。落ち着け!」
MPKギルド、シュガー同盟のリーダーである
「タンク佐藤は、防御に専念しつつタゲを取りまくれ」
「わかった。【
リーダーの声に反応して、タンク佐藤が周りのモンスターのヘイトを稼ぎ、ターゲットを強制的に自分に向けさせる挑発スキルを使う。
「ヒーラー佐藤は、
「う、うん。【プロテクション】」
ヒーラーがタンクに防御力向上の支援魔法を唱えると、いつでも回復ができるよう【ヒール】魔法の準備に入る。
「スカウト佐藤は俺の援護に回れ! 一点突破で、このモンスターの包囲から抜け出すぞ」
「任せろでござる」
アタッカー佐藤が背負っていた大剣を引き抜くと同時に、スカウト佐藤が手にしたダガーをタンクの前に群がるコボルトの一匹に投げつける。牽制の一撃にコボルトが怯んだ隙に、アタッカーがタンクの前に飛び込み剣を一閃した。
すると体を頭から両断されたコボルトが、まっぷたつになりながら地面に倒れ伏すと、ドロップアイテムを撒き散らし遺体が消えてしまう。
「MPKギルドがMPKされたなんて、いい笑いものだぞ! こんなことがネットで知れ渡ったら……全滅だけは絶対に避けるぞ!」
「ええ!」
「ここで死んだら経験値が……死んでたまるか!」
「やってやるでござる」
アタッカー佐藤の的確な指示の元、混乱から抜けだしたシュガー同盟の四人は、出口を求めてモンスターの群れへと挑み掛かる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし! タゲは完全にアッチに移ったわね。リン、コタロウとクマ吉を再召喚して! 時間を稼ぐわ」
リンの返事を待たずに、後ろから追いかけてくる三十を超えるモンスターの群れに、ハルカが踵を返して飛び込んで行く。
「うん! はーちゃん、気をつけてね」
リンが振り返り返事をすると、すでにハルカが先頭を走るコボルトに向かって、愛銃の二丁拳銃・デザートイーグルのグリップ部分を叩き込んでいた。
リンは立ち止まると、素早く目の前に表示していたメニューから召喚アイコンをタップすると、目の前に光り輝く魔方陣が現れた。
「【
リンの声に反応して魔方陣がひときわ
「わお〜ん♪」
「くっま〜♪」
――鋼鉄の体をもつ二匹の獣が、魔方陣の中から勢いよく飛び出した。
ズシーンと大地を響かせて降り立った二匹が、リンを護るように立ち上がる。
「コタロウ、【吠える】を使って、モンスターのターゲットをはーちゃんから引き剥がして、クマ吉は私を守ってね」
「わん!」
「くま〜!」
リンの指示に従い、二匹がすぐさま行動に移る。
「ワオーン!」
コタロウがモンスターの一団に向かって吠えると、ハルカに群がるコボルトやバットが『ついに見つけたぞ! 家族の仇ぃぃっ!』という形相を浮かべコタロウに殺到する。
「おっ! 来たきた♪ コタロウそいつらを倒したらダメだからね」
「わん」
『任せて〜』と吠えるコタロウは、迫り来るモンスター達の足元を素早く駆け抜けて行く。
「リン、次よ」
「は〜い、コタロウ! ほらほら〜、ボールだよ〜♪」
リンが手に白いボールみたいな何かを手に持ち、頭上でブンブン振ると、コタロウが『遊ぶ? 遊ぶの⁈』と、目のカメラレンズを点滅させて鋼鉄の尻尾をフリフリする。
偶然、尻尾に噛みつこうとした一匹のコボルトに鋼鉄の尻尾が叩き込まれ、痛みで地面をのたうち回っていた。
「いい? コタロウ、いくよ〜。はい、はーちゃんお願い!」
白いボールをハルカに向かって、リンが下手投げでポーンと放ると、ハルカが愛銃を腰のホルスターに素早く収め、両手でナイスキャッチする。
「ほい、きた♪ さあ、コタロウ拾いに行きなさい!」
ボールを頭上高く大きく振りかぶったハルカは、片足を大きく上げると、そのまま踏み出しボールを投げる!
「コタロウ、GOだよ!」
「わん♪」
リンの合図と共に、コタロウが投げ出されたボールを無邪気に追いかけて爆走する。モンスターに囲まれたシュガー同盟の面々に向かって! 当然、コタロウの後ろには、鬼の形相を浮かべたモンスターの一団が追走していることはいうまでもなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし、もう少しで包囲を突破できるでござる」
「クッ、HPがギリギリですよ」
「早くしないと、もうMPが尽きちゃう。経験値ロストだけは絶対に嫌だからね」
「もう少しだけ耐えろ、あと少しだ」
百を超えるモンスターの一団に囲まれ、絶体絶命に陥るシュガー同盟の四人……数の暴力を前にして、リーダーのアタッカー佐藤は、回復と防御に徹しモンスターの包囲網を一点突破により抜け出そうとしていた。
MPKを仕掛ける側として、当然ながら切り抜け方も熟知している。まさか自分たちが逆にMPKされるなんて思いもしなかった。しかし混乱する仲間を、アタッカー佐藤は的確な指示でまとめ上げ、耐え抜いた。
「パワースラッシュ! よし、穴が空いたぞ。入り口まで走れ!」
「急ぐでござる」
「やった、助かった」
「急いでください」
ついに包囲網に穴が開き、シュガー同盟の四人の前に、広間から抜け出す出口への通路が見えた。そして四人が我先にと、逃げ出そうとしたそのときだった!
ポッカリと空いた空間に『ポ〜ン』と白いボールが投げ込まれ、何度か地面をバウンドする。するとそれは地面を転がり続け……やがてその動きを完全に止めて静止してしまう。
逃げ道のど真ん中に、突如として謎のボールが投げ込まれた。何が起こったのか理解できないシュガー同盟の四人は、頭上にハテナマークを出しながらキョトンとしていた。
「なんだあのボールは?」
アタッカー佐藤がそう呟いた瞬間――
「わお〜ん」
――横から飛び出してきたコタロウが、すごい勢いでボールに食らいついた!
「あ、あれはさっきの変な犬⁈」
「あれは何をしているでござるか……え?」
「え、ええ、出口が!」
「なっ、も、も、モンスターが!」
MPKギルド『シュガー同盟』の前に……
…… To be continued 『新機能』
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