第11話 超難問、コタロウクイズ開幕!
「え? こ、コタロウ? あなたコタロウなの……い、犬だよね?」
「ご主人……どこからどう見ても、犬ではないか!」
「イヤイヤイヤイヤイヤ! どっからどう見ても犬じゃないから! 犬がそんな滑らかな二足歩行なんてしないから! そもそも人の言葉を喋っている時点で、犬の定義から逸脱しちゃてるからね!」
リンとハルカの前に、コタロウを名乗る謎の二足歩行ロボットが立っていた。
犬の顔だった部分は兜になり、大きく開けた口から人型の顔が覗いている。頭は大きく、四頭身の姿で短い手足をワチャワチャと動かしていた。その動きはどこかコミカルで、アニメやゲームに出てくるSDキャラを連想させる。
コタロウの体を覆っていた鋼鉄の装甲も、西洋鎧風に変わっていた。剣と盾を持つその出立ちは、まるで物語の中から出てきた騎士のようだった。
「ハルカか……相変わらずツッコミがうるさい奴だな」
鋼鉄の口を開き、渋いおっさん声で話しだす。
「私がツッコミを入れるのはアンタだけよ! 生きてた時もおかしな犬だと思っていたけど、輪をかけておかしな存在になっているわ。リンから離れなさい。リンに近づいたら撃ち殺すわよ」
庇うようにリンの前に立つハルカは、手に持ったデザートイーグルの銃口をコタロウの向けていた。
「ほう、この世界には銃も存在するのか……興味深い」
「この世界ってなに?」
「……何でもない。それでご主人、怪我はないか?」
コタロウは、ハルカの質問を無視して、リンの元まで歩いていくと……足元で『お座り』する。
「う、うん。コタロウが助けてくれたおかげで、怪我はないよ」
「そうか。怪我がなくてなによりだ。それにしてもレベル上げの最中に強敵が出現するとは……だがこれからは私がいる。どんな敵からも、ご主人を守るが犬の役目。これからは大船に乗った気でいてくれて構わないぞ」
「うん。コタロウありがとう」
「フッ、ご主人の喜びこそ私の喜び、今後も誠心誠意を尽くしお守りすると、ここに誓おう。よろしく頼む」
コタロウは胸を張り誓いを立てる。リンは愛犬の思いを受け入れ、頭を撫でようと手を伸ばすと、騎士はその手を取り、片膝を突くと手の甲へと口づけした。
「はえ〜、コタロウ、お話の中に出てくる騎士みたいだね」
「ふむ、騎士みたいではなく騎士なのだがな。まあなんにせよ、よろしくお願いする」
コタロウは嬉しそうに笑い、なぜか誇らしげな顔をしていた。
「よろしくねコタロウ♪」
リンも笑顔で答えると――
「待って待って待って待って待って! ナチュラルに仲間になっているけど、色々と端折りすぎてるから! 怪し過ぎるから! そもそもソイツが私達の知っているコタロウだとは限らないのよリン!」
――再びハルカのツッコミが入った。
無防備な笑顔を浮かべるリンと、怪しいロボットの間にハルカが入り込み、銃を構えてリンの壁となる。
「え? はーちゃん、どういうこと?」
「む? なにを? 私はコタロウだぞ? 忘れたのかハルカ?」
「いやいやいや! 忘れたも何も、アンタなんか知らないわよ。少なくとも私の知っているコタロウは、鋼鉄ボディーで流暢に会話しながら、手の甲にキスするような騎士じゃなかったわ」
「はーちゃん」
「リンは黙ってて! それに……もしかしたらコイツ、コタロウの名を偽った変態かも知れないのよ」
「変態⁈ コタロウが?」
「そう! 実はコタロウの名前を
「はい、はーちゃん先生! チートッてなんですか?」
リンの質問に、いつもなら老人モードで語るハルカだったが、今はそんな余裕などなかった。
「英語だと『騙す』とか『欺く』って意味だけど、ゲームだと不正にデーターを改竄したり、バグやシステムの欠陥を突いてゲームを自分が有利になるようにズルする行為よ。厳密には不正行為を広い意味で指す言葉だから、定義は曖昧だけど……コイツは真っ黒よ」
ハルカは、『ビシッ』とコタロウを指差した。
「真っ黒? はーちゃん……コタロウは銀色だよ?」
「リン……物理的に黒いわけじゃないからね! コイツがコタロウの名を語った変質者で、私たちに近づくために、演技している可能性があるってことよ」
「ええ、コタロウが変質者⁈」
「そうよ。邪な欲望を満たすため、うら若き女子高生に犬と言うステータスで近づき、私たちの秘密を探る。そしてそれを元に、リアルで……あんな事やそんな事をやろうと夢見る、変態かもしれないわ」
「は、はーちゃん先生! あんな事やそんな事って……まさか!」
「リン、分かったようね。コイツは私たちに
リンはハルカの後ろに隠れ、コタロウを悲しい目で見る。
「コタロウの中の人……無言電話やピンポンダッシュは、イケナイ事です。やめてください」
「リン、違う! そのイタズラと私のいう悪戯は。同じ読みでも中身が違うから! 私がいっているのはイヤらしい事をする、邪な行為の方だからね」
「え〜、コタロウが?」
「いやコタロウがじゃなくて、コタロウを
ハルカは銃口を向けたまま、怪しい者を見る冷ややか視線をコタロウに送る。騎士はどうしたものかと首を傾げ腕を組みながら考え込む。すると……。
「ふむ、つまり私が、コタロウだと証明すれば問題はないのだな?」
「どういう意味?」
「ご主人、私に関する質問を頼む。それに答えられれば、本物とわかってもらえるだろう」
「いいわよ。じゃあリンの質問に答えられたら、アンタをコタロウとして認めてあげるわ」
「コタロウクイズだね! 私のクイズは難しいよ〜。果たして答えられるかな」
「リン……クイズじゃないから! ちゃんとコタロウしか、わからないような質問をしてね」
「うむ、ご主人……相変わらずのようで安心した」
コタロウは二人のやり取りを見て、犬として生きていた頃を懐かしんでいた。
「じゃあ、さっそく問題! コタロウが大好きで、毎日一緒にやっていた日課があります。それはなんでしょ〜」
「ふむ。それは風呂だな。風呂はいい。戦場の疲れを忘れてさせてくれる心のオアシスだ」
「正解! でも戦場って?」
「気にするなご主人。さあ、これで私がコタロウと信じてくれたか?」
「まだよ。リン、次の質問よ」
「うん。これはわかるかな〜? 問題! コタロウが大好きだったドッグフードの味は、ズバリなに?」
「フッ、我の好物、それは……麻婆豆腐味だ! あの辛味が堪らん。人生に刺激はつきもの、ピリッとした辛味が身も心も引き締めてくれる」
「正解! コタロウ、麻婆豆腐味は好きだったよね〜、一度ドッグフードじゃなくて、本当に麻婆豆腐を食べさせたら大変だったよ〜」
「うむ。まさか犬が麻婆豆腐を食べられないとは私も知らなかった。長い人生……いや犬生で食べ物で死にかけたのは一度や二度ではないが、あの時は辛かった。貧血と下痢で脱水症状になり死にかけたからな」
「うん、うん。あの時は、私も犬はネギがダメだって知らなくて、大変だったよ」
「いやリン、飼い主なんだから、犬のことを調べてからエサをあげようよ……」
「ふむ、まあなんにせよ、これで私が本物のコタロウと信じてもらうたかな?」
「いいえ、まだ信じられないわ。そもそも死んだ犬が、なんでゲームの中でロボットに生まれ変わっているのよ。信じられないわ」
「う〜む。どうすれば信じてもらえるか……そうだ。ハルカ少し耳を貸すがよい」
「はあ? なんで私が、アンタに耳を貸さなきゃならないのよ?」
「よいのか? リンに聞かれても? 私は構わんが後悔するぞ?」
意味深なコタロウの言葉に、ハルカは怪訝な表情を浮かべ、仕方なく屈んでコタロウに耳を貸す。
コタロウは手をハルカの耳に当て、『ゴショゴショ』と内緒話をはじめた。
「リンがいないのをいい事に……リンの部屋で……ベッ……上……していただろう」
「ヒッ! どうしてそれを! それを知っているのはあの時、その場にいたコタロウだけのはず!」
ハルカが『バッ!』と立ち上がりあとずさると、コタロウの目は怪しい光を放つ。
「フッ、犬だからと油断したな? 私はバッチリ見ていたぞ。お前がリンの『バン! バン!』グハッ! 何をする!」
ハルカは顔を赤く染めながら、手にした銃のトリガーを引き、コタロウに銃弾を撃ち込んでいた。
「うっさい! 黙れ、この変態犬! それ以上喋ったら撃ち殺すわよ!」
「イツツッ、いくら鋼鉄のボディーだとしても至近距離でマグナム弾を撃ち込むんじゃない! 跳弾して、ご主人に当たったらどうするつもりだ!」
残り少ない銃弾を、容赦なくコタロウに撃ち込むハルカ……珍しく焦りの声を出していることに、リンは気づいた。
「はーちゃん、コタロウ、ケンカはダメ! みんな仲良くだよ!」
「……」
「ご主人、私は別にケンカするつもりはないのだがな……」
「はーちゃん、コタロウ……」
無言のハルカと言い訳するコタロウに、リンが悲しそうな目で名前を口にする。
「ごめん……少しやり過ぎた。アンタをコタロウだと認めるわ」
「すまん……少し言いすぎた。さっきの話は、もう二度と話さない。騎士の誇りにかけて誓おう」
素直に謝ってくれた二人に、リンが嬉しそうに満遍の笑みを浮かべる。
「じゃあ、二人とも仲直り♪」
リンが笑顔で二人の手を取り、三人で握手する。
二人はリンの笑顔に釣られ暗かった表情を、明るい笑顔に変えていた。
「仲直りできて良かった〜」
ニコニコ顔のリンは、あらためて三人で話し合うことにした。
「それにしてもコタロウ……なんでゲームの世界で、ロボットになっているの?」
リンが唐突の質問にコタロウは……。
「うむ……ご主人、実は私もよく覚えていないのだ。犬として生きていた記憶はあるのだが……気付いたらリンに召喚されていた。騎士だった時の記憶はまったくない」
「犬の記憶あるのに、騎士の記憶はないの?」
「まるでなにかすっぽり抜け落ちたみたいに、生前の犬としての記憶しかないのだ。だが不思議と騎士としてどうすれば良いのかは、身体が覚えているようだ」
「は〜ちゃん、不思議なこともあるもんだね」
「いや、リン……不思議の一言で済む問題じゃ」
リンに注意を促そうとしたハルカだが、リンの嬉しそうな顔を見ていたら、それ以上なにも言えなくなってしまう。とりあえずハルカは問題を棚上げすることに決めた。
「まあいいか……真実は小説より奇なりっていうし、リンが納得しているならそれでいいわ」
「まあ、記憶を失くしていても、やることは変わらん。ご主人を守る! それが私の使命だからな」
『ガンッ!』と、コタロウは自分の胸を叩くと、甲高い音が周りに響いていた。
「それにしても、ロボットか〜。犬の時ですら違和感が凄かったけど、人型ロボットになると、もう完全にファンタジーのファの字もないわね」
「私は別に気にならないかな? コタロウとお話しできて、うれしいから!」
「ご主人にらこんなに喜んでもらえるとは、騎士冥利に尽きるというもの。その笑顔を決して絶やさぬと、ここに新たに誓おう!」
「まあなんにしても、人型ロボットのことは極力内緒にしときたいわね。バレるとうるさい連中が根掘り葉掘り聞いてきて、面倒事に巻き込まれそうだから……コタロウ、あんた犬に戻れないの?」
「うむ。戻れはする」
「お? じゃあ基本は犬型でいてよ」
「よかろう。私もご主人が困るところを、見たいわけではないからな」
「え〜、はーちゃん、私、コタロウとお話ししたいよ〜」
「他のプレイヤーがいない場所なら、いくらでも話していいけど、街中や近くのフィールドでは止めておいた方がいいわ。どこに人の目と耳があるか、わからないからね」
「うむ。ご主人、それでは犬型にチェンジしよう。あと私は犬型になると獣の本能が強く出てしまうので、注意してほしい」
「どういうこと?」
「つまり人型の知性がなくなり、野生の動物と変わらない思考しかできなくなると言うことだ。危ない状況になっても、すぐさま人型にチェンジして、ご主人を守れないかも知れん。覚えておいてくれ」
「うん。わかった」
「よし。では、『チェンジビースト!』」
コタロウは声を上げながらジャンプすると、すると人型からフォルムを瞬時に変え、元の犬型ロボットへと変形する。
「わん!」
ひと声鳴くと、リンの前でお腹を見せてコタロウは横たわり……リンにお腹を撫でてと、おねだりモードに入っていた。
さっきまでの騎士の凛々しい姿から一転……完全に犬と化したコタロウに、リンはお腹をなでながら苦笑する。
「とりあえず、クマのドロップアイテムを拾ってステータスを確認しよっか? フィールドボスを倒したから経験値がドッサリのはずだしね」
「は〜い……ドロップは三つだね。ファイヤーベアーの爪と皮、それと肉だってはーちゃん」
「ボスのドロップアイテムだから、あとで詳しく調べて、どうするか決めよう。ステータスはどう? レベルが上がって新しいスキルは増えた?」
「待って〜、いま見てみるね」
名前 リン
職業 召喚士 LV 6
HP 75/75
MP 65/65
STR 1
VIT 1
AGI 1
DEX 1
INT 1
LUK 71
ステータスポイント残り20
所持スキル ペット召喚【犬】
機獣召喚 【ファイヤーベアー】
「あっ! はーちゃん、新しい召喚魔法を覚えたよ」
リンの所持スキルに、新たなる仲間が加わっていた。
…… To be continued 『クマの世界はホワイト企業』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます