第12話 クマの世界はホワイト企業?
「はーちゃん、コタロウ、見ててね」
「リン、がんばれ〜♪」
「わん♪」
「いっくよ〜♪ 機獣召喚! ファイヤーベアー!」
リンの声と共に、足元に光り輝く魔方陣が浮かび、中から巨大なクマが迫り上がる。
赤い身体のクマは、先ほどリンたちと戦ったクマに姿形が酷似していた。ある一点を除けば紛れまもなく、フィールドボスであるファイヤーベアーであった。
「ふぇ〜、大っきいね」
「わう」
「スキル名からして予想はしてたけど、もう驚かないわ」
そこには、赤茶色の鋼鉄に身を包む、巨大な熊型のロボットが……魔方陣の中で、ゴロゴロと寝そべっていた。
「ん〜、やっぱり、この子もロボットだ」
「わん」
「なんか家でくつろいで、ゴロゴロしてたところを、ムリやり召喚した感じね」
リンたちの声に反応して、のそりと気だるそうに声の聞こえた方へクマは顔を向けと――
「クマ〜? ク、クマァァァァァ!」
――とつぜん現れた少女たちに、目のカメラを文字通り白黒点滅させ、クマは慌てふためく。
鋼鉄のクマは、すぐさま起き上がり両手を頭上に掲げると……リンたちの前で、勇ましく吼えた!
「グオォォォォ!」
「いやいやいやいやいや! 今、あんた、「クマ〜」て可愛らしく声を出していたでしょう! 完全にくつろいでたよね⁈ 目の前で立ち上がって『グオォォォォ!』とか吼えて、カッコつけられてもコメントに困るから!」
「ク、クマ〜」
やってしまったと言いたげに、クマは目を青く点滅させ、
「は、はーちゃん、この子も急に召喚されて、準備できてなかったんだよ。あんまり責めちゃダメ。いきなり呼び出しちゃってごめんね。クマさんにだって、プライベートはあるもんね」
「いや、召喚獣にプライベートッて……」
「はーちゃんダメだよ。お父さんがよく『仕事とプライベートは別だ。休みの日に、出社を強要する会社はブラックだ〜!』って、言ってたよ」
「リン……クマに、仕事もプライベートもないと思うけど」
「え〜、そんなことないよねクマさん?」
「クマクマ」
リンの問いに、鋼鉄のクマは『ウン、ウン』と、何度もうなずいて答える。
「でも困ったな〜、これからクマさんを召喚する時、どうしようか? 電話とかで連絡して、都合を聞ければいいけど……」
「クマ!」
何かを思いつき『ガン! ガン!』と、お腹を叩くクマ……するとお腹の装甲が前に開き、カンガルーみたいな格好になる。
そして某猫型ロボットのポケットのように、クマは開いた空間に手を入れガサゴソすると――
「くっまくま〜!」
――お腹の中から取り出した物を高らかに上げリンに見せる。その手に握られていたのは、クマの形をしたスマートフォンだった。
「あっ、可愛いスマホだね♪ これで連絡すればいいの?」
「くまくま」
クマはうなずきながらスマホを操作し、リンにフレンド登録の申請を出す。
「フレンド登録の申請が来たよ。え〜と、あなたの名前はクマ吉っていうんだね」
「くま♪」
「うん。フレンド登録したよ。これからはこれで連絡して召喚するね。よろしくクマ吉♪」
「くま〜♪」
「いやいやいやいや! リン! ナチュラルにフレンド登録しないで! 色々おかしいから! どこの世界に召喚獣がスマホを持っていて、召喚する前にアポを取らなきゃいけないクマがいるのよ!」
「やだな〜、はーちゃん……ここにいるよ?」
「わん?」
コタロウも『ここにいるよ?』と言いたげに吠える。
「待って! まるで私がおかしいみたいな雰囲気になっているけど、私が正常なんだからね! リン目を覚まして!」
「もう、はーちゃん……私はとっくに起きてるよ?」
「いや、リン、物理的な話はしていないからね! ああ、もう頭痛くなってきた……」
コメカミに手を当てて揉みほぐすハルカ……とりあえずはリンに危害を及ぼす存在ではないと考え、コタロウの時と同じく棚上げして話を進めることにした。
「ところでリン、いまクマ吉を召喚して、MPはいくつ消費した?」
メニュー画面を操作して確認するリンの周りを、クマ吉とコタロウは駆け回る。
名前 リン
職業 召喚士 LV 6
HP 75/75
MP 35/65
STR 1
VIT 1 (+240)
AGI 1
DEX 1
INT 1
LUK 71
ステータスポイント残り20
所持スキル ペット召喚【犬】
機獣召喚 【ファイヤーベアー】
「んと〜、MPは30消費しているよ」
「一回の召喚にMP消費が30だとすると戦闘中に二回は呼び出せるわね。リンの場合、召喚獣がキモだから、MPが空っぽになった緊急時用に、MP回復アイテムを早めに手に入れておかないとね」
「MP回復アイテムか〜、はーちゃん、なんかゲームみたいだね♪」
「いや、リン、みたいじゃなくて……ゲームだからね!」
「あははは、そうだった。現実と区別がつかなくて、忘れてたよ」
乾いた笑いで恥ずかしさを隠すリンを見て、ハルカはホッコリしていた。
「MP回復アイテムッて、どこで手に入れればいいの?」
「ん〜、たぶん魔物を倒した時にドロップするか、町のNPCが販売しているか、あとは……プレイヤーが作成したのを取引で買うかのどれかかな?」
「まあ大抵のゲームに出てくるMP回復アイテムは、少し高めの値段設定だから、いまの私たちじゃ買えないわね……所持金0だし!」
「じゃあ、みんなでいっぱいお金を稼がないとだね。みんな、がんばろう♪」
「わん♪」
「くま〜♪」
するとリンの周りを、再び二匹はクルクルと楽しそうに駆けまわる。
「じゃあ、今日はこのままクマ吉を加えて、レベル上げしながらクエストをクリアーしよっか?」
「うん! ガンバルよ〜!」
「その前にレベルが上がったし、ステータスポイントを振っちゃおっか。リンはどうする? LUK以外に振るのもオススメだけど……」
「ん〜、どうしようかな? 攻撃はコタロウとクマ吉に任せればいいし、防御はこの指輪のおかげで攻撃が当たっても平気だし」
「VIT240は反則よ。リンの場合、LUKを上げるのもありかもね。攻撃力の低さを、クリティカル攻撃で補う手もあるし」
「そうだな〜、ん〜、コタロウとクマ吉はどれをあげたらいいと思う?」
ご主人様の周りを
「わん!」
「くま!」
二匹は共にLUKを指し示していた。
「みんなLUKか〜、じゃあLUKに全部振っちゃおう」
名前 リン
職業 召喚士 LV 6
HP 75/75
MP 35/65
STR 1
VIT 1 (+240)
AGI 1
DEX 1
INT 1
LUK 91
ステータスポイント残り0
所持スキル ペット召喚【犬】
機獣召喚 【ファイヤーベアー】
「全部LUKに振って、91まで上げたよ」
「クリティカル率45.5%か……約二回に一回はクリティカルが期待できる確率ね。もう召喚士のステータスじゃないわ」
「クリティカルをバシバシ出して、敵を倒すよ〜」
初心者の短剣を手に素振りするリン……その重さに、手から落としそうになっていた。
「私もステ振りしちゃおうっと……こんなもんかな?」
名前 ハルカ
職業 ガンナー LV 6
HP 135/135
MP 28/28
STR 37 (+10)
VIT 1
AGI 50
DEX 11(+15)
INT 1
LUK 1
ステータスポイント残り0
所持スキル 銃打
弾丸作成
精密射撃
「リンみたく特化するより、攻撃と防御もバランス良くしとかないと、リンを守れないからね」
「はーちゃん、いつもすまないね〜」
「ふふ、いいってことよ。さあクマ吉も仲間になったことだし、レベル上げしながら、クエストをクリアーしよう」
「お〜う!」
「わう!」
「くま!」
かくして、新たなる仲間? を加えたリン達は、時間いっぱいまでゲームを楽しむのであった。
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