エピローグ

エピローグ

 あれから妙によそよそしい感じになった皇さんと、何故か俺に鋭い視線を投げかける凪。俺自身には何の心当たりもないので、どう対処していいか迷う。とりあえず次のステージのために舞台を空けなければならないので、取り急ぎクラスメイト達と一緒に片付けのために奔走したのだが、これはあくまで問題の先送りでしかない。片付けが済んでから、それとなく本人達に事情を伺おうと試みたが、「別に」の一言で一刀両断。それでも俺の側を離れる訳でもないので、どうしたものかと悩んでいると、掲示板に貼られている後夜祭の案内が目に付いた。


「後夜祭か~。中学の時はそんなのなかったし、興味はあるな」


 あえて言葉に出すことで、二人の様子を見る。すると二人も、ポスターに目をやり、内容を読み出した。


「キャンプファイヤーにフォークダンス、後は有志によるライブが少々か。今時随分古典的な中身だね」

「ライブの方は一応プロのアーティストも呼んでるっぽいな。あたしは興味ないけど、あれだ。KitTokキットトックとかで割りと有名なやつ」


 噂では、星陵祭実行委員会が生徒会の人達と一緒になって、火の扱いを可能にするために随分と奔走したのだとか。なのでキャンプファイヤーが行われるのは数年ぶり。実際にどうなるかはわからないものの、生徒会も星陵祭実行委員会も後夜祭を盛り上げるために一生懸命だったのだろう。星陵祭は後一日残っているので、後夜祭が開催されるのは明日の夜。参加不参加は自由なので、俺としては二人の予定を確認しておきたいところだ。


「俺は参加してみようと思ってるんだけど、二人はどうする? 不参加なら、前もって夕飯の準備しておくけど」


 別行動なら、大きく帰宅時間が変わる訳だから、この点は重要である。


「亮輔君が行くなら、当然私も行くよ。後夜祭で変な虫がついても嫌だし」

「あ、あたしも行くぞ!」


 どうやら二人とも参加の予定らしい。が、皇さんの言う「変な虫」とは何のことだろうか。


 と、その時。俺達に近づいてくる女性徒がいることに気がつく。こう言うのをマニッシュというのだろうか。凪ともまた違う、女性なのにどこか男性然としたたたずまい。背景に常に薔薇を咲かせていそうなその女生徒は、開口一番にこう言った。


「ああ、いたいた。朝霧亮輔くん」


 落ち着いた紳士を思わせるような口調。しかし胸元のリボンの色を見るに、相手は同じ一年生だ。その顔を見て、俺は驚いた。話をしたことがある訳ではないが、彼女のことは俺でも知っている。と言うより、この学校に彼女のことを知らない人物などいないだろう。


「突然話しかけてごめんね。始めまして、僕は天王寺てんのうじとおる。君と同じ一年で、演劇部所属だよ」


 天王寺透。演劇部に突如現れた天才と言われている人物だ。まだ入部して日が浅いので実際の公演に出たのは数回との話だが、男性役としての素質を見込まれ、既に主役まで演じているとか。女性の間ではそれがとても人気にんきで、「王子君」などというあだ名で呼ばれているとの話を聞いたことがある。


「はぁ、わざわざご丁寧に。それにしても、よく俺の名前を知ってたね?」

「いや。さっきの君のクラスの舞台を見てね。すぐさま調べさせてもらったんだ」

「ああ~、見てたんだ。演劇部の人から見たら、俺の演技なんて酷いものだったよね。たぶん」


 自分がどんな演技をしていたのかわかっていないほどだ。精一杯がんばってはみたものの、その筋の人から見れば、素人しろうと丸出しのダメ演技だったに違いない。


「そんなことないよ! 僕は君の演技に感動した! 確かに改善すべき点はあるかも知れないけれど、君の演じるロミオは真に迫っていて、まるで本物のロミオがそこにいるかのようだった!」


 そこまで言われると、何だかこそばゆくて困る。俺はただロミオならどうするかと言ったことを突き詰めて、それを実践したに過ぎないのだから。


「だから、僕は君を演劇部に勧誘しに来たんだ!」

「え?」

「朝霧亮輔くん!」

「は、はい!」


 天王寺さんが俺の手をがっしりと掴む。


「僕を、君の手でお姫様にしてくれないだろうか!」


 それが彼女――天王寺透との出会いだった。ややうしろに立っていた皇さんと凪が、この時どんな顔をしていたのかは、俺にはわからない。それでも、二人の気配が波立つのを肌で感じ、俺は恐れおののく。どうやら俺の波乱の高校生活は、まだ始まったばかりのようだ。


                                 完

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財閥令嬢の転校生が、何故か俺を執事にしたがっている件について C-take @C-take

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