第3話 俺と中坊①

「信じられないかもしれないけど、俺は未来のお前だ」


「はっ?」


「この公園で時間を潰してから登校時間にわざと遅刻する。みんなの注目を集める事であたかも自分が不良生徒であり、特別な存在だと思い込む。違うか?」


「はっ? はっ?」


 まだ言わせるか……自分で自分の思考を説明するのも恥ずかしいんだがな……。


「小学生の時は自然と友達に囲まれる様なみんなの中心人物だったのに、中学校に上がると勉強もスポーツも今ひとつの自分に自信が持てずにいつしか友達を見下す様な言動を繰り返した。そしたら自分の周りに誰も人が寄り付かなくなったと」


「……」


「それで、好きな女の子には……」


「わかった。もうやめてください」


 中坊の俺は観念したかの様に肩を落として俺を見上げた。


「別に俺はお前をいじめに来たわけじゃない。話をしに来たんだ」


「はぁ……なんの?」


 未来から来たって所はあんまり疑わないんだな。まぁ、中二病の俺らしいっちゃ俺らしいけどな。


「まぁ座れよ」


 俺が先にベンチに腰掛けると中坊の俺は恐る恐る俺の横へと座った。


「懐かしいな、この公園。小学生の時はほぼ毎日ここでサッカーしてたっけ」


「あの頃は楽しかった……」


「中学校は楽しくないのか?」


「無能な奴らと群れても意味が無い。そもそも奴らとは見ている景色が違うのに共同を求める教師もまた無能だ。無能、無能、無能。スペックに差があり過ぎて日々理解に苦しむ。もっと僕に合った環境があるはずだ」


 これは、我ながら見事な中二病だな。


「まぁ、あれだ。言っちゃ悪いが俺……いや、お前は凡人だよ。それは、お前の未来である俺が証明している」


「凡人な訳が無い。本気を出せば……もっと……」


 中坊の俺は立ち上がると、足元から舐める様に俺の見た目を凝視した後にわかりやすく絶句した。


「僕、将来……そんな風になるの?」


「あぁ、そうだ。醜いだろ? このまま、他者を攻撃する事でしか自分を守れない卑屈で歪んだ生き方をしていたら、お前はこうなる」


「……」


「今だから言える事だが、別に困難や挫折に対しては、逃げてもいいし、目を逸らしてもいい。そんなものいつでもやり直しが効くし、何度でも挑戦したらいい。だがな、人を傷付ける様な攻撃的な言動や行動は取り返しのつかない事がある。ましてや、そんな事を繰り返している内に自分自身の事が嫌いになる」


「……」


 言い返せないって事は当たってるって事か。

 まぁ俺自身に言ってるんだから外れてる訳もないんだが。


「簡単に言えばお前はまだやり直せるって事だ。きっと将来、今のお前の勉強の成績やスポーツの実績なんて誰も覚えちゃいないんだよ。そんな事より、友達とバカみたいに過ごした日常が思い出に残るんじゃないか? ほら小学生の時の思い出だって、この公園でサッカーした思い出ばっかじゃねぇか。ほんと人生なんてくだらねぇよな」


「ふっ」


 中坊の俺が堪え切れずに笑いをこぼした。


「何がおかしい?」


「いや、なんか「人生なんてくだらねぇよな」ってセリフ僕もよく言うから、本当に未来の僕なんだって」


「はっ? 今更かよ」


「ほら、「はっ?」も僕よく言うし、未来の僕はまだ中二病なんだー」


 そう言い、いたずらっぽく笑う中坊の俺はとても楽しそうだった。でも少しだけ腹が立ったから強めにヘッドロックをかましてやったのだった。

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