覚醒の条件

 ユウマは戦慄していた。この世界に手術中のモニター類が揃っていたとすれば、脳波も心電図も全てフラットになっていたことだろう。ほとんど死んでいた。今まではずっと脳と心臓だけ、さらに言えば、呼吸に必要な筋肉や臓器を死守する戦いをしていた。でもあの時はほとんどの太い動脈は吹き飛ばされ、さらにそこから大量出血をしていた。再生力でなんとか出血し続けるという現象だけは避けることができていたとはいえ、血を失いすぎていた。実際に脳自体も損傷を受けただろう。本当に即死しなかった自分を誰か褒めて欲しい。


リサが神がかっていると散々思ってはいたが、それでも頭から爪先まで完全に人間だった。あの時何かが起きたのだろう。リサが黄金に輝き出した瞬間、ユウマの体はまさに不死身なんだと分かるほどの変化が起きた。全ての散っていった細胞が何か別の生き物の様に変わり、それぞれが群がるようにユウマの体を侵食していった。別に神キター!みたいな感覚はなかった。ただそれが死にかけていたから感じることが出来なかったのか、それともそもそも『そういうもの』だったのかは分からない。


とにかく何故か5体満足の自分がいる。それだけの感想しかない。もはやリサと呼んでいいのかさえも分からないが、アルテナスはルーネリアと楽しそうに話をしている。そしてアルテナスのご満悦そうな顔が気になる。一体何がなんなのか、ちゃんと説明して欲しい。


「はーい。質問がありまーす。っていうより解説お願いしまーす。」


胡座をかきながらユウマは、学校の先生に聞くように、手をまっすぐに挙げた。


「おっけー、ユウマにも分かりやすく・・・」


「いえ、私も姉さんに後から聞きたいことがあります。なので私が先に私の考えていたことユウマに説明します。あ、ちょっと言い方を変えます。『私のユウマ』には私が先に説明します。姉さんの話はその後にしてください。」


アルテナスが戻ってきたという安心感からか、全く違う理由かは分からないがルーネリアもぐいぐいくる。


「うーん。私のユウマという発言はちょっとどうかと思うけど、まぁいいわ。先にルーネリアの話をしなさい。」


何がどうなっているのかは分からないがアルテナス的には別に構わないらしい。


「私たちとの縁でユウマは『神』になった。だからこの世界の体が朽ちても、生死に関わらず私の魔法が永続的に作用することになった。おそらくはユウマがあの言葉を発した時点で成立していたのね。その肉体が死んでいても関係なかった。これはなんとなく感覚で分かるわよね?」


勿論、理屈は分からないが、百聞は一見にしかず。論理よりも実体験がまさにそれを証明している。それに説明してもらいたいことは『そこ』ではないので、ユウマは素直に頷いておく。


「アルテナスの器の形は分からない。それに神として顕現しなければ、私たちに人間の区別はほとんどつかない。だから私はアルテナスを見つけられない。本来は探すべきなのだけれど、腐海でユウマを初めて見た時に探さなくて良いんだと理解した。どうせユウマの前にアルテナスは現れるのだから。そして必ずユウマのすぐ側にいる筈だもの。だから一応、ナディア、デルテ・・・それにノーマンもマークしていたわ。勿論、ニールも。私はそれぞれの神の器さえも知らないから、とにかくユウマの周りの人間は一応候補に入れていたの。」


ここまでいい?という顔をしてルーネリアは続けた。


「ただ、女性として姿を見せる可能性が圧倒的に高いから、その中でもリサ、ナディア、デルテの三人に絞っていたの。今考えるとリサの性格があまりにアルテナス姉さんそっくりだったから、考えるまでもなかったのかもしれない。けれど器の性格と神の性格が一致するとは限らない。ユウマも実感してるわよね?」


ニールはあんな極悪ではないし、メグは・・・知らない。でもカーズは完全にカーズそのものだっただろう。バルトロはそもそも性格がそれぞれ独立しているので参考にならない。クリスだってある種別物だ。かなり性格が混ざってしまっているが。


「器はいいとして、なんで俺を中心にしてんだ?」


ユウマからすれば当然の質問だろう。ユウマはその意味を知らないし、ユウマはルーネリアが腐海でユウマに話しかけた内容を知らない。


「ユウマはアルテナスが唯一愛した人間の生まれ変わりだもの。姉さんが勝手に恋に落ちて、勝手に失恋した相手。バカな姉の一途な恋の相手よ。」


「失礼ね。ちゃんと両思いだったわよ。だから御伽噺にも残っているでしょ? それにバカって何よ。全くもって失礼だわ。」


「俺が生まれ変わり? 全くピンと来ないけど?」


前世の話? この世界のユウマの? 異世界のユウマの? 記憶も何もないのだから、何を言われても「はいそうですか」と考えるしかないのだが。そういえば御伽噺には確かにあった。天使と人間が恋をする話。あれの元ネタがアルテナスだったということなのだろう。


「人間は転生すると記憶を失う。だからユウマにとっては新しい人生。でも消滅することのない私たちにとっては、全て繋がった記憶なの。だからアルテナス姉さんは人間をずっと観察し続けていた。それこそ一万年の間ずっとね。彼がまた輪廻で生まれ変わることを信じてずっと待ち続けていたの。」


壮大と考えるべきか、ねちっこいと考えるべきか。それとも神目線では1万年などあっという間なのか。ただここは純粋に、それだけ恋焦がれていたアルテナスはすごくかわいいで良い気もする。


「私と彼は両思いしてたもん。勿論、会ったことなかったけど・・・」


アルテナスは頬を膨らませながらそう言った。


「うーん。なんか勝手に俺の前世の話で盛り上がってる時に悪いけど、それこそ器に入ったら会えたんじゃね? それともやっぱそういう私的な利用はダメとか?」


自分の知らない自分の恋物語を語られてもムズ痒い。だからあくまで質問者という立場でユウマが聞いた。


「私に器はないわ。私は不可侵の神だもの。この世界の維持を任された神なのだから、誰よりも強く作られてる。だから器を作る必要さえもなかったってことでしょうね。誰にも言ってないし、そもそも言う必要ないと思っていたんだけどね。」


そういうもんなのかとユウマが思った時、アルテナスとルーネリアの後ろから人の気配、いやなんていうか神の気配を感じた。


「なーるほどねぇ。さーすがトラブルメーカーで有名な姉さんね。ほんとにさ、この際だからとことん聞いてあげましょうよ。アクエリス。」


急に知らない?いや、知っている声が聞こえた。勿論カーズではない。カーズはなんていうかワタワタしている。カーズはこのまま聞いて良いのかどうか分からないといった様子でさっきからずっとソワソワしている。ちなみに今の声の持ち主はデルテだった筈だ。


「そうね。純粋で愚かな純情乙女の姉様のせいで、私たちまでユウマのことが好きになっちゃうっどういうことなんでしょうね。ていうか順番的には私が先だからね、シルフィード。」


そしてそのシルフィードと呼ばれたデルテの隣にくっついているのが、アクエリスと呼ばれたナディアだ。それにちゃっかりノーマンのおじいちゃんも若くなっている。きっと誰かなのだろう。


「そりゃ、天下無双のアルテナス様の浮いた話なんざ、直に聞いときたいもんなー。」


喋り方まで変わっている。結局予想通り、『器同士も惹かれあっていた』のだ。ただ今回の戦いはアルテナスがいないため、皆が静観を決め込んでいる筈だった。だからもしかしたらすでに器を壊されて、アルテナス姉さんの恋バナを生で聞けないことを歯痒く思っている神もその辺にいるのかもしれない。


「アクエリス、シルフィード、それにレイザームまで・・・。ま、いいわ。別に減るもんじゃないし。・・・あ、でもカーズ、あんたは一発殴らせなさい。ユウマを弄んだ罪は重いんだからね!」


ノーマン、レイザームだったのねとユウマが思う前に、アルテナスの手が先に出た。そりゃカーズも青い顔になっていたわけだ。最強神のアルテナス様、いったいどんな光魔法を使うのやらと期待していたのだが、まさかの物理だった。


カーズの顔面に突き刺さったアルテナスの拳は衝撃波だけでこの周辺の家の屋根を吹き飛ばし、木々を薙ぎ倒した。そして今回残念ながら被害者になったカーズは腐海の森の中心部に向けて吹っ飛んでいった。綺麗に森の木を抉り取ってくれたらしく、冥府の門への道が一瞬で出来上がってしまった。モンスターも逃げ出していることだろう。勿論モンスターが束になっても敵うものではない。早くお逃げなさい。確かにこれではお話にならない。器など用意する意味がない。最強だった神カーズを一瞬で行動不能にできるのだから、アルテナスが言ったことは本当なのだろう。


「あちゃー、カーズは直接聞けるチャンスを逃しちゃったね。姉様、私達は静かに聞いてますのでどうか続けてください。」


キャラまで変わっているナディアもといアクエリスがちょこんと水の椅子を作り、三人ともお行儀よく座っている。どうして水が椅子として成立するのか、これは聞くだけ野暮であろう。


「ユウマはついていけてないでしょうから、順を追って説明するわね。」


ルーネリアがユウマの右脇に左腕を滑り込ませながら、何時の間にか出来ていた水のソファーに座る。そしてユウマもルーネリアに引っ張られて水のソファーに沈み込んだ。


「あー、そういえばこの体勢と同じシチュエーションあったわね。ユウマって自分のこと3Dスキャナーとか言って、私の胸の形を探ろうとしてたわよね。ふふ、ほんと可愛い。気持ちよかった?」


バレてる・・・っていうか、なんでこの場で言うの? それって思ってただけだし、なんで知っている・・・ってそういえばそのあと心の中で魔法陣作ったから、感情がもれてたのか・・・


「ちょっとルーネリア聞き捨てならないわね。それどういうことよ、ユウマ!」


アルテナスも左右対称にユウマの左側に座ってルーネリアと同じ体勢になる。


「話の続きよね。まず冥府の門ができた時期とほとんど同じ時期、人間に勇者と呼ばれる男が現れたの。冥府の門の影響で突然現れた森、そしてモンスターの被害を食い止めるために、一人戦い続けていたことで人間の中で勇者と呼ばれた男性、彼の名前こそアダムよ。」


ルーネリアはアルテナスの話を無視して話し始めた。ユウマは左からものすごい圧力を感じながらも必死に右側のルーネリアの言葉に集中する。というより聞き捨てならない言葉があった。


「ちょっと待て、それって冥府の門のせいでモンスターが蔓延り、人間がモンスターに怯える日々になったってことじゃね?」


「複雑な魔法陣だもの。それくらいの影響があってもおかしくない。」


聞いたのは、神様の都合で人間に被害が出ていませんか? っていうか神様が大体悪くないですか?という質問だったのだが、人間の都合なんて知ったことではないのかもしれない。


「それで、そこのバカ姉はアダムのことに興味が湧いちゃったのよね。それで勝手に彼の体を魔法が使えるように変えちゃったの。話がしたいってだけでね。それでバカ姉はその後勝手に失恋したみたいだけど・・・。それがさらに話を拗らせたというか、彼の子孫は魔法を使える体質を受け継いでしまったの。そしてそれが今の現状に繋がっている。さらにその人間の魔法体質化に興味を抱いた他の神が、さらに人間に手を加えたのが『器』という存在よ。」


やりたい放題されすぎなんですが・・・


「え、じゃあ1万年以上前に厄災が報告されていないのって・・・」


「ユウマ、私たちはそもそも実体を持たない概念体。だから『器』に入った方が、行動しやすいの。うーん、1万年以上前は・・・。きっと火山活動とかどこか遠くの海で発生した台風とかだったでしょうね。勿論人間に被害は出ていたかもしれないけど、今の様に人間が住んでる地域で戦い始めたのは『器』が便利だったからね。」


大体ってか全部神様が悪い!! それにこの話を考えれば1万年前だったとされる光の時代の説明ができてしまう。1万年前、アルテナスによって人間が作られた。その『人間』というのは魔法を使える人間という意味だったのだ。そして魔法が使える以上、ここはモンスターが現れる世界なのだし、それに人間同士の戦争だって起きるわけだから、魔法が使えない人間は自然と淘汰される。アルテナスのせいで歪んだ進化論が誕生したということになる。そりゃ髪の色もカラフルで良いわけだ。保護色に頼る前に魔法に頼る。


「アルテナス姉さんは・・・、そうね私たちが魔法陣で交信してたみたいなことをずーっとアダムとやってたみたいなの。でも、実体を持たない私たちでは彼に直接会うことができない。きっとそれで愛想尽かされたんでしょうね。アレもコレも出来ないんだから。」


アダムからしたらゲーム内彼女みたいな感覚だったのだろうか。分かるー。自分も・・・ってこれ前世の自分の話じゃん。前世からそうだったの?でも結局、今の王族の祖先になるわけだし、ちゃんと現実の世界の彼女が出来たんだな・・・。


「違うの! 私は一緒に神様になろって誘ったの。でも神になるのは嫌だって断られちゃって・・・、それから連絡も少なくなってきて・・・」


「それを振られたっていうんじゃ・・・」


ルーネリアの呆れたという感じの言葉、それはユウマには看過できないものを感じた。


「いや、ルーネリア。リサが言っているのが正しい気がする。彼の愛情は本物だったと思う。」


つい癖でリサと言ってしまったが、気持ちは分かる。二次元花嫁?大いに結構、実に最高じゃないか。それでも当時の状況を考えれば、流石にアダムが取った行動も分かる。だからアダムの立場になってユウマは推論を立てた。


「でもそれと同じくらい人類を大切に思っていたんだと思う。当時、勇者と呼ばれたアダムはさらに魔法まで手に入れてしまった。アダムが決めたのか、周りが決めたのかは知らない。でもアダムの遺伝子を、子孫を残す必要があったんじゃないのかな。勿論、その行為をどういうかは知らない。でもずっとアルテナスのことは愛していたんじゃないかな。そのことを言いづらかったのと、あと単純に年をとって魔力が減ったんだろ。俺なんてそもそもマナが少ないだろ?たぶん話してる時もギリギリだったんだと思うぞ。」


ユウマの推論に何故か拍手が飛んだ。ガヤが拍手している。


「いやいや、ユウマ殿、まるでアダムを見ているようでしたぞ。いやそれは当たり前なのは分かっている。けれども本当にアダムが喋っているようでした。」


ノーマンもといレイザームが腕組みして頷いている。せっかくユウマが考えてかっこよく決めたのに、まるでアダムがカッコ良いみたいになっている。けれど左腕に顔を当てているリサ、いやアルテナスを見るとそれでも良いかとも思う。


「ほんとアルテナスだけズルい。でもそんなユウマ、好き・・・。」


ルーネリアは素直にユウマを褒めてくれた。っていうか全然話が進まない。


「んで、俺?ってかアダムの転生が分かって、今度は人間として出会いたいって感じになったんだろ? どうしてさっさと正体を明かさなかったんだ?」


そこが本題だ、一番聞きたかったことだ。器が無い事はアルテナスしか知らなかったのだろう。それは今までの会話を聞いていても分かる。


「デボネア様と約束したの。約束というよりも契約に近いかもしれない。私はアダムが転生する事を知って、デボネア様に人間として生まれ変わらせてほしいと懇願した。アダムにちゃんと、私を神ではなく一人の女性として見て欲しいって。正直ダメもとで懇願したわ。この世界の責任者である私の我が儘が通るとは思ってなかったの。」


執行する神がいなくなれば歯止めが効かなくなる。ただデボネアがこの世界にそこまで愛着を持っているとは思えない。ルーネリアが言うようにただのお遊びと思っているのかもしれない。それとも誰も気づいていないのだろうか。ユウマが気付けていることに対し、他の神が無反応なことが少しだけ疑問だった。


「デボネア様は興味深そうにされてたわ。だったら自分で掴んで見せなさいって。そして私の神としての能力を無くし、さらに記憶を無くした状態にするという条件を付けられたの。でもそれだと世界が滅んでしまうじゃない?それでなのかは分からないんだけど、『覚醒条件をつける』とデボネア様は仰った。アダム・・・ユウマの口から「愛している」という言葉が真の意味で私に向かって言われた時に私の記憶と神としての封印が解かれる。その条件を付け加えられたの。」


一歩間違えばこの世界は滅んでいた。今回の騒動はアルテナスが中心にいなければ成立しないというものだったのに。


「そもそも出会うことさえ難しい、そんな条件をよく呑んだな・・・。いや違うか。そうなるようにできていたんだ。俺がリサと出会ったのも、リサが俺を見つけたのも。」


ユウマ自身がそれを実感している。それに魔の森に近づいたのも、偶然ではなくルーネリアの力が働いていたわけだ。いくつもの偶然が必然だった。根源的な力が働いている。それにしてもリサが神がかっていたのは、そのまんま神の子だったのだから当然だったということだ。


「そう、正直楽勝だと思ってたわ。この私よ? 記憶が無くても必ずアダムに辿り着く。それは確信していたわ。今思い返せばだけど、その条件なんてとっくに満たせてたと思うのよね。」


確かにその通りで、ユウマの記憶ではそんな言葉はいくつも並べられている。でもそれは・・・。


「俺が足りてなかったってことか・・・。」


「あ、ほんとだ。ユウマ、なんでさっさと告白しないのよ!」


「はぁ? なんでだよ。それにあれだよ。なんていうか・・・あの時はその・・・口が滑った。」


ルーネリアがユウマだけに聞こえるように舌打ちをして、ユウマの右腕にさらに3Dスキャンさせるために身を寄せてきた。


「この世界のユウマは完全な状態ではなかった、ということね。そうなると・・・」


ルーネリアの言葉にユウマも頷く。そしてユウマはおそらくルーネリアさえも想像していない言葉を付け加えた。


「デボネアはアルテナスに肩入れしたっていうより、フェアな対決にしたかったんだろ。」


そう。なぜこの話が出ないのか、ずっと気になっていた。


「対決って何よ?」


アルテナスだけでなく、その言葉は全員が意外だったようでユウマに視線が集まった。


「あれ、ここまでの中で気付いてないのか・・・。結局何もかも負けてる気がする・・・。」


バルトロ、いやヴェルドーがずっとそう思わせてきたという事なのだろう。そうでなければこんな簡単な事に気付けないはずがない。


「ヴェルドーもデボネアと取引をしている筈だ。対決ってのはヴェルドーがやろうとしていることと、アルテナスが覚醒すること、どちらがどうなるか何じゃないか?デボネアはきっとそういう状況だからゲーム感覚で条件を付け足した。そしてアルテナスがゲームクリア不可能だと分かってたからこそ、フェアにするため異世界からアダムのカケラである俺の精神を呼び寄せた。」


バルトロはこう言った。神がそう思い込んでいると。


「冥府の門が誕生して、神々が1600年毎に戦っていたってのはヴェルドーがそう思い込ませただけだ。実際には戦っていない。戦えるわけがない。アルテナスが実体化したのは今回が初めてなんだろ?」


ヴェルドーはこのタイミングをずっと窺っていたのだろう。アルテナスが恋慕に走って実体化するタイミングを。そしてそれを理由にデボネアと何らかの交渉をした。おそらくバルトロに関わる何か、もしくは知識か。そしてずっと狙っていたのだろう。冥府の門にただ一人で入ることを。


「うーん。言われてみれば・・・。でも全然思い出せない。ユウマ、ヴェルドーはどこ?」


ユウマ以外はずっと魔法にかかっていたのだ。1600年前にヴェルドーが仕掛けた掌握魔法、知恵の神は一体何を拗らせてしまったのか。やはり聞くべきだろう。


「待っててくれるってさ。冥府の門の前で。」

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