反撃の狼煙

 リサとユウマが再会する一時間前、ユウマは見知った老夫婦の下へ歩いていた。


「ユウマ、ヴェルドーは広範囲魔法を使っていると思う。この辺りだと効果はあまり出ていないと思うの。そしてユウマ、これは重要。ヴェルドーの魔法は君には効かない。それは分かるよね。」


「あぁ。そのせいで身体強化魔法の恩恵に与れないからな。」


回復魔法に関しては必要ないし、強化魔法も自前の身体強化でなんとかやっていけてはいるが。そして、その代わりユウマはルーネリアの眷属として森に向かっていったのもあるから何とも言えない。


「僕はできる限り、白銀の隊員を集める。けど、ユウマも気づいていると思うけど彼はそこにいないからね。」


「あぁ、俺はヴェルドーの影響受けてないのに、どうしてこう・・・」


ありもしないミスリードに嵌められてしまうのか。


「周りの動きがそう思わせるように動いてるんだ。だからしょうがないよ。じゃ、ここから僕はクリスモードで行くからね。」


精一杯の無理のある慰めを言って、ルーネリアは今にも泣き出しそうな顔になった、クリスの記憶を優先させたのだろう。そして今にも泣き出しそう・・・いやすでに号泣しているメリル夫妻の元へ走っていった。仕方なくユウマはバツが悪そうにしながらクリスの後を追った。「クリスを守る」という約束、これはセーフなのかアウトなのか。とりあえず審議は必要だろう。勿論そんな時間はなさそうだが。



 ルーネリアはすでにクリスとの使い分けができているように思えるが、ノーマン・メリルの親愛のキスを巧みに避けているあたりはルーネリアの意志がきちんと働いているように見える。勿論、娘が父親のキスを拒むのは当たり前のようにも思えるが、数日間メリル夫妻はここでずっと待っていたのだ。おそらく自分たちは死んだと報告されている。ユウマが発射した信号弾にそういう意味があったというのもあるだろうが、おそらくあいつは戦いを見ていた。あいつはポインターが設置されてるのを見届けてから、あの場を去ったのだろう。ユウマが失敗したら、ポインターを代わりに置くという別の任務もあったのかもしれない。あいつを逃した時、ナディアには適当に言い訳して先に戻らせたに違いない。その行為も許せないが、結局最初から最後まで騙されていた自分が一番許せない。


そして勝手に裏切り者だと決めつけていたマルコ。彼はきっと、あの強行軍を止めるためにクリスの元を後にした。その後、何事もなく予定が進行したことを考えると、間違いなく彼は消されている。


ユウマが考え事をしていると、ノーマンと目が合った。


「ユウマ殿、クリスを守ってくれて有難う。実は今日で最後にしようと思っていたのだ。一週間という期限を決めていたのもあるが、今から教会で第一王子の婚姻の儀があるというのも一つの理由じゃ。全員参加が義務付けられているのもあるが、そこで祝福の祈りを捧げることが厄災を永遠に葬り去る唯一の方法だということもある。でも、それができるなら何故・・・」


ユウマにも号泣しながら抱きついてくれるのはむさ苦しいが少し嬉しい。それにしても全員参加を義務付け、そして全員分の魔力を魔法陣破りのエネルギーにする計画だったとは、しかもそれにリサの結婚式を利用するとは悪の所業ここに極まれりだ。絶対に許すことはできない。


「父上、そのことでお話があります。王族、いえあの枢機卿の狙いは冥府の門の封印ではありません。冥府の門を永久に閉じさせないことです。私は腐海の森を抜け、それを確認して参りました。ですからその式は必ず止めねばなりません。勿論、そのあとは勝手にリサと王子には結婚してもらいたいところですけどね。」


後半は明らかにユウマに向けての言葉だった。ユウマに軽くウィンクをしながら言ったので間違いない。器用なことをするものだ。ユウマなんて混乱しまくりで、悪魔付きを即座に認定されていたほどだ。


「ユウマ殿、すでに知っておると思うが、クリスはそもそも王族の血筋じゃ。王族になにか考えがあると思っておったが、儂にとってはクリスは我が子も同然。ならばクリスの言葉は儂の言葉。ならば王族を倒すしかあるまい。クーデターを起こすぞ。」


全く、ノーマン・メリルはどこまでいっても武人、いや脳筋だな。ミラベルもうんうんと頷いている。脳筋は相変わらずのようだ。こうして改めて見るとクリスの存在が異質に思える。王族の誰にも似ていないとは思っていたが、勿論だがメリル家にも似ていない。遺伝とかそういうのを無視した存在。それが器と呼ばれる人間たちなのだろう。当然悪魔にはすでに誰が器か筒抜けだったということだ。


例えばユウマのように眷属には眷属の無意識の動きがあるとする。そしてそもそも器であるクリスには冥府の門へと近づく習性が予め用意されていた。そう考えるとクリスが在籍していた学校は密告者をしっかりと配置するべき場所だった。


「父上、クーデターではありません。ユウマはこの世界を救う、そう申しております。だから私たちもその為の準備をしましょう。詳しくは言えませんが、まずはこの結婚式をユウマに中断させます。そして人類最強兵器『リサ』を奪還することこそが大前提の条件です。」


枢機卿が教会にいるならばここまでは強い強制力は働いていない。だからノーマンの我が娘愛が蘇ってしまえば影響を取り除ける。でもノーマンがさらに影響下の強いところに行ってしまえば、その先は分からない。ルーネリアは戦えないと断言している以上、ユウマが行くしかない。


「ユウマ殿、教会周辺は人混みで前にはなかなか進めまい。それに警備も万端じゃ。じゃが、儂ならば、優先的に通してもらえる。儂の馬、儂の鎧、儂の紋章、それに通行証をお主に渡す。今すぐ行け。儂らは学校跡地に拠点を構えておく。頼んだぞ!」


ノーマンに頼み事をされるのは2回目だが、なるほど確かに人混みの中、ユウマの身体能力で突っ込めば人死にが出かねない。しかもノーマンは貴族の中での身分は一番下だが、特別扱いを受けている存在だ。かなり良い席が用意されていることだろう。



 おじいちゃんとおっさんと染み込んだ汗の臭いがする。だが、通行証とノーマン・メリルとして入らなければならない。体格差をどうにかする為、ユウマは各関節を外して、むりやり自然に振る舞っている。ノーマンは気軽に鎧を貸すと言ったが、絶対に脳筋だ。気合いで着ればどうにかなると思っている。ルーネリアと出会うことで直接的に眷属となった為、回復力のコントロールができるようになった。とは言え、ずーーっと治らない状態を維持するのは辛いし、痛い。クリスが大切な白い髪の一部を切って、即席の変装グッズ、もとい付け髭をつけてくれたのは良いが、どう考えてもそれだけだと騙せない。だから無理矢理、自分で顔の骨をバキバキやって無理やりノーマンに似せた。


「ノーマン・メリル様、式はもう始まっています。急いでください。」


今のところ何とかなっているらしい。髭だけで印象をつけるには、この世界の貴族はほとんど髭を生やしている。やはり紋章のおかげだろうか。


・・・っていうかもう式典始まっているのか。


一応VIP専用レーンを使わせてもらっているが、そこがガラガラという状況からも伝わってくる。さすがに急がなければならないが、ここで不審者発見とあらば、群衆を掌握術でユウマに全国民を向かわせると推測できる。そうすると流石に誰かが傷つく。だから絶対にバレてはならない。『急いでいる』という理由で馬を走らせて、教会へ向かう。流石に教会は高い塀で囲まれており、厳重な検問を通った後は、見栄えの関係もあり、一気に見張りの数が減ってきた。


「そろそろ見張りもいないか。さて急がないといけないけど、どうしたものか・・・」


ユウマは鬱陶しい変装っというか口髭と鎧を脱ぎ捨てて、とりあえず身軽な状態にしておく。正面から行くのか、忍び込むのか。とにかく急がなければならない。


「リサはきっとヴェルドーの魔力下にいる。ってことは俺が入ったところで抵抗されることも考えられるしなー。やはり無理矢理攫って、でもあいつ激強だか・・・」


ユウマが作戦を練っていたその時、教会の扉がものすごい音を上げて吹っ飛んでいった。ユウマは教会の塀にぶつかり粉々に粉砕された扉だったものを見て唖然とした。そして、そのユウマの視界に花嫁姿の美しい金色の少女が姿を見せた。がっつりとスカートを捲って、はしたない様ではあるがあれは間違いなく・・・


「リサ?」


今まで色々と考えていたにかかわらず、『ノープラン』。ユウマは反射的に手を差し出した。リサの中ではユウマは死んでいる設定だし、ヴェルドーの意図もあるのかもしれない。すでに発見されてずっと泳がされている可能性、いくらでも考えられた。今が最終局面なのだ、もっと慎重に行動するべきだったかもしれない。それでもユウマは反射的に手を差し出した。


するとリサはユウマの名前を呼び、ユウマの手に引かれて馬に飛び乗ってきた。そしてユウマの背中で泣きながら、ユウマのお腹の辺りまで手を回してぎゅっとしがみついた。そして何度もユウマの名前を繰り返していた。そんなリサは新鮮すぎて、ユウマはお腹に回された手をそっと撫でた。


とにかくなんだか分からないが、作戦はきっと成功しているのだろう。だとしたら早々に立ち去らなければならない。ノーマンのおじさんには大変申し訳ないが、馬はここに置いておく。侵入するのには便利だったがこうなれば、馬が足をひっぱってしまう。確実に馬なしの方が速く移動ができる。馬はあとで城の誰かがどうにかしてくれるだろう。すごく毛並みも良いし、きっと大事にされるだろう。


「リサ、逃げるぞ・・・って分からないか。」


一度リサを馬から降ろしてユウマは呟いた。そして魔法の影響下にあるリサを、ユウマは身長差があまりないにも関わらずお姫様だっこをした。ウェディングドレスをした花嫁をだっこするなど、きっと新郎の特権だろう。本当ならそれを堪能したいところだがそんな時間はない。だからユウマは感触を楽しむことなく、地面が陥没いや地鳴りがするほどの跳躍力で一気に塀を越えた。ここへ来る途中に予め頑丈そうな建物を確認していたので、そこに着地する。


「ユウマ、私は死んだの? だからユウマに会えたの?」


うーん。どうしたものか。っていうかどうしてリサはあの状況から抜け出せたのかそっちの方が気になる。罠かもしれないからだ。


「リサは死んでないし、俺も死んでない。地獄の底から這い上がってきた。それより枢機卿はとっくの昔に悪魔になっていたんだ。謀略の悪魔ヴェルドー、全ての元凶だ。ってか人心掌握の魔法下にあった筈だろ? 今も操られてるってことないよな?」


ユウマの言葉は空中に漂っただけに思た。リサに届いていないように思えたからだ。だが、少しずつリサ自身がその言葉を咀嚼しているのだと、ユウマもだんだん分かってきた。


だからリサは何かを話してくれる、そう思って構えていた。でも、リサが最初にした行動はユウマの予想さえしない、飛び抜けたものだった。


リサはユウマを強引に抱き寄せてキスをした。ユウマは目を見開いて驚いたが、リサが泣いているのを見て、リサの背中に手を回して、ユウマも目を閉じた。こんなことをしている時間はない。でも今だけはこのままで・・・。



 数秒程度だっただろうか、自然と二人とも口づけをやめて、お互いの顔を見つめあった。その時のリサは、すでにユウマの知っているリサだった。


「よし、すっきりしたわ! ユウマの話は間違いないわね。それにしてもこの私が操られていたなんて・・・。危うく、あんな奴と結婚させられるところだったわ。」


あんな奴って、一応全国民、全女性の憧れだぞ。


「でも、自分で抜け出しただろ?」


「ええ。なんかもう全部嫌になっちゃって。こんな世界ぶっ壊しちゃえって思ったの!」


人間の魔法ではない、悪魔の魔法の影響下を自力で抜け出したのだ。そんなリサにユウマは呆れてしまう。いや、だからこそリサなのだと思った。


「やっぱ、お前はすげえな。」


「いろいろ考えてたら、そうなったの!!」


リサは顔を赤くしながらそう言った。勿論最後にリサが思ってたことが何なのかはユウマには知る由もない。


「で、このあとどうするの? その悪魔ってのをぶっ倒すの?」


「いや、話はそんなに簡単じゃない。詳しい話は一旦拠点に行ってから説明する。だから・・・」


もう一度拠点に行くために高速移動が必要だ。だからもう一度お姫様抱っこを・・・。そう思ったユウマがバカだった。リサだ。今目の前にいるのは正真正銘のリサなのだ。


「オッケー。じゃあその拠点ってとこに案内しなさい!」


絶対に国宝レベルのウェディングドレスだ。そのキラキラしてる石は絶対に偽物じゃなくて本物だ。ユウマは一応破らないように気をつけて跳躍したのだが、このお嬢様はあっさりとスカート部分をビリビリに引き裂いていた。そう言えば、ここに着地したときにはすでにベールも無くなっていた。あれもキラキラがたくさん付いていて平民なら一生働いても買えないものだろう。


「じゃあ、学校跡地に向かうぞ。そこにク・・・」


「学校ねじゃあ急ぎましょ!さっきの跳躍だけど、すごいものだったわ。ってことはユウマは相当死にかけたみたいね。」


「ああ、そりゃもう。ドラゴンまで倒したくらいだよ!」


どうやらリサは聞いていなかったようだ。とりあえずは良かった。ここであーだこーだは勘弁願いたい。だがこの後どうする。うーん。なんかこわーい想像しかできない。なんて説明する?いや、やましいことなんて何もしていない・・・とは思う。そもそも今、学校跡地はどうなってるんだろう。


リサとユウマは建物を飛び移りながら超高速で学校跡地に向かう。その途中・・・。


「そこに、く・・・って言いかけたわよね。」


「え、そんなこと・・・」


「言った。続きはきっとこうね。そこにクリスティーナ・メリルが戦いの準備をしている。でしょ?」


そこまでお見通しされていては、ユウマもただ頷くことしかできない。


「良いわよ。私も同じようなもんだったし・・・。でも浮気は一回だけだからね! 次はないんだからね!」


だからそもそも浮気の概念が違う気がするのですが・・・。そもそもクリスであってクリスでないし、ルーネリアと言えばよかった・・・。そこに『ル』だったら、何とかなったようなならないような・・・。とにかくリサはクリスを知っているのだ。でもリサには呪われた少女クリスへの忌避感はないような気がする。そういえば今更だが最初からリサはそうだった。



 色々心配ごとはあるのだが、無事に学校跡地に辿り着いた。どうやら学校はたった数日で学生の奮闘を追悼する記念公園に変わっていたらしい。そしてその中央には何故か銅像が立っている。この数日でどうしてあそこまでのクオリティーで完成したのか。きっと職人さんが魔法だのなんだので寝ずに頑張ったのだろう。


だが、そのモチーフが気に入らない。いや、かなり忠実に再現されたユウマの銅像なのだが、しかも『平和のためにドラゴンと戦った英雄ユウマ』というタイトルも良いのだが、勇敢に立ち向かっている臨場感が見事に再現されているのは良いのだが、


どうして全裸なのだ。


これ、芸術だから許せるのであって、普通にモザイク必要だからね。しかもなんでここまで忠実に右に曲がってるかとか再現・・・っていうか、違う!違うじゃん!!ここだけ違うじゃん!!


確かに、西洋の彫刻において、それは神聖であり無垢ということで、そういうデザインになったのは聞いたことがある。別にそれが悪いとは言っていない。皮をかむっているのが神聖であり無垢という思想。それは大いに認めよう。


でも、俺のは剥けてるからね!!


勿論剥けていたら、剥けていたでさらにモザイクものなのかもしれないが・・・。とかなんとかぶつぶつと、ユウマは自分のブツ、正確には自分の銅像のブツを凝視していると、あらゆる方向から推しつぶされるような感触があった。


「ユウマくん!!」


「「ユウマさん!!」」


ナディアとデルテがユウマに抱きつき、マイクがその横で号泣している。こっちまで泣きそうになる。クリスの時もきっとこういう風に抱きしめたのだろう。心配をかけて悪かったと思う。勿論、あの時は自分でも絶対に死んだと思ったのだが。それ本当は後一人いる筈なのだが、予想通りいなかった。奴はきっと城で寛いでるのか、式典が中止になったことでワタワタしてるのか、それか後を追っているのか。それよりも向こうでバチバチしている二人の方が気になる。とりあえず割って入ろう。すごーく怖いけど。


「リサ、クリスの件で話がある。あ、いや睨まないで、本当に大事な話だから。クリス、誰にどこまで話せば良いと思う?」


「もうすぐ門が開く。だから隠す必要はない。」


この場にはメリル夫妻もいる。もしかしたらクリスは真実を打ち明けたのかもしれない。


「リサ、冥府の女神、覚えてるだろ。皆も俺が女神の加護を受けてるって知ってるよな。それがクリス・・・」


その瞬間、リサがクリスに斬りかかろうとしたので、ユウマは瞬時にその剣を両腕の骨で受け止める。リサには剣をいなすより、こっちの方が有効だろう。勿論痛いけれど。剣の威力は予想通り弱められていた。ユウマを即死させる一撃をリサが放てるわけがない。これくらい命を張らなければリサは止められない。


「ユウマどいて。そいつこそが悪魔の親玉エステリアなんでしょ? もう心まで支配されてるってわけ?」


「リサ、話を最後まで聞いてくれ。俺たちはそのせいでここまで来てしまったんだろ?」


リサも自覚はあるのだろう渋々剣を収める。ユウマの背中も冷や汗でびっしょりだ。実際、両腕は地面に落ち、刀は鎖骨のところで止まっている。地面に落ちた両手はサラサラと消え、その代わり手が生えてくる。その様子をメリル夫妻も驚嘆しながら見守っている。


「私はエステリアではない。冥府の女神ルーネリア。アルテナスの妹、ルーネリア。」


白と薄紫の髪をサラサラと靡かせながら、ルーネリアは皆に自分の正体を明かした。


「リサ、秘密の部屋は、いやそもそもこの国は巧妙にルーネリアの存在を歴史から消している。おそらく、最初は冥府の門を使って悪魔との取引をさせないようにするためとか、悪魔崇拝の輩が門を開けようとするのを防ぐため、そういう理由だったんだと思う。だけど今はそれと正反対の理由で隠されている。悪魔と記憶持ちが融合しているんだ。リサならこの意味がわかるだろ?」


リサは肩を竦めた。


「えぇ。あの時からすでに魔法の効果が発動してたってわけね。私はあそこにある書物が全部・・・違う。そうね、アルテナスの書を除いてそれ以外は全て揃っていると何故か確信していた。それでね。私はさも自分が発見したかのように書物を読み漁っていた。読んだ書物を勝手に自分で解釈をして、真実に辿り着いた気になっていたわ。そう、ユウマが悪魔エステリアに呪い殺されると確信していた。分かったわ、聞かせてもらう。この世界のために私たちが何をすべきかを。」



ルーネリアが語る真実は勿論、ユウマに説明した内容だった。そしてどうしようもない現実でもあった。そもそも門が開くのは避けられないということ。そしてそこで登場する三体を含めた悪魔四体を人間のみで撃退すること。そして今すぐに儀式を中止させ、魔法陣破りの魔法陣の起動を止めること。


そして肝心のアルテナスがいないこと。


「リサ、王族に光の魔法を使える人間は本当にいないのか?」


「えぇ。唯一、儀式に成功した第一王子さえ、使えなかったわよ。それに一応私はまだアルテナスの書を見れてないしね。」


「王族は戦力に数えない方が良いってことか。でも一応強いんだろ?」


一応、最初のアルテナスが作った人類の系譜ということになる。血統としては十分すぎる。リサは肩を落とし、ノーマン・メリルのところへ歩いて行った。


「ノーマン・メリル男爵、一つ、手合わせを。」


リサの突然の手合わせ宣言、普通なら戸惑いを見せても良い筈だが、さすが脳筋おじいちゃん。何の迷いもなく抜刀した。そして数分もいかない1、2分程度剣戟を披露した後で二人とも併せていたかのように納刀した。


「男爵、どう? 私とユウマどっちが強い? 勿論私は魔法を使ってないから遠慮しなくて良い。率直に言って。ってそういう性格でもないわよね。」


二人とも肩で息をすることもない、平然とした様子だった。が、一つ軽い咳払いをした後、ノーマンは言った。


「ユウマ殿の方が強いですな。」


「さすがは元であっても、エステリア最強と詠われた戦士ね。勿論、隠さなくても良い。秘密の書庫にそれとなく暗号のように保管されていたから。王にも気付かせないようにしてたのね。クリスティーナの出生の秘密、そして怪我という嘘の理由でメリル家で育てられていることも、秘密裏に記録されていたわ。それにその強いユウマよりも、今のユウマはさらに数段強い。」


王様、いろいろ大変だな。勿論、クリスを捨てたことは許されないが。当然秘密の書庫なのだ。当時の枢機卿は苦労して暗号化までして記録しておきたかったのだろう。


「ユウマ、王族はメリル男爵よりも弱い。光の魔法も使えないんだもの。使えないと考えて良いわ。メリル男爵の方が戦力になるわね。」


「戦力にはならないか。ノーマンさんの方が頼りになるとはねー。ま、確かに頼りになるけどな・・・」


その時ルーネリアの雰囲気が変わった。


「話はそこまで。今、門が開いた。」


ルーネリアがそう言った瞬間、空気に亀裂が入った気がした。咄嗟にユウマはその亀裂に飛び込んでいた。これが誰かに当たれば即、再起不能に陥ってしまうと感覚的にユウマは悟っていた。そして音もなく、ユウマの腰辺りから下が体から離れる。そしてその瞬間両足は消えた。さらにユウマの両手で受け身をとった時には、ユウマの体はある程度再生していた。



「やっぱ化け物だな、お前は。いや未確認生命体UMAか。」


「ニール!!!お前かぁぁぁぁぁ!!」



ユウマが激昂した。ついに悪魔対ユウマの戦いが始まろうとしていた。

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