白銀団最後の行軍
ユウマとクリスが動けば、皆の視線は追従する。だから敢えて目立つところに立った。これから大事なスピーチというやつをしなければならない。こんなものは前の世界でだってやったことがない。元々はクリスを引っ張っていくつもりだったのだが、いつのまにかクリスに引っ張られている。校長先生はこんなことを毎日やっているのだろう。演説慣れとでも言うか、よくもあれだけ皆を前にして長話ができるものだ。
とっくにこの方舟は動き出している。そしてもはや盗聴されたって関係ない。どうせ後から督戦隊だってやってくるのだ。ならだ今しかないだろう。大義名分をここで掲げる必要がある。
「皆、聞いてくれ。今日の狩りは今までで一番壮絶なものとなる。だが聞いてほしい。今回は逸話で謳われる腐海中心部に行くわけではない。ちゃんと目的地がある。そうだよな、ニール。」
ニールにあらかじめ準備させておいた、世界地図、それに国内の地図、さらにいままで行った討伐ポイントをそれぞれマークする。そして今回行く地点をマークさせる。一応演説の段取りは決めていた。クリスからの突然の接吻の後にお互い顔を赤く染めてニールとマイクのところへ行った。彼らのニヤニヤは覚えている。
「なぁ、ニール。お前は森の深部に入る時と浅い森で済む時に、なぜか分かっていたよな? あれはどうやってるんだ? 」
そのユウマの言葉にニールはジト目で応えた
「ユウマ、お前、俺がズルしてたと思ってるだろ。それにお前のことだから、どうぜ自分は最前線いくんだし、どうやって弱い奴を守ろうかくらいしか考えてなかったんだろ?」
ファイナルアンサーとか聞くまでもない。大正解だ。結局はそうだ。自分の力でなんとか守りたい、そう思っていた。
「まず、最初の頃は支給品の量や質で判断していた。そしてそれからは魔力伝導塔について調べたんだぜ、独自ルートでな。そもそも俺はマルコ、とえっと悪いけど・・・クリス。この二人は最初から疑ってたんだよ。」
その言葉にクリスの胸が抉られる。俯いてしまうクリスには悪いが、彼女もちゃんと聞くべきだ。
「まず、どう考えてもマルコはただの平民じゃない。所作や姿勢で分かるだろ?それなりの高位の爵位を持った貴族ぐらいしか、あれほどの教育はされない。あと、なんていうかさ、今はクリスも騙されてたんだって知ってるけどさ。クリスの言動は明らかに戦いへ皆を扇動していた。俺からしたらどうしてユウマがあんなにべったりなのか分からな・・・、うーん、お前顔に出やすいからなぁ。どうせリサのことで釣られたんだろうってのは大体分かってたなぁ・・・」
目から鱗だが、耳も痛い。ニールとマルコとナディアの四人で学食にいた時に、ニールが言ったセリフだ。あの時、ニールはメリル領はすごいと言っただけだ。勝手にマルコやクリスの話も含まれているものだと思っていた。それに確かにノーマン・メリル男爵そのものは逸材だ。あれだけの度量を持った領主ならば、民はついていくだろう。あくまで男爵の話をしただけだ。
それなのにユウマは勝手にクリス・メリルもすごいのだと思っていた。クリス・メリスがすごいと思ったのは、すべてマルコによる演出だった。それにニールは他の貴族ともパイプを持っている。ニールからすればマルコを見抜くことなんて造作もなかったのだろう。平民だと嘘をついている時点でそもそも怪しい。だからかどうかは、分からないがだからニールは距離をとっていたのだ。
「まぁ、その・・・俺がわかりやすいってのは、認めるよ。で、続きを聞かせてくれ。」
「うん。なんか、クリスの目の前で言う話じゃないかもしれないけどな・・・。」
ニールが少し話しづらそうにする。さっきまで泣きはらしていた少女の前では言いづらいだろう。
「だ、大丈夫・・・。私も・・・ちゃんと聞きたいから!」
クリスはけじめと思っているのか、覚悟を決めたのか、最後はしっかりと言った。
「おっけー。まずクリスの考え方は、そもそもお子様だった。勿論、人を助けるってのは立派だけどな。だけど、あれは入れ知恵されている。ユウマ、俺は一応商人としての教育受けてんだぞ? 無理があるかどうかなんて分かるさ。ま、どっちにしても戦わないといけなかったんだけどな。勿論、俺もかっこよく戦いたいってのもあったし・・・」
なんだかんだニールも子供っぽいところはあるが、それでも確かに金儲けの才能はニールに軍配が上がるだろう。
「で、そうなると疑うのはマルコだろ? だから、マルコに対しては最初から警戒してた。だからあいつとは情報交換はしていない。」
その時、ユウマはニールとの絡みが少なくなって、マルコとの接触が多くなっただけと思っていた。
「それで、話が戻るけど、例の塔だかが途中から小型化されたろ?それで最終的には完全に俺たちの仕事になってたじゃん。 ユウマの話じゃあ督戦隊が今回からついてくるって感じだったけど、前から来てるからな! 単純に考えても当然だろ? もちろん俺たちよりもずーっと後ろで見張ってるだけだったけど。」
新情報、というよりマルコと一緒につるみすぎて全然考えていなかった。この戦いは正義だ、そして王妃も賛同している。そう思っていた。
「そ、そっか。悪い。俺、ほんと自分のことばっかだよな。」
本当に恥ずかしい。本当に自分のことしか、リサのことしか考えてなかった。
「ユウマはそれでいいんだよ。お前は前だけ向いててくれ。お前がいるだけで俺たちは勇気が湧いてくるんだ。無茶したって、必ずお前が助けてくれるってな。だから気にするな。俺たちは俺たちで考えてる。デルテもな、お前が来てくれるって信じてたから突っ走ったんだ。あれは俺が許可をだした。だからユウマの責任じゃない。俺の責任だ。でも、デルテはそんな俺でも許してくれたんだ。ユウマが助けてくれたからチャラだってさ。ほんと強い子だよ。」
マルコに言われた記憶を消したい。ユウマの目頭が熱くなる。知らないところで皆、ユウマを支えていた。ユウマが活躍できたのは皆が自分で考えて行動していたからだった。
「ってか、話それてるよな。要は督戦隊だよ。俺が張ってた情報網でだんだん分かって来たんだよ。奥地に行かされる時はそれなりに強めの兵士がローテーで回されてるってな。」
「なるほど、それでニールは・・・」
その先をニールは言わせなかった。
「ちょーーっと待て、絶対お前、誤解してるぞ。俺が前線に出なかったんじゃない。前線いける奴に経験を積ませてたんだよ。それはマイク見てるお前が分かってる筈だぞ? なぁ、マイク。」
その言葉に、影を薄くしていたマイクが照れながら話し始めた。
「お、俺。臆病だから弱音、吐いてると思いますけど・・・そのやっぱこういう日のために必要かなって・・・」
「ってこと。ユウマ、はっきり言って俺たちの部隊は弱い。だから一番安全なのはユウマの近くだ。だから安心して皆に戦いの経験をさせることができんだよ。」
目から鱗どころか、眼球まで落ちそうになる。そういう決まりだから、と割り切ってユウマは邪魔だと思って、囮くらいにしか使っていなかったのに。皆ニールの指示の下、ちゃんと考えて、ちゃんと自分なりの経験値を貯めていた。
「ってことで、今回は守るべき他領の生徒はいない。だから俺たちは弱い部隊だけど、今回が最強だ!って・・・なんか、カッコつかないセリフだな。」
茶髪の少年は笑ってそう言った。穴があったら入りたい。それでも、この仲間たちを誇りに思う。だったら。
「いや、十分かっこいいよ、ニール。・・・なぁ、マイク、ちょっと外してくれないか?」
クリスには残っていて貰おう。ちゃんとクリスにも説明したい。もちろん、過信してほしくないからある程度だけ。
「ニール、クリス、話がある。」
ユウマは話した。自分が悪魔と呼ばれる神の一人から加護を受けていること、そして自分には回復魔法が効かないこと、ある程度なら自己回復ができることを。
「な、分かっただろ、クリス。こういうのを悪魔付きっていうんだぞ。」
「うーん。今なら報奨金が・・・」
「おい、ニール・・・ニール?」
「ぷぷぷ、冗談だよ、冗談!!俺たちだって異端者だぜ。自分から火炙りにいくようなことしないって。っていうか、女神からの加護、それに戦う分だけ強くなる。ユウマ、それってさ・・・」
ニールとの会話。そしてそこから作戦をたくさん立てた。どれだけ皆に信頼されていたのか思い知らされた。だからユウマは熱い気持ちを胸に秘めて宣言した。
「今まで戦って俺の戦いが人間離れしてると思った奴。今なら許す。正直に手を挙げなさい。」
今度は目を閉じさせない。分かりきったことだからだ。なんだかんだ全員が手を挙げる。当たり前だ。常人が10m以上の跳躍ができるものか。目にも止まらない動きなんてできるものか。
「俺はとある女神の加護を受けている。つまり、俺は『騎士』なんかに収まるもんじゃない!」
なるべくドヤ顔で言う。そして今度はもっとドヤ顔で。
「俺は『勇者』だ。」
ニールにさっき言われた言葉、仲間に初めて言ってもらった言葉、神様どうか、今はそう言わせてほしい。本当の仲間からの言葉なのだ。だから前回のマルコの言葉は『ノーカン』だ。
「俺は必ず、全員を生きてつれて帰る。約束する。だから・・・」
きっと、これから言おうとしているセリフをこんなに大勢に言うのは初めてだ。少し恥ずかしい。
「だから、みんなも俺に力を貸してほしい。俺は強いけど弱い。みんなの力が必要なんだ!」
ユウマの言葉に歓声が上がる。拍手も起きる。そしてユウマの手に力が入った。ユウマの気持ち、それもある。でもユウマの手に力が入ったのは、握った小さな手が強く握り返して来たからだ。
「みんな、わ、私のせいで・・・その、ごめんなさい!!」
クリスの言葉に歓声がやみ、拍手が途切れる。
「わ、私が魔女・・・だから・・・だからみんなをまきこんで・・・」
「クリスちゃん、それは違う!!」
深緑の髪の毛、そしてその横に少し薄くした緑の髪の毛。二人の少女がそう叫ぶ。ちなみに「ちゃん」付けになっていた。普通に考えれば「様」なのだが、彼女達の中で何かが変わったのだろう。
「クリスちゃん、クリスちゃんは魔女なんかじゃない。私もそう思う。私も辛いことがあった。でもちゃんと自分の意志でここにいる。それは私を助けてくれたクリスちゃんが一番知っているじゃない!!私にできることは、すごく少ない。・・・私も・・・クリスちゃんみたいになれたらいいなって・・・思ってる・・・。」
デルテの言葉、あれ、なんか俺のことチラチラみてるのは気のせいですか?いや、違うよ?そんなふうに今、見えてるの俺? もしかしてあれか? 『リア充』だと思われてるのか?
「そうだぞー。全部、あいつが悪いんだからなー。クリスー。お前は一番の被害者だ。お前のその足であいつのアレを踏み潰しちまえ!!」
ニールの下品な応援によって、再び歓声が上がり始めた。潰せ、潰せコール。っておい、マルコ。お前、昔のケイン状態になってるぞー。ま、俺もニールの案には賛成だけどね。
「ニールの言う通りだ。クリスもニールもナディアもデルテもマイクも、ここにいる全員、そして俺も被害者だ。だが今回の戦いが本当に最後だ。作戦だってちゃんと考えてある。安心して俺についてきてくれ。」
作戦行動自体はニールに任せている。それでも、ちゃんと締めるところは締めよう。ユウマはもう一度言う。
「全員、必ず絶対に生きて帰るぞ!!」
死地へ送られるのはユウマも含めて二十名、再起不能になっているクラスメートは幸運だったのか、それとも不運だったのか。この国が認める再起不能とは四肢の欠損か、半身麻痺が出ているものだ。それを幸運なんて呼んでたまるか。
一番戦力になっていたマルコがいないのは痛いが土壇場で裏切られるよりはマシだ。それに今回のユウマはモチベーションが違う。守るべき仲間ではない。かけがえのない仲間なのだ。だからこそ、今ここに勇者としてのあるべき姿が誕生した。
どこが目的地点だったとしても、スタート地点は浅い森だ。深い森を上から見渡せる。最初の頃は皆のモチベーションを上げる為か、領土確保したぞとアピールしたい為かは知らないが、櫓のようなものが建てられていた。だが、もはやその必要もなくなった今、上からはどこに塔を建てたのかは分からない。それでもニールとマイク、二人のおかげで大体が透けて見える。それにどのエリアに、どのモンスターが生息しているのかも分かっている。
後ろには屈強な軍隊が遠巻きに見ている。正規軍所属、それが何なのか、どういう意味なのか、どうして学生の見張りなんてしているのか、知っているのはごくわずかだろう。それでも素晴らしき軍勢ではないか。人を殺すという意味ではだけどね。それに『聖女様』の大活躍によって戦争の被害が少なくて済んだのか、随分兵士が集まっているではないか。だったらお前達が挑めよと素直に思う。
もちろん理由は分かっている。対モンスターとなれば勝手が違う。自分たちの少数部隊の方が圧倒的に練度は上だ。彼らも怖い筈だ。とはいえ、このエリアはまだデスラットかコボルト程度だ。
「ほい、ほい!」
「たーー!!」
ニールとデルテの声だ。今までちゃんと見ていなかったが、しっかりと訓練されている。コボルトなんて余裕みたいだ。今まではユウマ先攻、あとはクリスとマルコが主体で動いていたから、分からなかった。太刀筋だって悪くない。なんてことはない。ニールを中心にして、クリスとマルコを疑っていたのだ。彼らは別の場所で訓練をしていた。きっとニールの伝手で講師まで雇っていたのだろう。そんな彼らをずっとお荷物とか、自分だけが戦っているとか思っていたのだ。
大変申し訳ありません。このユウマというトップが無能なせいで、尻拭いをさせてしまいました。
まだ森は浅いので軽快に進んでいく。パンくずがわりに、木に使えなくなったナイフを突き刺しておく。あまり長く放置すると、そのナイフも埋もれてしまうため、長くは持たないが、三ヶ月程度なら埋もれない長さのショートソードも一定間隔で突き刺している。
後ろの督戦隊も帰れなくなるとまずいので、敢えてそれを抜くことはしない。もちろん彼らが襲われれば、藁をも掴む気持ちで引き抜こうとするだろう。ただ残念、わざと先を錆びさせて抜けないようにしています。その時はご愁傷様と言わせてもらおう。
彼らは望遠鏡でも使っているのだろう。マイクに聞いたが見えないらしい。リサは魔力強化で強視力を得ていたが、ユウマは自前の死にかけムーブメントによって、視力が異常強化されている。ユウマには遠くで整列している督戦隊が見えている。
「ユウマ、そろそろだぞ。」
ニールはパンくずを見ながら、ユウマに話しかけた。
「あぁ。デルテ、装備は大丈夫か?」
デルテはテケテケっとユウマの前に出て、スカートをめくった。いやそんなことをしろとは言っていないのだが、せっかくなので見せてもらおう。
別に素肌ではない。皆、北の兵士から横流ししてもらった、耐刃スーツを身に纏っている。それにちゃんと女性も男性も、あそこ、のみならず、急所と呼ばれる体の箇所はしっかりとガードしている。ニールの働きにより、今回の装備は今までとは桁が違う。
「ほら、ナディアも!」
一応、少女らしさも残している装備なので、スカートを履いている。その下にタイツを履いているようなものだ。デルテがナディアのスカートをめくろうとして、必死にナディアは抗っている。別に下着が見えるという訳でもないのに、やはり背徳感というものは、リビドーにくるものがある。
「えー、ユウマさんになら見せてもいいって言ってたじゃんー。」
「ちょ、デルテちゃん!!」
うわ、死の真っ只中で青春だ。さすがは白銀の団だ。それにしても今回は本当にニールの大手柄だ。装備が充実することにより、「ガンガンいこうぜ」だったものが、「魔法節約、命大事に」することが出来ている。今のところマナの消費は0に等しい。治癒薬もあるのが大変嬉しい。その分、荷物は多くなっているが、言い方が悪いが今までの『お荷物だった生徒達』とは訳が違う。彼らの場合は心のゆとりというものがスムーズな戦闘に繋がるらしく、動きもかなり良い。
「いや、もうすぐ例のゴブリンエリアだからさ。気をつけろってこと。装備を過信するなよ?」
ユウマの中ではゴブリンはチンパンジーかそれより少し知能が上、と認識してる。チンパンジーは恐ろしい動物だ。生き物の精神の弱さを知っている。わざと末端部分を噛みちぎったりして、相手の戦意を挫く。それに末端部には神経が集中しているため、痛みによる恐怖さえも引き起こされる。だからそれも考慮した装備だ。対チンパンジー用装備だ。
装備していて当たり前だ。元々このエリアを通るつもりだったのだから。
このエリアは言ってみれば遠回りになる。だが、ユウマ達は敢えてこの道を選択した。勿論女性戦闘員にも許可を貰った。ここを通ることが今回、とても重要だったのだ。
「ゴブリンに見張られてるぞ。盾、構えとけ。それからマイク、そろそろだ。」
行軍しながら、ユウマはニールとマイクに合図を送る。
「クリス、魔法部隊みんなで全員に強化魔法を、速度強化だ!! それから、全員いけぇぇ!!俺が戻ってくるまで魔法解禁だ、突き進めぇぇ!」
ユウマはマイクの目を見て、お前もいけと合図を送った。マイクは運んでいた荷車を置いて、皆に追いつくようにダッシュした。
「さて、一回暴れとくか。前はお世話になったからなぁ。手土産を用意しといたぜ。」
ボウガンの矢が放たれる音、だがそれを聞き分けられるユウマには当たらない。それどころか掴んで投げ返す。ユウマの『えんじ色のマント』が翻る。複数のゴブリンを同時に倒してしまおう。まだまだバスタードソードの切れ味はするどい。的確にゴブリンの急所のみを狙い、なるべく刃こぼれさせないように努める。一斉に飛びかかってくるゴブリン、そして同じく舞い上がる複数の『土色のマント』。そしてそこから離れる『えんじ色』の光。その光に追いつこうとボーガンの矢が飛んでくるが、矢の方も追いかけるのを諦めたのか、地面が大好きなのか、そちらへ突き刺さった。
その遥か前方でマイクとニールがオークと応戦している。他の戦士隊もオーク一体に対し、二人以上で懸命に応戦し、魔法の詠唱を待っている。魔法部隊を長槍で必死に守り、タンク役のマイクとニールも奮迅の働きを見せている。
『偉大なる
善戦、いや十分に勝っている。その姿を見て、ニヤリとして大きめのオークの頭を跳ね飛ばした。
「お待たせ、やるじゃん、みんな。」
その声にみんなの心に余裕が生まれる。彼が来れば、もはやオークなど敵ではないだろう。皆。使っていた魔法も下位のものへと変える。
「ユウマ、早かったな。それで本当にうまくいくのか?」
「あぁ。遠巻きに見たけど、うまくいきそうだ。今までの歴史から見ても、森深くに人間の国があるってのは聞いたことがない。秘密結社の国があるというのも聞いたことがないし、そもそも文明があるって話も聞いたことがない。ってことはどうしてゴブリンは人間の装備を使っているのかってとこだな。」
ユウマが人差し指を立てて、クイズを出しているかのように言った。
「そっか・・・。私たち人間の真似をしてたんだ。」
「そう、クリス。正解。ゴブリンは過去に討伐隊が使っていた装備を見様見真似で使っている。ボーガンの扱いもその時に覚えたんだろう。だからあの時、奴らは思ったろうぜ。俺たちがひらひらさせてたのってなんだろうって。きっとマントが羨ましいって思った筈だ。風のように飛べるんじゃないかって思ってるかもしれないし、単にかっこいいって思ってるかもしれない。」
そもそも、もっと寒くなると思って用意したマントだったのだが、森の内部はほとんど寒暖の差がない。勿論、ただユウマのリジェネを隠すためだったわけだし、みんなはユウマに揃えただけだ。だからそこに置いて来た。必要ないものならば、必要なものに渡すべきだろう。だから今は白銀の団のシンボルはあのゴブリン達が引き継いでくれた。新たに宣言しよう。ゴブリン白銀団の誕生だ。
「ってことは今頃、督戦隊はゴブリンを俺たちだと思って見張ってるって訳か。笑えるな!」
「うーん。そうなると、ゴブリンたちの奇怪な動きを見て、私たちが本当に悪魔付きだってなっちゃうかもですね!」
ナディアがさらっと悍ましいことを言った。確かに気持ち悪いことになっているだろう。
「そうかもですけど、きっと怪しみますよね。気になって様子を見にいくのでは?」
マイクも真剣に考えている。ユウマはずっと勘違いをしていた。ちゃんとこうやって話せるのが仲間なのだ。皮肉なものだ。最後の最後でこんな当たり前のことに気がつくなんて。
「あぁ、様子を見にいくだろうな。でもそこからが本番だ。」
「だな。ゴブリンなら当然襲いかかる。」
この辺はニールと打ち合わせしている通りだ。
「だから、当分は足止めを食らうことになる。でも大丈夫だ。督戦隊の皆様に本来のお仕事、モンスター討伐をしてもらうだけだからな。そして・・・」
ユウマは地図を見ながら、ニールとマイクはその地図を覗き込みながら、お互いに目を合わせる。
「その間に俺たちは過去の砦を一つ陥落させよう。おそらくだが本来は昔ここにあった街の住民が建てたものだとは思うが、こういうのは決まってモンスターに占拠されているものだ。」
「でも、ここを奪えば・・・」
「だな。この死の森にセーフティエリアを確保できる。」
ユウマが説明し、マイクが反応し、ニールが明るく答えた。督戦隊は確実にゴブリン作戦の餌食になっているだろう。ユウマ達は暫くは好きにできる。もしかしたら退却してくれるかもしれない。ただ督戦隊の退却行為そのものが許されるものなのかは知らない。それに彼らにも犠牲者が出るかもしれない。彼らには彼らの生活があるのだ。人間一人ではどうすることもできない。結局、自分の周りの人しか助けることはできない。
それでもユウマは自分がやっていることが正義だと、今は信じることにした。
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