第12話 スモア3
翌日。
スモアのお父さんを説得するべく、俺は彼女の自宅に向かった。
「……でかいな」
そこは、都内の一等地に立っているような豪邸だった。
見劣りしないように、せめても制服を着てきてよかったと思う。そびえるように大きな鉄の門扉の前で茫然としていると、中からメイド服を着た給仕が歩いてきた。
「――お嬢様から聞き及んでおります。どうぞお入りください、ライル様」
スカートの両端をつまみ、華美な仕草で挨拶をするメイドさん。
何気にこの世界に来てから初めて見たかもしれない。
「ありがとうございます」
軽く挨拶をしてから中に入ると、出迎えたのはスモアだった。
「――こんにちは、ライルくん」
「うん。決心は、変わらない?」
「……はい」
彼女は深呼吸をして。
「お父様が、許してくれるのであれば」
「……よし」
俺の夢も。
彼女の冒険も。
すべて俺の肩にかかっている。
◇
「……客か。珍しいな」
スモアのお父さんは、真っ白なベッドのシーツに埋まるように寝そべっていた。仰向けで、険しい視線だけをこちらに向けている。
「初めまして。ライルと申します」
「……すまんな。客に対して、寝転がりながら話すのは失礼だろう。――メイシュ、起こさせてくれ」
「はい」
メイシュ、と呼ばれたさっきのメイドさんが即座に彼の背後に回り、「失礼します」と声をかけると手早くお父さんの上体を起こさせた。
お父さんの顔が、はっきり見えるようになる。
大きな顔は、とことどころが角ばっていて青く、いかにも不健康そうだ。しかし、髭の手入れだけは欠かしていないのか、真っ白な髭がふさふさと生えていた。
「……して、冒険者育成学校の生徒がなんの用だね」
「はい。それについてなのですが」
「うむ」
スモアは俺の後ろで、息をひそめるように見守っていた。
俺はそれに支えられているような気がして、
お父さんの威圧に負けないように声を出す。
「娘さんを、僕(のパーティ)にください」
「…………」
辺りが静寂に包まれる。
「ら、ライルさん!?」
「……」
なぜかスモアは赤面してわたわたしていて、メイシュは姿勢を正したまま静観を保っていた。
お父さんは、やがて瞳孔を見開いて。
「なん、だ、と――ッ!」
ガバァ! と起き上がると、
お父さんは病人とも思えない切迫した顔で俺に問うた。
「そ、それはどういうことだワレェ! 娘をお前(の嫁)にやれだと!?」
「はい。俺には、彼女が(パーティに)必要なんです」
俺は怯まなかった。
その真剣な視線に、お父さんも取り乱すのを止め。
「……本気なのか」
「はい。もちろん、今の状況のままタダで、とは言いません」
「どういうことだ」
さあ、ここからが俺の考えた策だ。
「お父さんの体の状況は知っています。娘さんが傍にいないのは、とても心配でしょう。なので、もしスモアが僕と冒険に出かけることを許してくれるのであれば、必ずこれだけは守る、という約束を二つ立てます」
「ぼ、冒険……?」
なぜか、お父さんは面食らったようだった。
「はい」
「……娘をくれというのは、もしかして、パーティに、か?」
「……最初から、そのつもりで言ったのですが」
なにか勘違いをしていたのか、彼は安堵したように息を吐きだしていた。
見れば、スモアも同じように、見方によれば、ガッカリしたように息を吐き。
メイシュはそれを知っていたのか、眉一つ動かずその場で静止していた。
「……で、その約束というのはなんだ」
続けろ、と彼は促しているようだった。
「一つは、彼女に『転移』の魔法を冒険中に習得させることです」
転移魔法は、その名の通り、自分を遠くの場所に転移させることができる魔法だ。ただし、転移できる範囲は、自分がその土地を一回でも踏んだことがあることが
条件だが。
「転移、だと? 魔術学院の生徒たちでも習得するのが難しい高等魔法ではないか」
そう。魔法というのは、実用性に長けているほどマスターするのは難しい。
転移なんて、便利なものなら尚のことだ。
「はい。しかし、冒険の道中で沸くモンスターなどを倒すことで、在学中に座学を受けるより多くの経験値を得ることができます。そうすれば、この家に帰りたくなったときに、いつでも帰ることができます」
「……ふむ」
「そして、俺が約束できるのはもう一つ」
これは、約束するまでもないことだが。
「娘さんは、僕が必ず守ります。
たとえ道中で、なにがあっても」
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