第4話 プロローグ4


※ 今回はちょっと短めです

本編↓


それからというもの、俺は、とにかく成長を早くするために自分を鍛え始めた。


出された食べ物はぜんぶ食べるように努めたし、2歳児にできる範囲のトレーニングも欠かさなかった。とにかく、自分の体を構成する練習を俺は始めたのだった。


『今日の成果――身体強度が9上がりました』


鍛え始めて1年も経つ頃には、1日の終わりにそんな声が頭のなかに流れるようになっていた。これは自分自身の適正ポテンシャルが強い者に発現する、一種の能力らしく、その日、自分がどれだけ成長できたかを記録してくれる。


俺は成長適正グロウ・ポテンシャルと呼ばれるそれに、1日の成果を全振りしていた。

本来の人間であれば、1日に上がったステータスを魔法や剣技など、様々な分野に配分するところを、俺は体の成長の1点のみに集中させている。これにより、並みの2歳児よりも、約3倍のスピードで成長することを可能にしていた。


……我ながら、よくできたチートだ。

しかし許してほしい。もともとは高校生のこの身、幼児体系ではできないことが多すぎてやきもきしてしまう。たつものもたたない。何がとは言わないが……。


――そして、3年ほどの月日が流れた。



「――ライルってば、もうすっかり大きくなっちゃたわね……」


お母さんは感嘆するように、俺の肩に手を乗せながら言った。その視線は、もはや下にある。


――俺はその日、2度目の16歳の誕生日を迎えていた。


「いやあ、俺の息子は成長の天才だったんだな!」と、父さんも得意げだ。酒で顔を赤くしながら、その屈強な腕で俺をぐーっと引き寄せる。「よせよ親父、苦しいって……!」


成長適正のゲージは、すでに赤色。それ以外の魔法や剣技、家事などの一切のスキルは初期の白のままだが――俺は、この3年間でもとの体に近しい体躯を手に入れていた。

いや、見方を変えれば、上方修正されたといっても過言ではない。まず、見た目が格段によくなった。エルフである母と獣人の父親(?)のあいだに生まれたからか、顔立ちが丹精に育っている気がする。髪も柔らかい黄色で、ゆるいパーマがかかっている。


……もともと通っていた高校は黒髪強制の、頭髪をいじることも禁止だった。

それに比べて、異世界の自由度といったらない。学生であるときは、学力を伸ばすことを是非とされているが、この世界では、スキルで何を伸ばすのも自由だ。


そして――…。


「……なあ、二人とも」


「ん? どうしたの、ライル」

「どうかしたのか?」


暖かい食卓のなかで、二人が俺を見やる。

これは、今日この日、16の誕生日に二人に言うと決めていた。


「――俺、冒険者になりたいんだ」



「冒険者になりたい、って……。お前」


父さんは俺を、真剣なまなざしで見た。


「……本気なのか?」

「ああ」

「簡単には帰ってこれないし、いつも危険と隣り合わせで。それよりもまず養成所の厳しい試験を乗り越えなければいけないんだぞ。それを分かっているのか」


「……分かってる、つもりだ。だから、旅に出たい……です」


いや、本当は分かっていない。木こりとして、いつも魔物の住んでいるフィールドに赴いている父さんと俺とでは、スキル云々ではなく、積んできた経験の差が違う。


そんな父が、危険だと――俺が心配だと、遠回しに言っているのだ。


「いいわよ」


そう言ったのはお母さんだった。

お茶を口に運びながら、いたって普通の声と仕草で。笑顔で。


「いつか、そう言いだすと思ってたわ。私の息子だもの。……でもまさか、こんな早く巣立ちの時間が来るなんて思いもしなかったけどね」


それから、パチン、と俺にウィンクした。

俺は苦笑しながら彼女の話を聞いていた。


「ねえ、あなた。あなたも本当は、知っていたんでしょう?」


「……ああ。男は探求心には、逆らえない生き物だからな」


そう言うと、父さんが机の下からゴトッと何かを取り出した。


「――木刀だ。お前が冒険者になりたいと言い出したときに、渡すと決めていた」

「……親父」

「試すようなマネをして、すまなかったな。あれくらいで言いよどむくらいなら、最初から俺たちに提言したりしないよな」「旅を終えたら、必ず帰ってくるのよ。それだけは、約束してね」

「母さん……」


俺は本当に、いい両親に恵まれたんだな。


「――さて、それじゃあ養成所へ入学しないとな。ライル」

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