第503話 囮役
「まずは…逃げるか」
俺は向かって来ているベヒモスを見ながらそう呟いた。俺がベヒモスに吹っ飛ばされたのは王都方面だった。つまり、ベヒモスも王都方面に向かって来ている。だから、逆に、俺が王都と反対方向に逃げればベヒモスも王都から反対方向に向かうだろう。
「お兄ちゃん!あまり王都から離れた方に向かわないでください!」
「え?何で!?」
俺が逃げようとすると、ソフィがそう声をかけてきた。
「下手にベヒモスを動かすと、魔物が予想だにしない方向に逃げてしまいますので、その先に村や町があったら大変です!」
「あ、確かに!」
王都は高い城壁とかなりの数の騎士と冒険者が待ち構えているからベヒモスから逃げてきた魔物に対処できている。しかし、それらが他の村や町に行ったらそこにいる人達に防衛手段は無いだろう。
「ということは…」
「お兄ちゃんはベヒモスの足元で攻撃の回避にのみ専念してください!もちろん、危なくなったら大きく王都方面に避けていただいて構いません」
俺がベヒモスの足元で攻撃を避け続けていたら、ベヒモスの歩みは遅くなるだろう。
「ソフィはどれだけ俺の反射神経を信頼しているのか…」
俺はベヒモスを見上げながらそう呟いた。ベヒモスの攻撃を俺に集中させても、俺なら回避可能だとソフィは思っているようだ。
「まあ、俺にヘイトを向け過ぎるのも良くないし、少しの間は回避に専念しよう」
俺は振り下ろされた足を避けながらそう言った。
ベヒモスにトドメを刺すために霹靂神を放つ必要がある。その時に今のように俺にかなりのヘイトが集中していると、準備なんかしていられない。だから、少しの間は攻撃は皆に任せよう。
「まあ、隙を見つけたら俺も攻撃するけどな!」
俺はベヒモスの足を剣で斬りつけた。しかし、ベヒモスの足に傷は付かなった。こうして囮役を俺はしばらくの間続けた。
「だいぶ俺へのヘイトが減ってきたな」
もう日が暮れるくらいの時刻になってきた。その頃には俺へのヘイトはだいぶ移ってきている。
「おっら!」
ベクアがヘビモスの胴体をぶん殴った。
「やっぱり内部の攻撃は効くようだな!」
ベクアはベヒモスにダメージを食らわせるために、ベヒモスの内部に浸透するような攻撃を編み出していた。
「水刃!」
エリーラの放った水の刃はベヒモスの身体に縦の切り傷を付けた。エリーラは俺が雷刃でダメージを与えたのを参考にしたのか、高密度に圧縮した薄い水の刃を放って攻撃している。
「はっ!」
「ん!」
そして、シャナとキャリナは傷を付けることはできていないが、俺とソフィとエリーラが付けた傷の上から鎌や鉤爪で攻撃している。自動再生でもあるのか、ベヒモスの傷は放置しておくと、勝手に治っていく。それをさせない為のシャナとキャリナだ。
「エクスプロード」
ドゴンッ!という激しい音と共にベヒモスの胴体で爆発が起こり、ベヒモスの巨体が少しぐらついた。多分、1番ベヒモスにダメージを与えているのはソフィだろう。俺のヘイトもソフィに移ってきている程だからな。
「そろそろもう一撃入れるか」
暗くなってきている中、ソフィにヘイトが向くのはあまり良くないだろう。俺は夜目のスキルレベルが高いので、暗くても普通に周りは見えるが、ソフィはそうでは無いだろう。
「神雷ハーフエンチャント」
俺は回復ハーフエンチャントを神雷に変更した。そして、神雷纏を闇皓翠と光皓翠に集中させた。ベヒモスがソフィの魔法によって、ソフィに気を取られた今がチャンスだ。俺は地面を蹴ってベヒモスの腹までやってきた。
「はっ!」
俺はベヒモスの腹を剣で斬り付けた。腹と体の横とでは硬さはほとんど変わらなかったが、攻撃に特化させたこともあり、ベヒモスの腹に傷を入れられた。
「まだまだ!!」
これ以降は再び俺にヘイトが向くだろう。そうすると、今みたいに攻撃に専念することはできない。だから、今のうちに攻撃をするしかない。俺はもう一度剣を振って傷を付けた。
「ちっ…」
もう一度…と思ったが、ベヒモスが俺を押し潰すように伏せて来たので、俺はベヒモスの下から出た。
「雷刃!」
出た時にダメ押しで雷刃を放った。雷刃はベヒモスの顔に傷を付けた。
「ウオオオオォォォォォォォ!!!!!!」
5回傷を付けたので、5つのスキルを封じたことになる。ベヒモスはさっきよりも強い殺気を俺に向けている。これはもう俺以外にヘイトを向けてくれそうにないな。もう簡単に俺の攻撃は受けてくれなさそうだ。
捨て身で全てのスキルを封じるために攻撃しようかとも少し思ったが、追い詰められて普段使わないような強いスキルを使われても困る。それに、全てのスキルを封じるまでに何回攻撃するか分からない。そもそも捨て身なんてことをしたらソフィにどれほど怒られるか分からない。
俺はハーフエンチャントを回復に戻して、神雷纏も身体中に纏い直して再び囮に専念した。
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