第502話 敵認定

「雷龍!」


俺はジールの精霊魔法である雷龍を放った。龍の姿をしている雷の塊はベヒモスに噛み付いたが、特にダメージを与えることも無く消えていった。



「こんな硬いやつにソフィはどうやって傷をつけていた?」


俺はベヒモスから少し離れてそう考え始めた。未だに俺の見てわかる範囲では、ソフィしかベヒモスに傷をつけれていない。


「場所…ってわけではないよな」


ソフィが攻撃した場所は特に何も無い普通の胴体だ。だから別に弱点を狙ったわけでは無さそうだ。


「苦手属性?」


次にソフィが混ぜた魔法の中にベヒモスの弱点である属性があったのでは?とも思ったが、そうだったとしたらその情報はソフィがみんなに共有するだろう。それをしないのを考えると、ソフィしか使えない属性か、そもそも弱点の魔法なんて存在しないか、ソフィがどの属性の魔法が弱点だと気が付いていないかだ。まあ、最後の可能性はほとんどないだろう。


「っとなると、あの魔法そのものかな?」


ソフィの魔法は針を放つという一点集中の魔法だった。対して、俺の雷刃や雷龍はそれなりの広範囲を攻撃していた。雷刃に至ってはコントロールできず、予想よりも大きくなっていた。



「雷刃!」


俺はベヒモスの胴体目掛けてさっきよりもかなり小さい雷刃を放った。小さいとはいっても、込めた魔力量的にはさっきのとほとんど変わらない。


「違う…!」


しかし、小さくしただけではバチトンッ!という音が鳴るだけで、ダメージを与えることはできなかった。


「そうか。もっと薄くしないとダメなんだ」


あくまで雷刃は斬撃のイメージで放っている。それなのに、雷刃がベヒモスに当たった時の音は打撃音だった。


「斬撃も剣法の一部…。適当じゃダメなんだ」


雷刃は魔法ということもあり、少しいい加減に剣を振っていたというのがあったのかもしれない。


「ふぅ……」


俺は剣を一旦鞘の中にしまって、左右の腕をクロスして闇皓翠と光皓翠を握った。


「…っ雷刃!」


そして、できるだけ鋭く抜刀した時に雷刃を放った。‪✕‬印で放たれた斬撃はベヒモスにぶつかった。


バシュッ!


ベヒモスの身体の横には人一人分程の‪✕‬印の傷が付いた。ベヒモスの大きさを考えれば決して大きくも深くも無い傷だが、確実にダメージになった傷だった。


ピタッ……


ベヒモスは俺が傷を付けて数秒経つと、急に立ち止まった。


キョロキョロ…グルンっ!


そして、少し周りを散策するように顔を下に向けて動かしていた。そして、俺を見つけると、俺の方を向いて止まった。


「…初めて目が合ったな」


ベヒモスが俺の事を凝視しながら、身体を俺の正面に向き直した。


「ウオォォォォォォ!!!」


「ぐっ…!」


そして、ベヒモスは空気全体がうねるような低い雄叫びを放った。その雄叫びはまるで衝撃波のようなもので、俺は吹き飛ばされないように踏ん張った。


「まじか…!」


ベヒモスは雄叫びを放つと、俺に向かって一直線に向かってきた。

ベヒモスは初めて俺を敵と認めたようだ。


「何のスキルを封じたのか分からないが、そんなに封じられたら嫌なスキルだったか!」


俺は悪魔憑き中にベヒモスにダメージを与えた。つまり、ブロスの能力で使用頻度の高いスキルをランダムで1つ封じたということだ。ベヒモスが俺に怒っているということは、そんなに大事なスキルを封じられただろう。


「ウオォッ……」


ベヒモスは俺に近付くと、低く唸りながら頭を地上にいる俺に向かって振ってきた。

危機高速感知が反応していたので、精霊化はしていたが、俺は角に当たらないよう後ろに離れた。パワーはあるようだが、頭を横なぎに振るスピードはお世辞にも速いとはいえなかった。

俺はスピードが遅いからとSSSランクであるベヒモスを相手に少し油断してしまっていた。


「ん…?」


ベヒモスの角が当たらないところまで下がったが、まだ危機高速感知の反応は止まらなかった。更に後ろに何歩が下がってもそれは一緒だった。そんなベヒモスの角が俺の前を通過する瞬間に角の先に魔力の塊が伸びてきた。


「っっ!?」


その伸びた魔力が俺に当たるのは声を出す暇もないほど一瞬だったが、神速反射でギリギリ反応できた俺はその魔力の塊を闇皓翠と光皓翠で何とかガードした。


「うぐっ………」


「お兄ちゃん!」


ガードする事はできたが、俺は数十メートルも勢いを押し殺せずに吹っ飛ばされた。



「くそっ…腕が痺れた…」


何度も土の上を回転して止まった時には何度も転がる時にぶつけた体よりもベヒモスの攻撃を受け止めて痺れてしまった腕の方が痛かった。受け止めてこれだったのだから直撃したら間違えなく致命傷、最悪一撃で死ぬことも有り得る。やはり、ベヒモス相手に一瞬でも油断してはいけないな…。


「よしっ…」


吹っ飛ばされた俺に向かってきているベヒモスを見ながら俺はいっそう気を引き締めた。


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