第398話 宣戦布告

「…遅い」


「ごめんって…」


首都へ入る門の入口でシャナ、エリーラ、キャリナが俺達のことを待っていた。


「それでこれはどういうこと?」


「ん?」


シャナが紙を見せ付けるようにひらひらと振った。多分あれはソフィが書いた置き手紙だろう。


「ソフィ、あれにはなんて書いたの?」


「私とお兄ちゃんは人目に付いてはいけないことをするので、居なくなります。っと書きました」


「はあーー………」


嫌な予感がして置き手紙の内容をソフィに尋ねたが、俺は大きなため息がでた。

確かに間違ったことは1つも言っていない。しかし、その文では誤解してくださいと言っているようなものだ。もちろん、それをソフィは分かってて書いたのだろう。



「それで本当は何をしてたわけ?ベクアが居るから置き手紙通りのことではないのは分かっているわ」


「ソフィ、今度は誤解のないようにしっかり説明をして」


「分かりました。まず、置き手紙を誤解を与えるような書き方をしてごめんなさい。それで、本当の目的はベクアとお兄ちゃん、私とお兄ちゃんで模擬戦をするためです」


ソフィは頭を下げて謝ってから、置き手紙に書くべきだったことを話した。



「それが理由なら普通に前もって話しておけ…」


キャリナが話している途中でシャナがキャリナの前に腕を出して遮った。そして、シャナはエリーラの方を向いた。


「…心を読めない私でもそれくらい分かるわよ。その理由をゼロス達に言わせるのはダメだわ。

キャリナ。私達に言わなかったのは、私達が居ると気を使って本気で戦えないからだわ。

ソフィアならゼロスとベクアとの余波程度なら確実に魔法で止められるでしょうし、ベクアなら、ゼロスとソフィアの魔法の流れ弾を殴り消せるから」


エリーラはキャリナに説明するようにそう言った。

エリーラの言っていることは間違っていない。だからこそ、なんて言っていいか分からなかった。


「言っておくけど、あんた達が3強なのは今だけだから。あんた達とは違って私やシャナなんかは徐々にじゃなくて一気に強くなるタイプなのよ。今に追い抜くから待ってなさい」


「すぐに追い抜いてやる」


「油断しないで待ってるよ」


2人はどこか自信がありそうな感じでそう言った。ということは、強くなる方法は分かっているのだろう。今はそれのための試行錯誤段階ということなのか。


「あれ?私は…?」


そういえば、エリーラはキャリナが追い抜くとは言わなかったな。


「キャリナはまだまだ成長中。まずは、私達に追いつくところから頑張って」


「わかりました!」


まだキャリナは魔眼を使い始めたのも、獣鎧を使い始めたのも、獣と契約したのも最近だ。まだまだ成長段階だろうな。逆に何をすれば強くなるかが分からない段階の分、難しいかもしれない。


「先に宣言しておくわ。ゼロス、海にいる間に私と制限無しで模擬戦をしてほしいわ。その時に私の成長を見せ付けてやるわよ。負けた時の言い訳を今から考えておきなさい」


「…楽しみにしているよ」


正直、エリーラにとっては俺との相性は良くないだろう。なぜなら、俺は精霊王のユグと雷の最上位精霊のジールの系2人の精霊と契約している。それに対して、エリーラの契約している精霊は水の最上位精霊の1人だ。精霊界から魔力も持ってこれないエリーラでは俺に勝つのは難しいと思う。

しかし、エリーラはそれらを全て分かっていて、宣言しているのだ。つまり、何か策があるということだ。

ん?水の最上位精霊と契約しているエリーラと海で模擬戦?やばい、嫌な予感がしてきた…。



「じゃあ、私も宣言しておく」


「ん?」


今度はシャナがそう言った。

また俺への宣戦布告かと思ったが、シャナはゆっくり腕を上げて、ソフィへ指を指した。


「ソフィア、海にいる間に私と模擬戦をして。魔族とお兄ちゃん以外には負けるはずがないと思っているソフィアの鼻っ柱をへし折ってやる。ゼロスを守れるのはソフィアだけじゃないって教えてあげる」


「…いいですよ」


心を読めるシャナらしい宣戦布告だ。ソフィは一瞬ギラっとしたイラついたような目になったが、すぐに余裕そうな笑顔に変えて答えた。


「あの、じゃあ私も!」


「おっ…!」


最後にキャリナがそう声を上げた。その瞬間、ベクアからは凄く嬉しそうな声が漏れた。


「ベクア兄様!海にいる間に私と模擬戦をしてください!3位決定戦でベクア兄様に惨敗した私ではまだ勝てないでしょう…。しかし、勝てないにしても絶対にベクア兄様が本気を出さざるを得ないほど強くなってみせます」


「そうか!期待外れになるなよ!」


こうして、海にいる間に俺とエリーラ、ソフィとシャナ、ベクアとキャリナの模擬戦をすることが早くも決まった。


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