第382話 プレゼント
「あ、みんなで仲良く来たみたいだね」
俺達が路地裏にやって来たのを見たイムの第一声はそれだった。ちなみに、イムの横にはリュウも居た。リュウの魔力は相変わらず感知できなかったから来るまでわからなかった。
「別に1人で来いって言われてなかったからな」
「確かに言ってないね。だから別に問題ないよ」
どうやら、今回は俺だけを呼びたかった訳では無いようだ。
「はい、これ」
「っ!?」
イムは突然何か筒状に丸めた紙を投げてきた。いきなりのことだったので、魔法や魔導具を警戒したからキャッチせずに避けた。しかし、落ちたそれからは何の魔力も感じなかったのでそれを拾った。
「…これは地図?」
警戒しながらもその紙を開くと、そこには地図のようなものが描いてあった。
「そう。それは深林の地図だよ。僕達が実際に見て描いたやつだから、一般に出回っているそこらの地図よりは遥かに正確だと思うよ」
「深林の!?」
俺はその地図を凝視した。確かにその全体の形は深林の形と酷似している。
一応高ランクの冒険者のために深林の地図は高価ではあるが出回っている。しかし、それらは深林の浅いところまでしか描かれていない。だから俺達にとっては全く役立たない。
「正確ってことは、ここに描いてある…」
「ああ。本当のことだよ」
地図の中には魔物の分布だけでは無く、地形や火山地帯や氷山地帯や砂漠地帯などの気候的なことまで書いてあった。
深林は人間領と同等かそれ以上大きいと言われている。だから火山や氷山や砂漠なんかがあっても不自然ではないか。
「何でこれを俺達に…?」
イム達が頑張って描いたこの地図を俺達に渡すメリットはほとんどない気がする。
「これは君達じゃなくて、ダーリンのためにダーリンにあげたの。そこを勘違いしないで」
「っ…ああ」
イムは少し睨みながらそう注意した。イムはこれを俺のために渡したようだ。その場にいるリュウが否定しないところを見ると、それは本当のようだ。
「ダーリンが効率よく強くなるためにこれは役立つでしょ?」
「…まあ」
確かにどの辺にどのような魔物がいるかが分かれば、対峙した時にやり易い。さらに、気候が分かれば、事前にその対策を取ることも可能になる。
「それに、魔人と会うにはかなり役立つよ」
「………」
その地図には魔人の居場所までしっかりと描かれていた。
「魔人は時々生活場所を変えるみたいだから、行った時に居なかったらごめんね。でも、それほど遠くには行ってないと思うから探してね」
「…俺達が魔人に会いに行くのは確定事項になっているのか」
まだ俺達は魔人に会いにいくとは一言も言っていない。
「ゼロスは会いに行く。もっと強くなるために」
「…」
今日初めてリュウがそう話した。
確かに強くなるためには、魔人に会った方が良いのだろうとは思う。なぜなら、こんな深林の奥地にいる魔人達からは学べることが多いだろうからな。
「まあ、行っても行かなくてもどっちでもいいよ。ただ、どっちを選ぶにしても魔人の居場所が分かっていた方が便利でしょ?」
「それはそうだな…」
魔人を避けるにしても場所を分かっていた方がいいのは確かだ。不意にエンカウントする心配がすくなくなるからな。
「あ、ちなみに、僕達魔族の居場所は敢えて描かなかったよ。さすがに攻めてこられたら僕達でも魔王として魔族に示しをつけるために殺さないといけなくなるかもしれないからね」
「…気遣いありがとう」
今の力でイムやリュウを含む魔族達を殲滅できると言う程俺は強くないのは自覚している。いや、イムやリュウが居なくても殲滅は不可能だろう。なぜなら、恐らくデュラと同格レベルの魔族は複数人いるからだ。
魔力を使えばデュラには勝てると思う。しかし、デュラと同じくらいの強さの魔族を同時に2人、3人と相手にして勝つのは不可能だろう。また、ソフィはデュラレベルでも1対1なら勝てると思うが、シャナ、エリーラ、キャリナは少しきついだろうからな。
「今日の目的はそれを渡すためだけだから、もう僕達は帰るとするよ。ダーリンも今この場で僕達と殺り合うつもりは無いよね?」
「無いから安心してさっさと帰っていいぞ」
「むー…!つれないな〜!」
イムはそう言いながらも、魔力を纏い始めた。
「気が向いたら、魔族の居場所を探してみてね」
「探さないから安心しろ」
確実に避けるために探そうとも一瞬考えもしたが、逆に魔族に見つかった時のことを考えると探すのは無しだろう。
「ざーんねん!またね〜」
「またな」
イムとリュウがそう言うと、2人は消えた。
「…厄介なものを貰いましたね」
「そうだな」
地図を貰う前なら魔人を探さないが、会う可能性がある森林の奥で魔物を狩るという選択肢もあった。
しかし、魔人の居場所がはっきり分かる地図を貰ったせいで、魔人に会いにいくか、会いに行かないかの2択を押し付けられてしまった。
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