第380話 負荷

「い゛…!」


「動かないでください」


「あ、すみません…」


俺は全身の痛みと共に目が覚めた。どうやら、俺は治療室で聖女から治療を受けているようだ。



「……私もゼロス様の戦いを見ていました。それに事情もある程度はわかっています。なので、無理をしなければならないとも分かっています。しかし、こんなになるまで頑張らないでください」


「……そんなに酷い?」


「酷いなんてもんではありません!全身がボロボロになってます。私の聖魔法を持ってしても、今日だけでは完治することはできないでしょう」


どうやら、俺が思ったよりも神雷トリプルハーフエンチャントの負荷が大きかったようだ。まあ、ずっとダブルエンチャントやダブルハーフエンチャントで負荷がかかっていて、身体が悲鳴をあげている中で使ったからというのもあるのだろうけど。

ちなみに、俺は全身の骨は最低でもヒビ、酷いと粉砕気味にまでなっているそうだ。さらに、全身の筋肉などもかなり傷んでいるそうだ。もしかすると、全身の筋肉が肉離れ状態になっているのかもしれない。だから、俺が回復魔法を使っても気休め程度にしか回復しなかったそうだ。

試合中は興奮状態だったからまだ平気だったが、今は全く動ける気がしない。



「最近は戦った後に毎回気を失ってる気がするな…」


真剣な表情で治療をしてくれている聖女には聞こえないような声で俺はそう呟いた。

あのアンデッドの魔族、デュラ、リュウ。リュウはともかく、他の奴らには勝ってはいる。しかし、戦い終わった後に気を失っている。

毎回全力を出せていると捉えれば良い事なんだろう。しかし、その他にも敵が居たとしたら、俺は勝ったのに殺されているだろう。



「あ、そういえば、リュウに魔法を使った疑惑、突然の乱入者などが要因で表彰式は延期になりました。もちろん、もし今日に表彰式があったとしたらゼロス様は主席できませんでしたよ」


「あ、そうなんだ」


ちなみに、ソフィ達などは魔族が居ないか街中を見回っているそうだ。早く俺の知る限りの真相を話したいのだが、今は動けそうもない。


「今は余計なことは考えずに、休むことだけを考えてください」


「…うん、そうするよ」


俺の考えが顔に出ていたのか、聖女にそう言われてしまった。

もし魔族絡みで何か問題が起こったとしても、今の俺には何もできない。むしろ、見られているから狙われる可能性が高い分、足手まといだろう。今は少しでも早く身体を治すことを考えるしかない。

そう考えて身体の力を抜いていると、すぐに眠くなってきた。どうやら、俺は思っているよりも疲れているようだ。治療は聖女に任せて俺は眠った。




「ん…?」


「あ!目が覚めましたか!?」


「ソフィか」


次に俺が目を覚ますと、ベッドのすぐ近くにソフィ、シャナ、エリーラ、キャリナが居た。そして、少しベッドから離れたところにベクアが居た。


「ゼロス様、とりあえず普通に動くのが問題ないくらいまでは回復できました。今日はもう遅いので、これで終わりにします。ただ、激しい動きは絶対に控えてください。それから、また明日治療に来てください」


「ああ、ありがとう」


聖女が疲れ切った表情でそう言って、ふらふらしながら部屋を出た。聖女はかなり無理をして治療をしてくれていたようだ。



「確かにもうどこも特に痛くは無いな」


軽く体を動かした見たが、全くどこも痛くない。ところどころ少し違和感があるが、戦闘できなくはないだろう。まあ、もちろんしないけど。


「ゼロス。起きて早速で悪いんだが、何があったのか聞いていいか?」


「ああ」


俺はここに居るメンバーにあったことを話した。話した具体的な内容は、リュウが魔法を使うなどの暴走した理由、ソフィやベクアに手を出させなかった理由、イムがやってきた理由だ。



「なるほどな。そういうことだったのか」


全てを話し終えた時にベクアはそう言った。


「すまんが、今の話を俺から親父にもしてもいいよな?」


「もちろん」


「分かった。今から伝えてくる。ゼロス、また明日な」


「ああ、また明日」


本当は俺から伝えた方がいいんだろうが、ベクアは俺の体調を気遣ってくれた。



「それでは、私達も宿に戻りましょう」


「ああ」


ソフィ達は特に何もコメントをせずに宿に向かった。外に出るともう夕方も過ぎて夜になっていた。話していた時間を抜いたとしても、俺はかなりの時間治療されていたようだ。




「…いや、どうして?」


宿に着くとすぐに4人は俺の部屋に布団を敷き始めた。


「夜中にイムがやって来ないとは限りませんので」


「護衛のため」


「精霊王様に何かあったら困るからよ」


「頑張って守ります!」


ソフィ、シャナ、エリーラ、キャリナの順にそう答えた。断ろうとしてもソフィだけは何があっても絶対に納得しないだろう。ソフィが良いなら他の3人も拒否できなくなる。


「…じゃあ、今日はお願いするよ」


別に共に夜営などは何度もしたことがある。むしろ、同じテントの時よりは距離もある。だから頑張って説得してまで断らなくてもいいよな。それに、本当にイムが来た時に俺1人では対処は難しいだろうからな。


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