第378話 一矢報いたい

「はっ!」


「ふあっ!?」


リュウは直径10mはあるであろう炎の白い玉を放ってきた。かなりの魔力量が込められているそれを食らったらまずい。俺はそれを今まで通り斬り消そうとした。


パンッ!


「ほえっ!?」


その火の玉は剣が当たる直前で弾けて、バスケットボールほどの大きさの無数の玉に別れた。


「くっそ…!」


それらは弾けて飛び散っても、全て俺の方へ向かってきた。慌てて全てを斬り消そうと頑張った。



「はあ…はあ……」


結果としてほとんどは斬り消せたが、数発は当たってしまった。小さくなったとしても一発一発良いダメージが入ってしまった。


「魔法が斬り消せるからといって、魔法に対して警戒が薄いからそうなるんだ」


「…いい経験になったよ」


確かに魔法が斬り消せるからと魔法に対して驕っていたのは否定できない。


「次は……」


リュウがそう言った次の瞬間、リュウの手の平が目の前に合った。


「あっぶね!」


「…相変わらずの反射神経だな。その反射神経だけは負けるぞ」


俺は慌てて仰け反って、その手の平を避けた。


「ゼロスはせっかく上から見えるいい視点を持っているのに、普通の目に頼り過ぎだ。だからまばたきをしている隙に攻撃されそうになるんだぞ」


「…注意しておくよ」


まあ、まばたきの間に攻撃を当てる寸前のところまでいけるのはリュウくらい強い奴しか居ないだろうが、注意が必要なのは分かった。



「教えながら戦うつもりか?」


「多くを教えても、次に会う時にどれも不完全になりそうだ。だからこれで教えることは終わりだ」


リュウはそう言い終わると、強いプレッシャーを放ってきた。


「行くぞ?」


「ああ…俺がな!」


俺は先手を取るために俺からリュウへ向かって行った。リュウは笑いながらそれを迎え撃った。



「はっ!」


「ふっ!」


俺とリュウは至近距離の打ち合いになった。最初は俺から攻めたということで、俺の方が攻撃の手数が多かった。しかし、次第に俺の手数が減っていった。最終的に防戦一方になってしまった。


「くっ…!」


防戦一方だったが、リュウに隙ができた。リュウの両腕をクロスするように受け流したことで、腹が空いたのだ。足は腕の攻撃のために踏ん張っていて、蹴りができるような体勢ではない。


「はっ!」


俺はここだ!とばかりに全力で両腕をクロスして剣で斬り付けようとした。


「ふっ!」


「あぐっ!?」


その俺がクロスした腕の間を通して、リュウは尻尾で俺の顎を殴り付けた。


「はっ!」


「だあっ!!」


尻尾でのアッパーで浮いた俺にリュウは回し蹴りを放ってきた。俺はそれを9つの尻尾で上から叩き付けて、地面に蹴りを叩き付けるように無理やり方向を変えた。


「はあ……」


俺には元々尻尾なんて無かったから、それを戦闘で使うというアイディア自体が無かった。今は9つを全てまとめて動かしたからできたが、9つをそれぞれバラバラに動かして戦闘に使うのはまだまだできそうも無い。


「くそ…」


さっきからリュウの言った通り、ずっと遊ばれている。今の俺とリュウとの実力差がかなりあるのは分かった。だが、せめて一矢報いたい。


「…悪魔憑き」


だから俺は悪魔憑きを使った。


「うっ…」


悪魔憑きを行ってから、リュウへの殺意などが溢れてきた。しかし、それぞれのスキルレベルが上がったことで、最初に悪魔化と悪魔憑きを同時に行った時みたいに暴走するなんて事はない。


「いい殺気だね」


別にブロスの能力を使うつもりは無いのに、ステータスもほぼ変化しない悪魔憑きを行った理由は2つだ。1つはリュウを殺しに行くという明確な意志を持つためだ。そしてもう1つの一番の理由が俺の行動を予測されないためだ。


「はあっ!」


「…ん?」


リュウは俺との打ち合いで少し困惑の表情をした。それはそうだろう。今まで俺の動き方はほとんど予測できていたのに、急にその予測通りに動かなくなったからだ。悪魔化と悪魔憑きを同時に行ったことで俺の動きが少し野生的になったのだ。


「あがっ!」


まあ、そんな少しの単純な変化くらい、リュウはすぐに対処する。現に俺は尻尾で頭を上から殴られた。

だが、それは計算通りだ。俺は急に悪魔憑きを解除した。


「あっ…」


「はあっ!!!!」


俺の動きが再び元に戻ったことで少しリュウの動きが鈍った。その隙を逃さずに俺はリュウの顔に闇翠で斬りかかった。


「あぐっ…あぐ」


「反射神経について人の事言えないじゃねえかよ」


リュウは俺の闇翠を口で噛んで止めた。だが、口の中は硬い鱗が無い。もしこのまま剣を押し込めれば…。


「神雷エンチャント!!」


俺は回復エンチャントを神雷エンチャントに切り替えた。リュウは咄嗟に何かを感じとったのか、俺がエンチャントを変える直前で口で咥えている剣を両腕と尻尾でガードして、口を離した。


ドカンッ!!


そんな激しい音がなるほど、リュウは勢いよく場外にある壁に叩き付けられた。



「あ゛ーーー!!ハイヒール……!」


俺は地面に蹲りながら回復魔法を何度も使った。もう神雷エンチャントは回復エンチャントに戻している。さっきの一瞬だけでも身体の負担が大き過ぎた。回復魔法を何度も使った今でも、全身が引き裂かれるかと錯覚するほど痛い。


「今のはかなり効いたぞ」


壁にの瓦礫を押し退けながらリュウが埋まった壁から現れた。そんなリュウの腕と尻尾はかなり深くまで斬れていた。




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