第364話 リュウvsキャリナ

「お、キャリナが使い始めたな」


キャリナが俺の雷電トリプルハーフエンチャントを使い始めたのを見てベクアがそう言った。



「かなり黒に近いグレーだからベクアが許可してくれるか心配だったよ」


「まあ、ルールに違反はしていないからな」


キャリナは俺から借りたトリプルハーフエンチャントは使っても魔力は消費しない。つまり、魔力を使ってはいけないという、今大会のルールに違反してはいない。

しかし、エンチャントは本来、魔力を消費して使うスキルのため、捉え方によっては俺が観客スペースからエンチャントをかけているのとなってしまう可能性がある。もちろん、エンチャントは自分にしかできないので、そんなことは不可能だ。



「エンチャントじゃなくて普通の魔法を使うって言ったらさすがに止めたけどな」


キャリナの借奪眼ならエンチャントと同じように魔法も借りることもできる。俺も魔力を使っていないとしても、さすがに魔法を使うのはまずいだろうと思ってそれは提案しなかった。

エンチャントは俺やソフィのアドルフォ家の固有のスキルであるので、見ても正体を知っている人がいないだろう。さらに、使っていても、はたから見たら魔力を消費しているか分かりにくい。だからエンチャントのみをキャリナに貸したのだ。



「まあ、今回は相手も相手だしな…」


ベクアはキャリナの試合を見ながらそう言った。

キャリナはエンチャントをしていても、リュウには全く歯が立たないでいる。キャリナのどんな攻撃もリュウに簡単にあしなわれている。



「エンチャントをしたキャリナでも赤子のように扱われているな」


「それはエンチャントに慣れていないってのもあるけどな」


「まあ、そうだな」


俺はエンチャントをよく使っているので、急激なステータス上昇にはそれなりに慣れている。

しかし、キャリナはエンチャントを数えられる程しか借りていない。だから使いこなせなくても仕方がなくはある。



「リュウに勝て……いや、何でもない」


「…そこまで言ったら止めても意味無いぞ」


「すまん」


ベクアは俺に気を使って途中で言葉を止めたが、そこまで言ったら何を言いたいか伝わってしまうから意味が無い。



「それは次の試合に勝ってから考えることだけど、勝てるように全力を尽くすとは言っておく」


「そうか、すまんな」


リュウとの試合の前に、次に戦うデュラのことを考えなければならない。もしかすると、物理攻撃のみなって得意な魔法が使えないリュウよりも、元々魔法を得意としていない物理攻撃特化なデュラの方が手強い可能性もある。



「あっ…!」


「ん?」


キャリナは借奪眼はスキルレベルが上がったことにより、俺のエンチャントを借りられる時間が3分ほどにまで増えた。その3分が経過してしまい、俺にエンチャントと雷電魔法が返ってきてしまった。つまり、キャリナのエンチャントが切れてしまった。

そして、切れた瞬間にリュウが今日初めて攻撃を仕掛けた。その裏拳での攻撃はキャリナの胸付近に当たり、キャリナは舞台の上を転がりなから場外まで吹っ飛んだ。



『試合終了!勝者リュウ!』


キャリナは奮闘むなしく、リュウには手も足も出ずに負ける結果となった。



『明日からは試合が午前と午後の2試合になるのでご注意ください』


そのアナウンスを最後に今日の大会が終わった。

明日の午前が俺とデュラの試合で、午後はリュウと護衛の試合だ。

明後日の午前は、明日の午前と午後の敗者同士での3位決定戦だ。そして、午後からは決勝戦となっている。



「さて、キャリナが来るのを待つか」


「そうだな」


俺とベクアは観客スペースでキャリナが来るのを待って、3人揃ってから帰ることにした。



「ゼロスさん、せっかく借りたのに負けてしまってすいません」


「そんなこと別にいいよ。よく頑張ったな」


「ありがとうございます!」


試合が終わって30分程したらキャリナがやってきた。手も足も出ずに負けたから落ち込んでないかと少し心配していたが、むしろ清々しそうな表情をしている。


「じゃあ帰るぞ」


「ああ」


「はい」


俺達は3人で帰って行った。とは言っても、帰る場所は俺とキャリナは宿で、ベクアは王城だけどな。


その日の夜はソフィ達3人に今日の試合の怪我の心配をされた。さらに、明日の試合の応援をしてもらった。今日も試合だったし、明日も試合ということで、昨日よりも早い時間に解散した。

俺も今日はすぐに眠りについて、明日の試合に備えた。


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