第361話 vsベクア 1

『これより、本戦7日目の1試合目を開始します!選手は入場してください』


そのアナウンスで俺とベクアは舞台へと上がって行った。


「楽しくやろうぜ」


「そうだな」


「獣化、雷電纏」


俺とベクアの試合前の舞台上での会話はその一言だけで、すぐに戦う準備を始めた。とは言っても、ベクアは舞台に上がった時にはすでに獣化と氷雪鎧を行っていた。



『試合開始!』


俺とベクアの準備が整うと、試合開始のアナウンスがかかった。

俺は試合開始と同時にベクアへと駆け出した。


「っ!」


しかし、俺はベクアの2mほど手前で危機高速感知が反応したので、急停止した。


「ちぇっ…引っかかってくれないか!」


そう言いながらベクアが向かって来た時に、目の前の地面を見てなぜ反応したのか分かった。


「いつから氷雪鎧が氷雪纏になったんだよ!」


「ゼロスらが深林に行ってたときだ!」


俺が後1、2歩前に進んだ部分から地面が凍り付いている。こいつは俺の知らない間に氷雪鎧を氷雪纏に進化させていたようだ。


「ゼロスのを見て、真似しようと練習してたんだよ!」


「何が真似だ!俺よりも使い方上手いな!」


ベクアは自身に纏う氷雪を消費しないためにか、俺が踏んだら滑るくらいの薄らとしか氷を張っていない。俺が同じように雷を薄く張れるかと言われたら、それは無理に近いだろう。


「しかも範囲はお前から半径2mの円かよ!」


ベクアが移動すると、下の氷も移動してきた。その氷はベクアを中心として半径2mの円状に常に広がっている。これは試合開始前に張っていたのではなく、自動で張るようにしているのか。



「面倒なことしやがって…」


「褒め言葉として受け取っておくぜ!」


俺はサイコキネシスで地面より少し浮いた場所に足場を作って氷に触れないようにした。だから氷を踏んで滑ることは無い。しかし、サイコキネシスを足場に使っているので、他にサイコキネシスを使う余裕が無い。

さらに、すぐに消えてしまうような足場の上でベクアの攻撃を受け流すのはかなりきつい。



「…しょうがないか」


一旦上空に逃げることも考えたが、慣れない上空に逃げても何も解決しない。俺は尻尾を1本増やして7本にした。



「はあっ!」


「らあっ!」


尻尾を増やしたことで、サイコキネシスのパワーも強くなった。そのおかげで作れる足場の数も強度も増した。そのおかげで、ベクアと殴り合いをすることができた。殴り合いと言っても、俺は剣で殴っているけど。

尻尾を増やして少しすると、俺の攻撃が少しずつベクアに当たるようになった。剣のおかげもあるが、俺の攻撃は一撃でベクアの纏っている氷雪をかなり削ることができる。段々とベクアの纏っている氷雪の量が少なくなってきた。少なくなったことで分かったのが、ベクアは氷雪の下にもガントレットも付けているということだ。



「しゃあねーか…」


ベクアが小声何かを言うと、下がって俺から距離を取った。俺は休ませないために、すぐにベクアを追いかけた。


「…ん?」


追いかけている時にあることに気が付いた。それは氷を張っている範囲が少なくなっていることだ。その氷は今はベクアを中心として半径1m程になっている。さらには、ベクアが纏っている氷雪が全て無くなった。



「っ!?!!」


色々と変化はあったが、そのままベクアへ向かうと、さっきとは比較にならないほど危機高速感知が反応した。慌てて飛び下がると、下の氷から剣山のように棘が生えてきた。その棘は俺を追尾するように伸びて、俺のスネ辺りに1本軽く刺さった。



「その反射神経のせいで初見殺しが通用しないってのは面倒だな」


「……」


咄嗟にすぐに後ろに下がったから、かすり傷ほどで済んだが、あのままあの場に留まっていたら、全身串刺しになっていたかもしれない。



『ゼロくん』


『ん?』


あれをどう攻略しようかと悩んでいると、ユグから話しかけられた。俺はベクアの動きを観察しながらその話を聞くことにした。


『あの剣山をゼロくんは雷電纏でできないの?』


『いや…無理だな』


ベクアはかなり練習をしていたからできるのだろう。それを俺が即興でやろうとしても、それは無理だろう。例え、もしどうにかできたとしても、それはただのベクアの下位互換でしかない。



『ゼロくんでもそこまで難しいことをあの子はそんな短期間の練習で完璧に使えてるのかな?』


『あっ…』


そういえば、大量の棘はほぼ同時に伸びてきたのに、刺さったのは1本だけだった。生えた全部が俺に追尾して伸びてきたのなら、数本は刺さっていただろう。



『さらに、今までみたいな激しい接近戦でも同じように操れると思う?』


『…無理だな』


複数の棘を操作するのですら難しいだろうに、あの1本1本を接近戦中に操作すると考えると、俺の多重思考を持ってしても無理だろう。だからそれをベクアができるとは思えない。


『どうすればいいのか、分かったのね?』


『ああ。ありがとう』


俺のやるべきことはあの剣山を掻い潜って、ベクアにさっきと同じように接近戦を仕掛けることだ。接近戦になったら、もう氷雪を纏っていないベクアに負けはしない。


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