第355話 本戦1試合目 1

『これより、本戦1日目の1試合目を開始します!選手は入場してください』


「お、始まったな」


「ああ」


試合を見るために、俺とベクアとキャリナの3人は闘技場の選手専用の観戦スペースにいた。


「ゼロスの次の相手になるんだからじっくり見とけよ」


「そうだな」


今日の2試合目に俺が勝てば、この試合の勝者と戦うことになる。

俺はこの次の試合だが、試合終了から最低でも次の試合まで10分は空くので、試合を見ている余裕はある。


「ゼロスはどっちが勝つと思う?」


「まあ、無難に魔族だろ」


俺は入場して来た2人を見て、ベクアとキャリナにだけ聞こえるような声でそう言った。

この試合のメラという魔族は様々な魔物の要素を持っているような姿に見える。それに名前も加味すると、多分キメラというAからS-ランクの魔物だ。

キメラの厄介なところはその個体ごとに持っている魔物の特性が異なることだ。だからこそ、ランクも個体によって異なってくるのだ。なぜ個体ごとに魔物の特性が異なるかはまだ判明していない。

つまり、この魔族がどのランクのキメラなのか、どの魔物の特性があるのかが分からないということだ。



『試合開始!』


メラという魔族のことを分析していると、試合が始まった。相手は当然のように人型の獣化をしていた。しかし……。




『試合終了!勝者メラ!』


メラには手も足も出なかった。



「凄まじいな」


「ああ」


メラは開始と同時に相手に接近して攻撃を仕掛けた。相手はメラの攻撃を両腕でガードしてしまった。メラのその一撃をガードしたせいで、相手は腕がもう使えなくなってしまった。

何とか場外に行くことなく耐えたが、力が入らなくだらーっと下げた腕をメラに掴まれて場外まで投げ飛ばされてしまった。

今回の試合を見ての収穫はメラが少なくても攻撃が高い魔物の要素を持っていることくらいだな。



「あれに勝てるのか?」


ベクアが少しふざけてそう言ってきた。


「ベクアなら勝てるか?」


「俺なら勝てるぞ」


「なら俺でも勝てるってことだ」


俺はそう言い残して、控え室へ行こうと席を立った。


「油断だけはするなよ!」


「頑張ってください!」


「ああ」


ベクアとキャリナの言葉に腕を上げて答えて俺は控え室に行った。




『本戦1日目の2試合目を開始します!選手は入場してください』


「よし、行くか」


控え室に着いて20分ほどで、そのアナウンスが聞こえてきた。俺は意気込んで舞台へと向かった。



「…武器を使うのか」


「お前も使うのだろう?文句は言うまいな?」


「驚いただけだ。文句はないよ」


驚いたことに、ケンタは2m程の槍を持っていたのだ。さらに、体には皮のような防具も装備している。魔族が武器と防具を使うのを見たのは初めてだ。

ちなみに、今の俺が装備しているのは、エミリーさんから貰ったセミと精霊樹の枝を使った装備一式だ。


「獣化、雷電纏」


今日はゾーリと戦った時のように尻尾は6本だ。



『開始!』


試合が始まったが、すぐにはどちらも動かなかった。槍の攻撃範囲は俺の剣の攻撃範囲よりも広い。だから俺はいつも以上に慎重にならざるを得ない。そういえば、槍使いと戦うのは初めてかもな。



「ふっ…!」


しかし、睨み合ってもしょうがないので、俺から攻めに行った。今回は…いや、本戦では剣の刃は潰さないことにした。ただでさえリュウのために力を温存している俺に、大怪我を負わせないように手加減して勝てる程の余裕はないからな。もし接戦になったら腕くらい斬り飛ばさなければならない場面が来るかもしれない。



「シッ!」


ケンタは俺が槍の攻撃範囲に入った瞬間に突きを放った。俺はそれを受け流して剣の攻撃範囲に入った。槍の弱点は近寄られた時に使いにくいことだ。


「は?」


しかし、剣を振ろうとしたら、ケンタは剣の攻撃範囲にはいなかった。


「シッ!」


「あっぶね!」


俺はわざと突きを剣で受け止めて後ろに下がった。すると、すぐにケンタも俺を追ってきた。


『縮地と似てるけど違うね』


『そうだな』


ユグの言う通り、縮地とは少し違うのだろう。縮地は使う瞬間に少しの溜めがいる。しかし、ケンタにはそのような溜は全くなかった。それに、縮地にしては移動距離が短かった。



「…まあ、多分問題無いな」


俺は追ってきたケンタの槍の攻撃を受け流して再び剣の攻撃範囲に入った。今回、違うのは剣の攻撃範囲に入っても攻撃をするつもりがないことだ。俺は剣を逆手に持ちかえた。



「さあ、インファイトだ!」


俺はケンタにかなり接近した。そして、俺はケンタに殴りかかった。そのパンチは空を切った。なぜなら、ケンタが先と同様に下がったからだ。


「らっ!」


「グッ!」


俺は体勢を崩しながらももう一歩踏み出して、パンチから逆手に持った剣での攻撃に変更した。その攻撃をケンタは槍でガードした。俺はまた、ケンタへ向かって走り出した。

ケンタの後ろに下がるやつは多分1歩か2歩が限界なのだろう。だから俺がインファイトをやるような距離まで接近したら、下がってもギリギリ剣の攻撃範囲に入っているのだ。




「はっ!」


「ガブッ……!」


同じことを数度繰り返しも、下がり続けて場外まで追い込まれるのがわかったのか、接近している俺に槍を横に振って攻撃を仕掛けてきた。俺はそれを左手で逆手に持った剣で受け流して、右でボディブローを放った。


「雷縮」


「グッ……」


ケンタはボディブローで吹き飛ばされたが、槍を舞台に突き刺して勢いを殺して、何とか場外まで行く前に止まれた。


「ア…」


「はあっ!!!」


俺は雷縮で、ケンタが止まった時には目の前まで移動していた。俺は雷電纏を闇翠のみに集中させて、ケンタの顔面を闇翠の腹でぶん殴った。

俺に闇翠でぶん殴られたケンタは場外まで吹き飛び、壁に激突してやっと止まった。



『試合終了!勝者ゼロス!』


「ふぅ…」


壁に激突したケンタはそのまま倒れて、タンカで運ばれた。


「完勝…ではあるかな?」


今回はケンタウロスの魔族であろうケンタの最大の長所である敏捷を全く活かさせずに倒せたから良かった。

リュウに言われた通りの勝てるかもとすら思わせないほど一方に勝てたかと言われたら微妙だな。でも、無傷で勝てたからまあいいだろう。


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