第350話 想定外の遭遇

「あっ…」


「っ!?」


俺は控え室に入った時にある1人の男と目が合って動きが止まってしまった。相手が俺に警戒したので、俺も即座に警戒態勢になりそうになった。しかし、何とか剣を握る前にそれを止めれた。

目が合った相手は一見すると、控え室にいる段階から獣化を行っているくらいやる気がある獣人に見える。しかし、それは獣化をしている訳ではない。この男は魔族なのだ。

獣と魔族の両者のことをそれなりに知っている人なら誰でもその見分けはつくだろう。



「…お互い、頑張りましょう」


「あ、ああ…」


その魔族は俺の事を凝視して警戒していたのもあって、控え室にいる他の獣人からも注目を集めてしまった。だから、ここは争う気が無いのを示すために普通に話しかけた。そして、何事も無かったように離れて座って自分の試合の番を待つ事にした。



「ケンタさん、出場お願いします」


「分かった」


どうやら、魔族はすぐ次の試合のようだ。俺の方をちらっと見てから舞台へと向かった。



「はあーー……」


魔族がいなくなって、俺は大きなため息をはいた。普通にかなり焦った。いや、控え室に5人くらい居るのだから一緒になる可能性はあったけど、そんなこと考えていなかった。

もし、俺が咄嗟に剣を抜いて警戒したらどうなっていたか…。ここで暴れられたら、闘技場に試合を観戦しに来ている観客にまで被害が出てしまう。


それにしても、あれは何の魔族だ?足は馬のようになっていたが、上半身は普通の人型だった。これまでの経験上、魔族の名前はその魔物から取っていることが多い。ケンタ…ケンタウロスか?ケンタウロスはスピードがとても早く、A+の魔物だ。もしあいつがケンタウロスだったら中々手強いぞ。



「ゼロスさん、出場お願いします」


「はい」


一旦魔族のことは忘れて、目を閉じて精神統一?をしていたらすぐに俺の番がやってきた。俺は舞台へと向かった。



「こうして相見えるのは2回目だな」


「そうだな。俺はお前の名前を知らなかったけどな」


「それは悪かったです。私の名前はゾーリと申します」


「知っていると思うけど、俺の名前はゼロスだ」


俺達はここで初めて自己紹介をした。


「…ちなみに俺は初対面の気分だよ」


「それは前回とは装備が違うからでしょう」


ゾーリは舞台に来る前から獣化を行っていた。なるほど、魔族が控え室に居たのに全く警戒されていなかったのは、控え室から獣化していることはそれなりにあることなのだろう。

肝心のゾーリの装備は全身に金属の鎧を纏っている。さらに、ゾーリの4m近い体を隠せるくらいの巨大な盾を持っていた。



「獣化」


俺は今回、尻尾を5本にした。そして、剣を抜いて構えた。


「…もしその刃を故意に潰していて、元に戻せるのなら戻して良いですよ。刃をどうしようとこの盾と鎧を切り裂くことはできないでしょう」


「ありがとう」


ゾーリは俺に全力で来いと気を利かしてくれたようだ。ゾーリの言葉を信じて俺は刃を元の鋭利な状態に戻した。



『始め!』


試合が始まった瞬間に俺は駆け出して、特攻を仕掛けた。


「ちっ…」


しかし、その攻撃は大盾で簡単に防がれた。

その後も動き回って意表をついたりして攻撃を仕掛けているが、毎回上手く大盾で防がれた。無理やり大盾を突破しようとすると、大盾で殴られてしまう。

ちなみに、大盾は俺の剣をぶつけても傷がついていない。かなりいいもの出できているのだろう。


『ゼロくん』


『ゼロ』


『了解』


俺もこのままだとちょっと時間切れを狙うしかなくなるなっと思っていたところだ。時間切れでもそれまでの試合結果から俺の勝ちになるが、できれば時間切れで勝ちたくない。

ユグとジールの後押しもあって、俺は尻尾をさらに1本増やした。



「はあっ!」


さっきよりもスピードとパワーが増した。そして、妖力の力も強まった。

妖力でゾーリの動きを止められる時間が数瞬増えたこともあって、時々ではあるけど俺の攻撃が大盾を掻い潜って鎧まで届くようになった。鎧はさすがに大盾程の強度はないらしく、俺の攻撃で目視でも確認できるくらいの傷ができている。



「ふんっ!」


「っ!」


ゾーリは大盾を舞台へ叩き付けた。俺は距離を取ってそれを躱した。舞台には大きな凹みができた。


「土鎧」


俺が距離を取った間にゾーリは獣鎧を使った。予想していたが、国王の護衛ともなる獣人は獣鎧を使えるよな。全身に土を纏ってさらに防御が高くなったようだ。どんだけ防御にステータスを振るんだよ。



「雷電纏」


俺も全身に雷電を纏った。動き回って体も完全に温まった。これからが本番だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る