第349話 キャリナの予選最終戦

「キャリナも頑張れよ」


「はい!」


俺とベクアでキャリナを見送った。今日に行われる試合で俺とベクアとキャリナの本戦出場できるかが決まる。ベクアはもう本戦出場が決まったので、後はキャリナと俺の2人だ。




「キャリナが来たな」


「ああ」


キャリナと対戦相手が舞台に現れた。そして、2人は獣化をした。


「あっ」


「……」


何と驚いたことに、キャリナの対戦相手の男も人型の状態で獣化できていた。耳が縦長のところから考えるに、うさぎの獣なのか?


「これはベクアが仕組んだのか?」


「さすがに大会に参加するやつが対戦順を決められねぇよ。もし仕組んだのだとしたら親父だ」


さすがに大会に参加しているベクアは対戦順を決めるということは無いそうだ。


「ベクアはこの相手を知ってるのか?」


「一応毎年大会に参加はしているし、本戦出場常連でもあるから知っているぞ」


どうやらベクアはこの相手のことを知っているようだ。


「今年はゼロスや魔族や親父の護衛が大会に参加してるから本戦出場常連の誰かが予選で落ちるのは決まってはいたが、俺には当てずにキャリナとゼロスにその余剰を当てるのかよ」


ベクアの相手は3人とも人型に獣化はしていなかったな。


「キャリナの相手の強さって……ん??」


「相手は本戦に行っても1回戦、良くても2回戦で負けているからそこまで強い相手では無いぞ」


さすがの国王もベスト4には入るような相手をキャリナに当てなかったのだろう。

いや、それは確かに良かったのだが、今気になっているのはそこではない。


「ちなみに俺の次の相手のことは知ってるのか?」


「んあ?何言ってんだ?ゼロスも知ってるぞ」


「え?」


一応次の相手の名前は知ることができる。名前を見ても俺はそれが誰かは分からない。そもそも、名前を知っている獣人はベクアとキャリナとウルザくらいしかいないからな。


「お前の次の相手は前に模擬戦をした親父の護衛だぞ」


「え!?そうなの!」


前に模擬戦した護衛と言ったら、あのゾウの獣と契約している護衛のことだろう。


「俺と予選で対戦させたら護衛をわざわざ出場させた理由が…あっ」


そこで俺が言葉を止めたのを見てベクアはニヤッと笑った。確かに護衛を俺と予選で対戦させたら、出場させた意味無い。しかし、それはゾウの獣と契約している護衛以外ならって話だ。


「あの時はゼロスも最初に一撃もらったし、その後にゼロスは魔力を使った。つまり、あの時は大会のルールでは戦ってないんだよ。親父のことだから予選の段階で大会のルールでのお前の実力を把握したいんだろうよ」


理由は納得したが、だったら模擬戦をした時に大会ルールでやらせておけば良かったとは思う。


「さて、そろそろ相手が動くぞ」


キャリナ達は数分間、睨み合いの膠着状態だった。しかし、引き分けた時にタイムの差で負けてしまう相手が動き出した。


相手は持ち前の脚力を活かして舞台を広く使って、キャリナに攻撃のタイミングを悟らせないように動き回っている。


「ベクアならどうする?」


「相手が攻撃してきた時にカウンターか、舞台を叩き割るな」


確かに舞台を叩き割れば、体勢を崩して止まった隙に攻撃を仕掛けられる。しかし、キャリナに舞台を叩き割る程のパワーはない。となると、やる事は1つだ。


「まあ、そんな簡単にカウンターは決まらねぇよな」


相手もカウンター狙いのことはわかっているので、カウンターが上手く決まらず、キャリナはカウンターのカウンターなような感じの攻撃され続けている。


「さて、これからどうする?」


キャリナは相手のペースに呑まれて、何度も攻撃をくらっている。幸い、一撃の攻撃の威力はそこまで強くないらしく、キャリナはまだ余力はありそうだ。


「それにしてもベクア、全然キャリナを心配してないな」


「それはゼロスも同じだろ」


「まあーね」


一方的にやられているキャリナのことを俺もベクアも心配していなかった。



「おっ!」


「やっとか」


心配してない理由はキャリナには獣鎧があるからだ。キャリナはやっと闇鎧を使った。そこからの展開はあっという間だった。キャリナに獣鎧があるとは思っていなかったのか、対戦相手は一瞬止まってしまった。予想だが、多分このまま攻撃を続けるか、一旦距離を取るかで悩んだのだろう。

その隙をキャリナは逃さず、攻撃を繰り出した。防御は高くはないらしく、相手は数発攻撃をくらったら足がおぼつかなくなった。その少し後にもう勝ち目はないと判断したのか、相手が降参を宣言した。


『試合終了!』


少し苦戦はしたものの、キャリナの本戦出場が決まった。




「できれば、獣鎧を使わずに勝ちたかったのですが…」


「それができなかったのは獣化と戦闘そのものの経験値の差の問題だ。これからもっと経験を積んでいけばいい。それこそ、本戦の試合もいい経験になるだろう」


「はい!」


俺はベクアがちゃんとお兄ちゃんしているところを微笑ましそうに眺めていた。


「ゼロス!お前も早く控え室に行け!」


「へいへーい」


俺のそんな目線に気が付いたのか、ベクアは乱暴気味にそう言った。俺はベクアの言う通り、大人しく控え室に向かった。




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