第343話 まとめる

「ふぅ…」


隠密を使ったおかげで、あれから特に誰からも見つかることなく宿に着くことができた。

隠密を解除してから宿に入ると、宿の人からは顔を覚えられていたのか、すぐに4階に案内された。


「……!…」


「…ん?」


少し意気込んでからドアを開けようとドアノブを掴んだ時に何やら中が騒がしいことに気がついた。しかし、防音設備がしっかりしているのか、何を言っているかまでは聞こえてこない。


「……!?お兄ちゃん!!」


「うおっ…!」


「あ…ごめんなさい」


ドアノブを握った状態で急にドアが勢いよく開いたので、ドアにつられて前のめりに倒れそうになってしまった。何とか持ち前の反射神経を活かして、ドアノブからすぐに手を離せたから倒れることはなかった。


「あ!お兄ちゃん!大丈夫ですか!何があったんですか!」


「えっと…とりあえず中に入らせて?」


廊下で話していたらさすがに下の階の人にも声が聞こえてしまうだろう。だから何があったか話すにしてもまずは部屋の中に入らないと。


「あ…」


部屋の中に入ると、状況が何となくわかった。


「キャリナ、俺の言った事を守ってくれてありがとうな」


「は、はい」


まず、目に入ったのは、キャリナが少し涙目でオロオロしながら座っている姿だった。そのすぐ近くにシャナが座っていた。その近くにもイスがあることから、多分ソフィとシャナがキャリナを問い詰めていたのだろう。

心を読めるシャナ相手に隠し通すのは大変だっただろうな。


「まず、キャリナには俺から言うなって命令しておいたんだ。もし、そんなキャリナを責めるようなことをしてたんなら、キャリナに謝ってくれ」


「ごめんなさい」


「ごめん」


「あ、いえ、気持ちは分かりますし、大丈夫です」


ソフィとシャナは素直に頭を下げて謝った。


「それでお兄ちゃんは路地裏で誰と何をしていたのですか?」


ソフィは謝るとすぐにそう聞いてきた。まさか、早く俺の話を聞きたいからさっさと謝ったとかじゃないよな?



「じゃあ話すぞ」


ベッドに寝そべりながら聞き耳を立てているエリーラにも聞こえていることを確認しながらリュウと話したことを説明していった。ちなみに、リュウが最後に言っていた夢の話は大会には関係ないし、俺の中でまだ整理がついてないから黙っておいた。



「なるほど…そういう話でしたか」


「うん」


4人は俺の話を途中で遮ることなく、最後までしっかり聞いてくれた。


「まず、無駄な戦闘に発展しないためにお兄ちゃんだけで向かったというのは理解しました。しかし、もし罠だったことを考えて、すぐに助けに入れるように私達へ連絡するくらいおいてください!」


「それはごめん」


確かにそうすれば良かったと思って謝ったが、同じような場面があったら同じようにしてしまうかもしれない。なぜなら、俺の方からリュウへ接触できない以上、向こうから接触された機会を逃してはならない。もしソフィ達に連絡して時間が経って警戒されたりして会えなかったら嫌だ。

リュウとイムは俺の事を見ることはできるけど、音声までは聞こえていないからな。



「話を整理すると、魔族も一枚岩ではないようですね。最低でもイムとリュウの考えていることは違いそうです」


「どういうこと?」


「リュウの言っていることが本心からの事実だとすると、私達に魔族を送った犯人はイムになるでしょう」


「あ、そういうことか」


確かイムは、「お前に向かってくるその5人の魔族を皆殺しにしてくれ」とリュウが言っていたと話していた。今日の話を聞いた限り、リュウがそんなことを言うとは思えない。ということは、イムはリュウが言っていたと嘘をついていたということになる。あれはイムの独断だったのか?



「あれ?そういえばリュウからあの5人の魔族の話はされなかったな……」


「知っていて黙っていたという説が1番濃厚ですが、リュウはお兄ちゃんが魔族を殺したことを知らないという可能性もあります」


魔族を殺したことを知っていて争いになる可能性を少しでも抑えるために黙っていたのかもしれない。


「でも、見られないなんてことできるのか?」


「イムはリュウがお兄ちゃんのことを見る余裕がない時を狙って魔族をけしかけたのなら可能でしょう。ストーカーのように常にずっと見ているということも無いと思います。例えば獣人国に入る時やその準備をしている時などは見てはいないでしょう」


確かにソフィが言っている通り、考えてみれば見ている時間の方が少ないだろう。その見ていない時を狙って魔族をけしかけることくらいイムならやりかねないと思ってしまう。



「うーん……」


「………」


「………」


「………」


結局、魔族の内情についてはイムが何を考えているのかがさっぱり分からないということがわかっただけだ。イムは何を目指して行動をしているんだ?



「えっと…魔族が参加する目的がわかっただけでもだいぶ大会はやりやすくなりましたね!」


「あ、そうだね!」


魔族のことは今ある情報だけでは分からない。分からないことをずっと考えてても意味が無いな。話の流れを変えてくれたキャリナに感謝しないと。


今回のリュウとの話し合いで魔族が大会に参加する目的については分かった。それだけでも警備などはかなりやりやすくなる。


「明日ベクア達にも話さないとな」


「そうですね!」


この話をしたら多分明日もベクアに王城へ連れて行かれることになりそうだな…。

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