第292話 ピンチ
◆◇◆◇◆◇◆
キャリナ視点
「ぐふふ…!」
「あ、ぁ…」
私は1人になっちゃった。ゼロスさんの妹さんと一緒だったけど、私を置いてどこかへ走って行ってしまった。
「さあ!早くおでに捕まれ!」
蜘蛛の魔族は私に糸のようなものを手から出した。私はそれを余裕を持って避けた。この深林に来る前では、こんな簡単に避けることはできなかっただろう。ここまでレベル上げに付き合ってくれたゼロスさん達には感謝しかない。
「ぐふふふっ!」
「え…?」
避けたはずの糸が急に方向転換して私の方に曲がって来た。その糸は私の左腕にくっ付いた。
「そぉら!」
「わっ…!」
その糸をすぐに外そうとしたが、外れなかった。糸を振り回されて私は木に叩き付けられた。
「はぁ…はぁ…」
また振り回されそうになったけど、袖を引き千切ることで、糸から逃れることができた。
「どんどん行くぞぉ〜!」
蜘蛛の魔族は6本もある手から糸を出してきた。私は頑張って避け続けた。
「あっ!」
「つーかまえた!」
私は後ろからやってきた糸に気付くことができなかった。袖を引き千切ったことで、今度は服の無い首を糸でくっ付けてきた。
「ほらほらほら!」
糸が付いたことで、自由に動くことができなくなった私は四肢にも糸を付けられて完全に動くことができなくなった。
「ぐふふっ!もう1つはどこに付けようかな〜」
「やだ…」
この魔族は最初から私を殺すつもりはない気がする。だからこそとても気持ちが悪い。こんな魔族に捕まったら何をされるかわかったもんじゃない。
「使いたくない…でも……」
妹さんの魔法はここから見える。だからこの状況を打破できる手は持っている。でも、この呪われた眼は使いたくない…。だけど、今の私はわがままを言える状態ではない。幸いゼロスさん達はこの場にいない。私は金色の左眼の力を使った。
「あで?!糸が無くなった!?それに出ない!?」
私に付いていた糸は全て消え去った。そして、魔族は気が付いていないようだが、妹さんの魔法も消えている。私のこの左目は視界に入っていて、発動しているスキルを全て借りることができる。いや…借りると言うよりも奪うという表現の方が近い。奪っている間はそのスキルを本人は使うことができない。
「おでの糸を返せ!!」
糸を出せなくなった魔族は私に向かって走って来た。その魔族目掛けて私は妹さんの複合魔法であるバーストランスという魔法を放った。妹さんには早く返した方がいいだろう。
「ギャアー!痛い!痛い!?」
胴に穴が空いた魔族はのたうち回っている。借りただけの私の使った魔法では、魔族を殺すことはできなかった。だが、魔族の傷はかなりの致命傷だ。追い打ちをすれば勝てる。私はこの魔族から奪った糸魔法を使って、魔族を動けないように2本の糸で地面に縛り付けた。
「ぐふっ…糸だ〜!」
「ぇ…なんで…?」
魔族を縛り付けたはずの糸はうねうねと勝手に動き出して、魔族から離れていった。私はまだ糸魔法を全部返していない。まだ4本分残っている。だから魔族は糸魔法を使えないはず。
「自分の糸じゃなくても糸操作で操れるんだよ〜」
「あっ…」
そうだった。私が奪った糸魔法では、粘着質の糸を放つことしかできなかった。だから操作していたのは別のスキルだ。私は剣術のスキルような眼に見える効果がないスキルは奪えない。
でも、あの傷だったら逃げていれば、その内勝ちは確定する。
「あ、あれ…?」
魔族の腹には穴が空いていない。いや、穴の空いていた場所には糸が覆っている。
「おでの糸はこうやれば治癒にも使えるよお〜」
もう魔族には出血は無い。内臓系に傷が付いていなかったら全くの無傷と代わりがない。
「はい、油断した!」
「あっ!」
私の足首にはもう1本の糸が巻き付いていた。再び糸を奪いたくても、1度全て返さないと新しく奪うことはできない。何より、この眼は連続して使うことができない。全て解除してから少しのインターバルが必要なのだ。
「そーら!」
「ぁ…」
それから私は何度も岩や木に叩き付けられた。もう体で痛くない部分を探す方が難しいくらいになった。
「おでの糸魔法を返してくれたらもう許してやる」
「かえす…かえすから…」
私は適当に借りていた残りの糸魔法を使った。もうこれで借りていたのは全て返した。
「ほっら!」
「やくそく…ちがう……」
魔族は私の身体中に糸を巻き付けてきた。
「その眼はおでの為に使わせる。欲しいのはその眼だけだ。手足は入らない。安心しろ!おでの止血は完璧だぞ!」
「うぅ…」
魔族はそう言って、糸魔法で出したのであろう糸で数本の木を切り倒した。どうやら糸魔法で出せる糸は粘着質以外にもあったようだ。私が奪ったのは粘着質の糸だけだったので、知らなかった。
どうやら、最初から私は遊ばれていただけで、いつでも殺せたようだ。
「助けて…」
こんな都合よく助けてくれる人なんか居ない。もし居たらそれはこのタイミングを見計らっていたとすら思ってしまう程までにベストタイミングだ。
そんな事を考えていた私に切れる糸はどんどん近付いてきた。
「まずは左う…ぶっ!!!」
いきなり魔族に雷が当たった。油断しきっていたこともあり、魔族は無様に吹っ飛んだ。こんな雷を使う人は私は1人しか知らない。
「キャリナ!大丈夫か!」
返り血すら落とさずに、全力疾走で走って来たゼロスさんを見て、見計らっていたとは思えなかった。ゼロスさんはすでに魔族を倒してからここに来たのだろう。私とは比べ物にならないくらい強いな…。
「今糸を燃やす」
ゼロスさんは吹っ飛ばした魔族のことなんか無視して私のことを気にかけてくれた。単に忘れていただけかもしれないが、この状況ではその余裕すらもかっこいいと思えてしまう。
「エリクサー飲める?」
「はい…」
糸だけを器用に燃やしてくれた後はエリクサーを飲ませてくれた。さっきまであった体の痛みは嘘のように無くなった。
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