第290話 幹部の実力

「らあ!」


「ふっ…」


タカが猛スピードで近付き、手の鋭い爪で引っ掻くような攻撃を仕掛けてきた。俺はそれを剣で受け流した。今度は俺が攻撃をしようとしたが、タカは空高く飛んだ。



「らあ!」


俺がタカに注意を向けていた隙に、マンティコアが俺に近付き、殴りかかってきた。俺はそれを分かった上であえて攻撃を受けた。


「なっ…」


マンティコア魔族が俺の体をすり抜けた。想定外の事だったのか、体勢を崩した。その隙に俺は斬りかかった。


「ちっ!」


マンティコアはそう言いながら蛇のような顔の付いた尻尾を俺の顔の方へ近付けてきた。俺は咄嗟に斬りかかるのをやめて、その蛇を受け流した。そして、剣を手放して尻尾を掴んで思いっきり投げた。


「あ…ああ゛!」


俺はすぐに剣を拾い、マンティコアから目線を切って、突進してくるもう1人の魔族の方を向いた。


「雷龍!」


そして、そいつには精霊魔法を放った。そして上空に待機しているタカの方を向いた。


「あぁっ!!」


しかし、もう一体の魔族が雷龍の中を突っ切って来た。俺は慌ててもう一度その魔族の方を向いた。


「あ!」


そいつが殴ってきたので、俺は剣で受け流した。その時に、そいつの体からゾンビと同じ腐臭がした。それで、こいつはゾンビ系のアンデットの魔族だと確信した。アンデットだから痛みも感じないので、雷龍の中でも平然と突っ切って来たのだ。


「らっ!」


「うあ…」


俺はこの魔族を遠くに吹っ飛ばすために、腹を蹴った。しかし、その魔族は少し下がるだけでびくともしなかった。ゾンビの魔族にしては防御が高すぎる。



「グールかよ…」


グールとは、ゾンビの強化版のようなものだ。グールのランクはA+で、ゾンビよりも全ステータスが高いが、特に攻撃と防御の数値がずば抜けている。



「はっ!」


「うおー」


俺は仕方なく、風の精霊魔法でグールを遠くに飛ばした。そして、タカの方を向き直した。



「なるほど…イム様が殺せとお命じなさるわけだ。それなりにはやるようだな。特に素晴らしいのはその動かなければできるすり抜けですね〜」


初撃以降は何もせずに、上空に待機していた目的はは俺の観察のようだ。俺のすり抜けの弱点が一瞬でバレた。俺のすり抜けはそれなりに集中力を使うので、激しく動いている最中は上手くできない。だからすり抜ける時は安全に静止している時にしている。すり抜けが失敗したら俺は大ダメージを受けてしまう。



「お前ら今回はプラン4で行く」


「え!?そんな!」


「あ…?」


「いいな?」


「はい!」


「あ」


魔族達だけがわかるような謎の会話をした。すると、上空にいるタカは靴を脱いで、腕輪などのネックレスを外した。そして、それを俺に見せつけるかのようにゆっくりと落とした。それらは勢いよく地面に落ちていき、地面にぶつかると、ガン!ドン!という激しい音を鳴らした。



「私はいつもすぐに終わってしまうから重りを付けていたのだよ。でも、お前にそれは要らなそうだな」


そう言うと、タカは体に竜巻のような風の何かを纏った。



「では、行くぞ」


「あっぶね!」


タカはいきなり近付いてきて、蹴りを放った。危機高速感知の反応と蹴りとのタイムラグがほぼなかった。俺は何とかギリギリ受け流すことができた。それと同時に気が付いたことがある。



「グリフォン…」


「おや、気が付きましたか?」


そいつの足はタカなどの鳥のものではなく、ライオンのような獣の足だった。そんな特徴がある魔物はグリフォンしかいない。ちなみにグリフォンはSランクの魔物だ。



「それと、あまり私の攻撃は受け流さない方が良いですよ?」


「あっ…」


受け流した俺の左腕がズタズタに切り裂かれていた。もちろん、回復トリプルハーフエンチャントの効果でだんだん治っている。この傷は受け流した時に纏っている風に斬られた傷だ。どうやらあの風は魔力斬りで斬れなかったところを見ると、魔法ではないようだ。



「では、次行きますよ?」


そして、タカ改め、グリフォンの怒涛のラッシュが始まった。



「おやおや、まだまだ序の口ですよ?」


「はぁ…ちっ!」


すり抜けは1分ほどまでしか常時使えない。切れた瞬間を狙って攻撃された時のために使えない。

だが、もうこの速さにも慣れてきたので、すり抜けを使わなくても風にも当たらないように受け流すことはできるようになった。しかし、俺が攻撃しようとする度に上空に逃げるせいで全く攻撃を当てることはできていない。



「お前、なかなか速いな…」


「そうでしょう!私はスピードだけならリュウ様にも引けは取りませんよ」


「それはいいことを聞いたな」


俺はそっとユグ精霊化と悪魔化と回復エンチャントの2つを解除した。このグリフォン相手にこれらは必要が無い。しかし、この2つを解除したせいで魑魅魍魎と妖怪変化のステータス1.2倍の効果は消えてしまった。だけど問題は無い。俺は他の発動条件を見つけている。



「神雷エンチャント、精霊ユグエンチャント、ジール精霊化」


神雷エンチャントと精霊化、悪魔化、獣化のうちの2つと、精霊、悪魔、獣のいずれかのエンチャント1つでも魑魅魍魎と妖怪変化の効果は発動するのだ。

今回の精霊ユグエンチャントは回復目的のみのためだけに使っている。これだけで回復トリプルハーフエンチャント並の効果を発揮してくれる。さすがはユグだ。



「俺がお前よりも速ければ、俺はリュウと同等のスピードってことだよな」


俺がこいつよりも速ければ、前に気絶させられたあの時は見ることすらできなかったリュウのスピードに付いていけるようになったということだ。



「行くぞ!」


俺は地面を蹴って、上空にいるグリフォンに猛スピードで向かって行った。

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