第282話 夜の魔物

「今日は俺達が先に見張りをやるよ」


「わかりました」


今日は昨日と見張りの順番を変えた。特に意味は無いかもしれないが、人によって先がいいとか後がいいとかがあるかもしれない。


「じゃあ先に休ませてもらいます」


「おう」


ソフィとシャナがテントの中に入っていった。



「じゃあ見張りをやるか、多分忙しくなると思うからよろしく」


「忙しくって…まさか昼間の魔物が現れたりするんかしら?」


「いや、違うよ」


壁の近くでも、見張りが忙しくなると聞いてエリーラが面倒くさそうな顔をした。こんな真っ暗な夜に昼間のあいつらを相手するのは面倒だろう。だが、現れる魔物はあいつらではない。



「夜は昼間と現れる魔物が代わるんだよ。これから出るのはゾンビスケルトンやスケルトンゾンビとかアンデット系がほとんどかな?」


「うわぁ…」


「ぁ…」


ちなみに、ゾンビスケルトンとスケルトンゾンビの違いは、前者は肉が少し付いているスケルトンなのと、骨が少し付いているゾンビかの違いだ。つまり、ほとんど違いはない。

2人は現れる魔物を聞いて苦い表情をした。

なぜなら、アンデット系の魔物は物理攻撃で倒せないからだ。火魔法や光魔法、聖魔法とかではないと倒せない。だからステータスの割には高ランクになっている。

さらに、ゾンビなどから攻撃を受けると毒が身体に回る可能性があるのだ。もちろん、その毒は回復魔法で治すことはできる。しかし、その毒を放置して死んでしまうと、次は自分がアンデットになってしまう。

しかし、これら2つはアンデットが1番嫌われている理由では無い。



「うっ…も、もう臭ってきました…。鼻が痛い…」


1番嫌われているのは強烈な臭いからだ。アンデットに殺される理由の大半はその臭いで集中力が低下したことが原因とされている。キャリナは獣人だから俺達ではまだ感じない臭いを感じ取ってしまっている。



「ユグ、やるよ」


「はーい」


「「結界」」


俺は精霊魔法で、俺達を覆う少し光る結界を張った。



「あ、臭いがしなくなった」


「こんな便利なことができるなら早く言いなさいよ」


「ちなみにこの結界はそんなに強度はないから。あんまりバンバンアンデットがぶつかると割れちゃうから攻撃よろしく」


「はあ!?」


俺は結界を張るのはそんなに得意ではない。どちらかというと、結界はソフィの方が得意だ。俺には臭いを遮断するのと、アンデットを立ち入れないようにするのが限界だ。結界でアンデットにダメージを与えるなんてことはできない。だから結界の前に集まってきたアンデットは自分達で倒さなければならない。

さらに、結界が少し光らせているので、張った方が目立って魔物は寄ってくる。この方が経験値は多く稼げるからな。もちろん、ソフィと2人で来た時は目立たないように結界は無色透明にしている。だから魔物なんてほとんど来なかった。



「あ、あの…私はどうしましょう?」


キャリナは魔法が使えない。というよりも、獣人のほとんどは魔法を使えない。ただ、極小数だけ魔法が使えることがあるそうだ。俺はキャリナも魔法が使えそうな気がするんだけどな…。



「じゃあこれで結界に近づいた魔物を最低3回は斬って。斬った魔物から俺達で倒していくから」


「は、はい!」


俺はマジックリングに入っている買い出しの時に買った普通の剣をキャリナに渡した。これでアンデットを倒した時に経験値はキャリナにも入るだろう。さらに、キャリナ自体はかなり動き回って何度も攻撃をするので、ステータスも最大値で上がるだろう。



「あ、そうだ。斬る時に魔物のことをよく観察してみて」


「え?は、はい。わかりました」


これは何か魔眼的な力が目覚めないかを期待して言った。まあ、あまり効果はないだろうけど、やらないよりはマシだと思う。



「そういう事だからエリーラもよろしく」


「分かったわよ」


こうして、俺達は結界に集まってきた魔物をキャリナが斬って、再生しないうちに俺達がトドメを刺していった。




「うぅ……」


「がんばれ」


キャリナは斬る度に臭くなる剣と、だんだん数が多くなっているアンデットに泣きそうになっていた。どうしても斬る時は剣は結界の外に出てしまう。だからアンデットの臭いがついてしまう。さらに、深夜に近くなると数も増えてくる。一応10分に1度のペースで剣は魔法で綺麗にしてあげている。

ちなみに、時々現れるレイス系はそもそも物理攻撃が全く効かないので、キャリナが気付く前に俺達が魔法で先に倒している。






「疲れました…」


「おつかれ」


「頑張ったわね」


エリーラでも素直に褒めるほどキャリナは頑張っていた。交代する時間までやりきった。



「お兄ちゃん、出ましたか?」


「いや、出てないよ」


「なら良かったです」


俺とソフィの2人で来ている時に1度だけ俺が寝ていても危険高速感知が反応して飛び起きた時があったのだ。それの原因はまだわかっていない。魔物か魔族かそれ以外かすらも分かっていない。

ソフィの言った「出た」というのはその原因の事だ。



「お疲れ様でした、おやすみなさい」


「おやすみ」


俺はソフィが俺と似た結界を張ったのを見てから、結界を解除してテントの中に入った。テントの中は昨日と同じ並びだったが、慣れたのか、疲れていたのか昨日よりもすぐに眠ることができた。


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