第270話 解放

「ん…」


手を掴んで目を瞑り、意識を3人に集中した瞬間に何をするかがすぐに理解できた。3人の中で何かが黒い鎖のようなもので、きつくがんじがらめになっていた。その様子はまるでどこにも逃げないように固定しているようだ。鎖が多過ぎて何ががんじがらめになっているかすらも分からない。俺がまずやるべき事は鎖を全て引き剥がすということなのか。


俺は3人に魔力を注ぎながらそれを解こうとした。鎖は魔力を使って操作する事ができる。縛り付けられ方は3人でよく似通っている。2人目以降は成功率が上がるというのもよくわかる。


前世を含めても、何かを解くなんて経験は絡まったイヤホンくらいしかない。そんな俺が何十本の鎖で複雑に絡み合っているこれをほどけるのか?まだユグ達から手を借りる段階にすらなっていない。そんな状況に余計に焦りが生まれて上手くいかない。どんなに上手くいかなくても確実にタイムリミットは近付いている。


そんな時だった。





『勇者達との戦いの後だし、3人を救おうという使命感もあっていっぱいいっぱいなのは分かるよ。でも、もう少し落ち着いた方が良かったかな?

それと、せっかく私があげたスキル何だからもっと大切にしてよ。これは大きな大きな貸しだからね。よく覚えててよ?


いつか必ず返してもらうから』



「え?」


俺の脳内でそんな声が聞こえてきた。この声はあの神の声だ。急な事に混乱していたら、再び脳内で何かが聞こえてきた。



『ピコーン!』

『【称号】セット数が5つ増えました』

『【三度目の正直】をセットしました』

『【魑魅魍魎】をセットしました』

『【妖怪変化】をセットしました』

『【勇者の超越者】をセットしました』

『【真なる勇者】をセットしました』



「……え?」


怒涛の展開に一瞬思考が停止した。しかし、そんな暇は無いとすぐにまた解こうとした。



「あ、あれ?」


さっきまで何をどうすればいいのか全くわからなかったが、今はどこをどうすれば良さそうなのか何となくだが、分かるようになった。そして、失敗し続けても、3度目には上手くいくようになった。

それを続けるとようやく鎖を全て取り除くことができた。



「…あとはこれだけか…」


鎖によって縛られていたのは、拳程の大きさの結晶のようなものが入った檻だった。結晶を囲っていた檻すらも最初は見えていなかったと考えると、鎖の量がかなり多かったことがわかる。

後は檻を解けば3人を解放できるというのが直感的に分かった。だが、その檻には鍵などはついていない。まるで元々開けることなんて想定していないのか、開ける方法がないのだ。これをどうすればいいのかと考えていたらユグ達からのサポートがきた。



「ちょ…おいおいおい…」


3人の魔力の操作に従っていると、やりたいことが分かった。無理やり魔力で檻を破壊しようとしていた。

最後の最後に強引な力技かよ!なら最初からそれで…と思ったが、最初は今のように檻が見えていなかった。だから結晶がどんな状態で囚われているかわからなかったのだ。そのため、こんな無茶な方法はできなかったのだろう。今は鎖も全て取り除いたから、檻を全方向に無理やり引っ張ればいいのだ。結晶を俺の魔力で覆ってガードすれば、壊れた檻の破片で結晶が傷付く心配も無い。

ここからはもう単純に檻の耐久度と俺の【魔攻】との勝負になっていた。




ベキベキベキベキ……バキン!



そんな音が聞こえてきた気がした。それと共に3人を封じていた檻は綺麗に破壊された。もう結晶を縛る物はどこにもない。解放に成功したのだ。俺は安堵のため息をついてからゆっくりと目を開けた。



「成功し…え!?」


「…本当にありがとうございました」


目を開けて成功したことを伝えようとしたが、3人が透けていたので途中で言葉を止めてしまった。つい、精霊化、悪魔化、獣化を解除してしまうほど驚いた。


「同志よ、安心しろ。ギリギリだったが成功だ」


透けていたのはタイムリミットが近くなっていたからだそうだ。良かった…間に合わなかったのかと思った。



「あなたを信じて良かった。このご恩は一生忘れません」


「何かあった時はいつでも力になります」


「いつでも頼ってください」


3人がそれぞれそう言うと、光と共に消えて行った。


「え、え…」


「狼狽えるな。3人はそれぞれ元々居た場所に帰っただけ。私達のように契約者無しでここには居られはしない」


「あ、そうなんだ…」


良かった…安心した。俺は無事に3人を解放することができたようだ。

俺は緊張の糸がプツンと切れてしまったのか、そのまま後ろに倒れてしまった。



「お兄ちゃん、お疲れ様です」


「ソフィ…」


「頑張りましたね」


しかし、俺は地面に横になる前にいつの間にかやって来ていたソフィに後ろから支えられた。

いつから居たの?気が付かなかった。


「そろそろ舞台から退場しないとさすがに怒られてしまいます。お疲れでしたから、このままお姫様抱っこで退場しましょうか?」


「いや…さすがにそれはちょっと…。自分で歩いていくよ」


「ふふっそうですか」


双子の妹にお姫様抱っこされながら退場するのはさすがに恥ずかし過ぎる。それだけは勘弁して欲しい。



「あ、ベクア達は?」


「お兄ちゃんが聖女を殺った後に、顔に水をかけたら起きましたよ。その時はもう普段通りでしたよ。一応クラウディアには解呪をしてもらいましたし、大丈夫でしょう」


「なら良かった…」


ベクア達も無事なようでよかった。

俺はユグ達を俺や剣の中に戻して、ソフィに肩を貸してもらいながら舞台から退場するために歩いて行った。

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