第271話 約束
「同志よ」
あと数歩で舞台から出るというタイミングでブロスが俺から出てきて話しかけてきた。剣の中に戻した意味が無い…。
「これで勇者の問題が解決したと思っているか?」
「え?」
勇者の問題とは契約している精霊達などのことだろう。
「確かに同志は悪魔達を勇者から解放することができた。だが、それだけでは同志の自己満足で終わってしまう。ああいう輩は同じ過ちを繰り返す。今は同志という突如現れた未知の脅威に怯えているから良い。しかし、その怯えはいずれ忘れられ、怒りへと変わるだろう。その時に復讐のためにもう一度契約するだろう。我らは解放できただけで再び契約をできないようにできた訳では無い。今のままでは犠牲者が誰か変わるだけだ」
「………」
ブロスの言葉に納得できてしまった。確かに今のままでは俺の偽善で終わってしまう。
「…どうすればいい?」
「1番簡単な方法は勇者を殺すことだが、それはダメなんだろう?」
「ああ」
俺はブロスに助言を求めた。ブロスは方法も分からないのにそんなことを言うやつでは無い。どうすればいいのか分かっているからこそあんなにきつく言ったのだろう。
「ああいう輩の扱いは我が一番心得ておる。一番の自信を打ち壊せば良いのだ。方法は我に任せろ」
そこからブロスによる演技指導が少し行われた。
「勇者はこれで問題ないだろう。だが、聖女は…」
「聖女についてはお兄ちゃんが勇者の処理をしている間に私が処理しておきます」
「なら良いな」
聖女についてはソフィがどうにかするということになった。
「精霊化、悪魔憑き、獣化」
そして俺は舞台から退場した。
「「「ひっ!」」」
俺が舞台から降りて、目が合った瞬間に勇者が小さく悲鳴をあげた。俺が使っている殺気のスキルに当てられたのだろう。すぐに3人はそれぞれ俺から逃げるような行動を始めた。
「何なのよあれは…どう見ても人間じゃない…」
女勇者はすぐに時間停止をした。そして停止している時間の中でそんなことを言いながら落ち着こうとしていた。
「人間じゃないとは失礼だと思わない?」
「え…な、何で……」
女は時間停止中にも関わらず俺が話し始めたことに驚いていた。俺にはユグとの精霊魔法でも、時間停止することはできはしない。しかし、誰かが時間停止してくれた中に割り込んで動く程度のことはできる。
「おいおい…逃げることは無いだろう?」
「あっ…あ…」
恐怖で少しずつ俺から下がって距離を取っていた女の後ろに雷縮で回りこんだ。そして頬に薄く傷がつけた。
「ちょっとスキルを確認してみな?」
「な、なん、何で…?」
「いいから」
そして女は恐る恐る自分のステータスを出してスキルを確認した。
「あ、あれ?スキルが1つ使えなくなってる…」
「それが俺の持っているスキルでできるんだよ。そこで質問なんだけど、ここで時間停止を使えなくしたら君はこの時間停止中の空間から出れるのかな?気になるからちょっと試してもいいかな?」
「や…そ、それだけは…」
実際にどうなるかは本当に分からない。俺がこの時間停止から1人で抜け出した時に外がどうなっているかも分からない。
ちなみに、時間停止しているので1日経過することも無いから、自動的にスキル封印を解除することはできない。
1人でこの空間に一生残されるかもしれないという恐怖で女は立っていることもできないほど震えていた。
「それをして欲しくないのなら1つ約束してくれない?」
「や、やくそく…?」
「簡単な約束だよ。二度と精霊、悪魔、獣と関わらないっていう約束だよ」
俺はペタンっと座り込んでしまった女にそう話した。普通はこんなただの約束なんて意味はない。
ただ、ユグの作った誓約魔法を使うとこれにはかなりの意味を付けることができる。この魔法は約束を必ず守らせることができる。ただ、この魔法の不便なところが、相手側がその約束に対してほんの少しでも不満を持っていた場合には成立しないことだ。だからこんな精神状態まで追い込む必要があるのだ。
「する!するから!」
「なら良かった。もう時間停止は解除していいよ。スキルも元に戻してあげたよ」
女がそう言った時に誓約魔法が発動したのを感じた。これで1人目は終わりだ。
ちなみに女は時間停止をいつでも解除できていた。しかし、俺が入り込むというイレギュラーと殺気の効果があり、そんなことを考える余裕は無かった。別に時間停止が解除されてもブロスによる次の策はあった。
「「うわっ!」」
時間停止が解除されたことで、俺が急に後ろに現れたことにAとBは驚いて声を上げた。
「2人とも逃げないでね。逃げたらどうなるか分からないからね?」
まだ殺気は発動中のため、2人は固まっていた。ここで必要なのは本当に動いたら、殺すつもりは無くても、足は切断するつもりということだ。
「ぁ…はぁ…はぁ……」
すると、急にBが冷や汗を流しながら過呼吸のようになった。
「ねぇ…動いた未来で君はどうなってたの?気になるから教えてくれない?」
「ゃ…ぁ…」
「まあ、いいや。そんな事よりも約束して欲しいんだけど」
そしてここからの流れは女と同じだった。ただ、俺は約束を断ったり、誓約魔法が発動しなかったら足を刺すという意志を持って約束を話しただけだ。すると、Bは食い気味に約束をした。一体未来で何を見たんだろうね。
「君にも同じ約束をしてもらいたいんだけど」
「な、何で俺様がそんな約束を…」
近くで話を聞いていたAにそう話しかけたが、断られた。殺気にも慣れてきたのか断れるようになっている。
「ユニークスキルフルオープン」
「は?」
俺は唐突にAにユニークスキルを全て見せた。最初は意味分からなそうにユニークスキルを眺めていたが、途中から顔が真っ青になった。そして何度もユニークスキルを読み返していた。
「いや、試合中にさ高速反射っていうスキルをコピーされたやつが居たのね。そいつがさ、コピーした奴をぶっ殺してやるって騒いでるんだよね」
「約束したら助けてくれるのか!」
Aが俺の肩を掴みながらそう言ってきた。落ち着いて考えれば、スキルを見えなくしていたり、エクストラスキルは劣化コピーしかできないなど考えられる事は多い。しかし、試合後の疲れと殺気による恐怖でおかしくなっているAは得体の知れない物のスキルをコピーしてしまったのかと怯えている。
「約束してくれたら助けてあげるよ」
「する!するから助けてくれ!」
誓約魔法が発動した。これで3人はもう精霊、悪魔、獣と関わることができなくなった。
『ピコーン!』
そんな音が脳内で響いてきた。
「では!表彰式は今から1時間後に行いますので、選手の皆さんはそれまでに準備をお願いします!」
そしてそのアナウンスも聞こえてきた。俺は舞台から退場した時に会場が盛り上がっている間に終わらせることができたようだ。そして周りも見ずに1人で控え室に戻った。と思ったがいつの間にかソフィは後ろに居た。
『完璧だ。よく頑張ったぞ』
「…ありがとう」
「お兄ちゃん!?」
そして控え室に着くと、倒れるように気絶した。元々分かっていたことだが、時間停止に割り込んだり、ユグが急に作った魔法を普通に使ってみたりするのは負担がでかかった。だが、これでもう勇者が精霊達と契約することはできなくできた。そのやり方は完全に悪役だったけど……。
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