第257話 成果
「はぁ…はぁ……」
「もう終わりか?」
「…もう1本!」
俺の攻撃を受け流す特訓は模擬戦?をした次の日から始まった。やることは単純で、俺がとりあえず老人の瞬間移動からの攻撃を受け流す。それの合間でダメだったところの指摘を受けるという感じだ。
この特訓には大きな問題点が2つあるある。1つ目は俺が一方的に攻撃されるからストレスが溜まる一方だということだ。でもこれは我慢し続ければいい話ではあるからまだいい。大変なのはもう一方の問題点の方だ。
「今のはもっと肩の力を抜いて、剣の角度を5度ほど高くして、足を半歩下げて、重心を少し後ろにやって、さらに腰を3cm下げろ」
「……」
「返事は!?」
「はい…」
2つ目の問題とは求められる事が多過ぎる問題である。教えてくれることは丁寧でいいのだが、一変に全てを求められる。される指摘が多いということは期待されているという裏返しかも知れないが、この量を一気に修正するのは無理に近い。もしかしたらこの老人は人に何かを教えたことがないのかもしれない。そう思うほどに要求されることが困難だ。
「はぁ……ちなみに帰してくれる基準とかってあるんですか?」
3時間に1度の10分休憩の時間に老人に聞いてみた。何か目標があった方が励みになると思った。
「そうだのう…最低ラインは受け流す時に剣から音が鳴らなくなるまでだな」
「え…」
つまり、求められている事はこの老人がやった腕で剣を受け流せるレベルということだ。そうでも無い限り受け流した時には音は鳴る。
「そうだのう…ぼうずが早くできるようになったら、儂がやって見せた遠くの魔法を斬る技を教えてやろう」
「まじか!」
老人が言っているのはソフィの魔法を全て斬ったやつのことだ。あれがあれば、ソフィの魔法転移のために準備した魔法を斬る事が出来る。ソフィに精霊化無しでも勝てるようになるかもしれない。
「モチベーションは上がったかのう?」
「上がったね」
これはかなりモチベーションが上がった。今はあまり必要の無い受け流す技術よりも、俺は今あったら便利のやつの方を手に入れたい。
「そろそろやるぞ」
「よしっ!」
そして10分休憩も終わってまた同じように受け流す時間がやってきた。
そして毎日毎日特訓をしていると、特訓を始めて1週間が経過した。
「なかなか良くはなってきたのう」
「ふぅ…そうでしょう!」
俺は50回に1回は音を鳴らさずに攻撃を受け流せるようになった。そして残り49回もかすっ…という音が出るだけだ。
「お兄ちゃん」
「分かってる」
特訓を1週間付けてもらった。つまり、もう対校戦開催予定日を過ぎたのに魔導具から連絡が無いということだ。本当にまだ開催していないのか、魔導具が壊れて開催しているのに連絡ができないのか、それとも壊れていないのに魔導具で連絡できない何かがあったのか…ということになる。
予定通りに対校戦が始まっているのなら、明明後日くらいにメインであるサバイバル戦が始まるからそろそろ帰らなければならない。
「あの…」
「分かっておる。そろそろ帰りたいのだろう?」
俺が帰りたいと伝えようとしたが、それを先読みして老人がそう言った。
「正直この短期間でここまで上達できるとは思わなかった。そこまで上達したのならもう受け流す技術は自分で仕上げることが出来るだろう」
「お、おお…」
この1週間で始めて褒められたかもしれない。嬉しくて思わず涙が出そうになった。
「ぼうずは0を1にすることができた。しかし、1を100にするのはそれ以上に大変であろう。精進を忘れぬようにな」
「はい!」
確かに、絶対に音が鳴らないようにするのはかなり難しいだろう。でも、確かにここからなら自分の努力でもできそうでもある。受け流すコツは掴むことができた。
「行き詰まったらまたここに来い。まだ教えたいことは山ほどある。ただあまり遅いと儂が死んでしまうから死ぬ前にな」
「はい!」
結局遠くの魔法を斬る方法は教われなかった。また機会があったらここに来たい。
「ありがとうございました!」
そう言って俺はソフィと一緒に走り出そうとした。転移なんてできる者はほぼ居ない。だから知られないために少し離れてから転移するつもりだ。お世話になったけど、正体がよくわからない人に手の内を全てを見せるようなことはしたくない。
「どこへ行く!ここで転移すれば良いだろう」
「え!?何でっ…」
「はぁ…お兄ちゃん…」
「あっ…」
「ぼうずはそういうところも成長せねばな!」
俺は鎌をかけられたようだ。でも、確かに言われてみれば、急いでいるのにも関わらず、ここから王都まで走って帰るとは思えないな。
もうソフィも諦めたのかここで転移するために魔法の準備を始めた。本当にごめんね…。
「繋がりというのは何の前触れも無くに突然消える。無くさないために力はいくらあって損は無い。だから強くなり続けろ」
「え?」
老人は白い2本の剣をどこか寂しそうに撫でながらそう言った。
「どういうこ…」
「ゼロス、達者でな」
「転移!」
そうして俺達は王都へ帰った。
◇◆◇◆◇◆◇
「……これでよかったのですか?シ…あなたには教えるべきことがありましたし、あなたが直接教えられた方が良かったと思いますよ?無理やり何も話さずに教えたので、私は彼らからしたらかなり変な人になってましたよ?」
「これでいいんだよ。俺様が教えたらそれはもう答えだ。答えを直接教えても成長できないだろ」
「親バカですね」
「ほっとけ!そんなことより俺様の頼みを聞いてくれてあんがとな」
「いえ、私も初めて自分の技術を教えられて楽しかったですよ」
「なら良かったぜ。それにしても最後はバラされるかと思って心配したぞ」
「約束は守りますよ。私が意図的に約束を破ったことは無いでしょう?」
「それは無いな」
「だから安心していてください」
「そこは安心してやる。それとあの変な喋り方は何なんだ?笑いが抑えられなかったぞ?」
「あの方が雰囲気が出ていいでしょう?最近はああして話しているんですよ」
「ふっ!確かに雰囲気は出てたな!」
「…そろそろ時間では?」
「ああ、そうだな…時々でいいから世話を見てやってくれると嬉しいぜ」
「ええ、わかりましたよ。それではさようなら…」
「ああ…あばよ…」
深林で1人になった私は白くなった刀を優しく撫でてから歩き出した。
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