第244話 園内戦4日目 前

「これより!最終日3位決定戦を開始します!」


今日で園内戦も4日目の最終日だ。まず午前中に3位決定戦があり、その後の午後に俺とソフィの決勝戦がある。



「3位決定戦べクア・ルキウェル対クラウディア・アレオーラ始め!」


そして早速ベクアとクラウディアの3位決定が始まった。






「試合終了!勝者!べクア・ルキウェル!!」


試合の結果はベクアの勝利だった。正直これは相性の問題だった。魔法を殴って消せるベクアに対して、魔法しか決定打を持たないクラウディアは何もできなかった。それでもクラウディアは諦めず、何とかベクアの隙を着いて傷は負わせていた。見ている側も面白い試合だった。

俺の試合は今から1時間後くらいにあるので、軽く昼食を取って控え室に移動した。




「よぉ。待ってたぞ」


「あ、ベクアおつかれ」


控え室に行くと、まだベクアが椅子に座っていた。普通ならとっくに出ているはずなので、本当に俺を待っていたのだろう。


「今日使うのはその2本の剣だけなのか?」


「ああ」


「なら良かったぜ」


ベクアはそれだけ言うと、椅子から立ち上がった。それを確認するためだけにここに居たのか?



「俺に勝ったんだから絶対に負けるなよ?」


「勝つに決まってんだろ」


控え室から出る直前にベクアはそう言った。俺は負けるつもり何て無い。




「最終日決定戦を開始します!!!」


観客の歓声が今年の園内戦で最大になっている。去年と同じカードでの決勝戦だ。また妹のソフィアが勝つのか、今年は兄のゼロスがリベンジを果たすのかと盛り上がっているのは試合前から聞こえたきた。



「お兄ちゃん、私は昨日からこの決勝戦をどうしようか考えていました。そして1度は決めましたが、今の今まで考え続けていました」



「ん?」


もうすぐ試合が始まるので、剣を構えようとした時にソフィがそう言ってきた。



「そして決めました。私の全力をもってお兄ちゃんを完膚無きまでに叩き潰します。ちゃんとその後は慰めてあげますので、アフターケアについては安心してくれていいですよ」


「負けないからアフターケアなんて必要無いよ」



ソフィが何に悩んでたかは分からないが、結果的には俺と本気で戦ってくれるようだ。

俺は腰に着けた翠闇と翠光のグリップを握っていつでも抜けるように構えた。



「決定戦!ゼロス・アドルフォ対ソフィア・アドルフォ始め!」



「雷電纏、雷電エンチャント、…」


「転移」


雷電エンチャントをしたタイミングでソフィが俺の近くに転移して来た。これは完全に想定外だ。使用回数に限度がある転移を始まった瞬間に使うとは思わなかった。



「危機高速感知ロック」


「え?」


そしてソフィは俺の危機高速感知を封印した。そうか…まず近付いて俺のスキルを封じたかったのか。ならこれは想定できたことだ。そんなことよりも危機高速感知をロック?精霊使いじゃなくて?



「インフェルノ」


そしてソフィが至近距離から魔法を放ってきた。考えるのは後にして一旦ソフィの魔法を翠光を抜いて斬ろうとした。



「がっ…!」


しかし、俺の真後ろで何かがバンッ!という音と共に爆発が起こった。その不意打ちの衝撃に思わず仰け反ってしまい、インフェルノも斬れずに食らってしまった。



「回復ダブルハーフエンチャント」


回復エンチャントをしてから急いでソフィから距離を取った。ソフィは後追いをしてくることがなく、むしろソフィも俺から離れた。



「悪魔憑き」


そして俺が息を整えようとした時にソフィは悪魔憑きを行った。



「お兄ちゃんは何で私が危機高速感知を封じたかもう分かったよね?」


「ああ…!」


ソフィが舞台の端と端でも聞こえるくらい少し大きい声で話してきた。ソフィが俺の危機高速感知を封じた理由は、俺の神速反射を使わせないためだ。直接神速反射を封じないのは、エクストラスキルは封じれないからなのだろう。

俺の俯瞰の目では、すぐ近くで放たれた魔法に対しては意味が無い。そうなると、俺は魔力高速感知に頼るしかない。魔力高速感知では、魔力が分かるだけだ。その魔力でどんな魔法が放たれるのかは自分で考えなければならない。その分危機高速感知よりも反応が遅くなってしまう。危機高速感知が封じられたのは痛い。

こうなったら俺も出し惜しみなんてしている余裕は無い。俺は翠闇も鞘から抜いた。




「獣化、悪魔憑き、精霊ユグエンチャント」


雷電エンチャントを変更した。同時に三属を使ったけど、特に新しい称号は手に入らなかった。



「お兄ちゃん…可愛くなったね!」


「ほっとけ!」


今の俺には狐耳と1本の狐尾が生えている。これは絶対俺じゃなくてソフィにやった方が需要がある。




「じゃあ行くぞ!」


「いいえ、お兄ちゃんは私のところまで来ることはできませんよ」


「は?」


ソフィの言うことを無視して俺はソフィに向かって走り出した。ソフィは魔法の準備をし始めたが、この距離でなら当たらない。



「ばーん」


ソフィはそのまま火、水、風、土、光、重力の複合魔法の槍を放ってきた。槍自体は重力魔法で圧縮したのか、普通のサイズ感だ。俺はそれを走りながら普通に躱した。一応警戒したが、特に何も無かった。



「雷しゅ…」


「私の言った通りだったでしょう?」



俺は槍も避けたので、雷縮を使って一気にソフィの元へ行こうとした。そんな俺の後ろから、さっき躱したはずの複合魔法の槍が雷電纏を貫通して脇腹を貫いた。俺は脇を抑えて膝を着いた。ちなみに俺を貫いた槍は地面に突き刺さって止まった。



「私はちゃんと心臓を狙いましたよ?急に変なことしたせいで違うところ行ってしまいました」


俺は急いで回復魔法を使って脇腹の穴を治して立ち上がった。

そしてさっきの何だ?特に俺の周りで魔力は感知できなかった。そして俯瞰の目でも、槍が範囲外まで飛んでいくのを確認した。そして、急に勢いそのままで俺の近くにやってきた。となると、考えられるのはシファの能力か?



「でも次は外しませんよ」


ソフィは空中にさっきと同じ魔法を数十と準備し始めた。



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