第233話 新たな剣

「雷電エンチャント」


俺は新しい剣が気になり過ぎてエンチャントしてまで急いで向かった。こんなことなら俺の試合後すぐに行けば良かったと思わなくもないが、これから対戦するであろう相手の試合は見なくてはならない。




「遅いぞ!早く来い!」


「おおう……」


小屋に着くと、グラデンが小屋の前に立っていた。どうやら俺が来るのを今か今かと待ちわびていたようだ。グラデンは急いで俺を地下に案内した。その様子だと、ちゃんと剣は完成しているようだ。



「お前の新しい剣はこれだ」


地下に入ってすぐにグラデンは置いてあった美しい鞘に入った剣を渡してきた。




「これが新しい俺の剣?」


「ああ。名は翠闇と翠光だ」


鞘は両方とも深緑色だった。また、鞘から伸びているグリップの色は、翠闇が暗緑色で、翠光が黄緑色だった。

鞘から抜いて剣を確認してみると、翠闇と翠光の両方とも剣身の真ん中は透き通るような綺麗な翡翠色だった。だが、刃の部分である外側の色は翠闇と翠光で違っていた。

翠闇の外側の色は真ん中とは対照的に、何もかも吸収するかのような漆黒である。

また、翠光の外側は向日葵色の温かい感じだ。



「少し振ってみろ」


「あ、ああ…」


翠闇と翠光を腰に付けた。ちなみに借りていた剣はマジックリングの中で入っている。そして俺は剣を抜いて振った。



「どうだ?」


「文句の付けようがないな」


「そうだろ!」


グラデンは自信満々に剣の使い心地を聞いてきた。実際に剣の使い心地は身体の一部かのように感じるほど使いやすい。これ以上ない完璧な出来栄えだ。



「ほれっこれを斬ってみろ!」


そう言ってグラデンは鉄の塊のようなものを投げてきた。俺はそれを右手の翠闇で斬った。



「……やば」


斬ったのに斬った感触が全く無かった。何かとぶつかった感覚すらも無かった。


「斬れ味は俺の打った剣の中でも過去最高のものだろう。だからこそ気を付けろよ」


「そうだな」


この剣は軽く触れただけで何でも斬れるのではと思うほどの斬れ味だ。だから下手に振り回すと斬ってはいけないものまで斬ってしまう。



「ちなみになんか特殊能力とかは無いのか?」


「ある訳ないだろ!そういうのは特別な高ランクの魔石を使って作った時に時々できるだけだ。それに特殊能力を持っている剣っていうのはその特殊能力の代償に呪われるか、すぐに剣自体が壊れるかだ。そんな剣をお前は望んでないだろ?」


「その通りだな」


俺が今回欲しいかったのは、この先に俺の相棒として使い続ける剣だ。それが満たせないなら特殊能力入らないな。でも、欲を言うと特殊能力は欲しかったな。

ちなみに特殊能力を持つ剣が呪われるかすぐ壊れるのかにはちゃんと理由があるそうだ。それは魔石の元となった魔物が強い呪いを込めながら死んだ場合にその力は魔石に宿る。その魔石を剣に使うと、特殊能力があって呪われる。また、壊れる場合は強い魔石の力に剣の素材が耐えきれないからだそうだ。





「あ、そうだ。あれを嵌めないと」


剣を眺めていたらガードの中央に窪みを見つけた。これは元々依頼していたものだ。ここに俺の持っているストーカーしてくる玉をくっつければ自動で俺の元へ帰ってくる剣になる。だが、もちろん使いにくい場面もあるだろう。マジックリングの中に入らなくなるしな。その時には外せばいいかなという簡単な気持ちで俺はポケットから取り出した謎の玉を翠闇に嵌めた。


「え!?」


「なんだ!?」


すると、玉から剣全体に白い血管のようなものが走った。それは全体に行き届くと、緑色になった。そのすぐに緑色から黒色になった。そしてその変な模様は消えた。



「な、なんだ今のは!?」


「知らんよ!」


グラデンが胸ぐらを掴むような勢いで聞いてくるが、俺にもさっぱり分からない。


「あっ…」


俺の嵌めた玉の色が変わっていた。ただの錆色から緑色と黒色の2つの勾玉の模様になっていた。



「もう玉は一個あるんだろ?それも嵌めてみろよ」


「あ、ああ」


グラデンがそう言ってきた。この剣だけなのかそれとも違うのか俺も気になった。だから翠光にも同じように嵌めた。すると、同じように血管のようなものが走った。ただ違ったところは、血管の色が緑色に変わってから黄色に変わったことと、玉の勾玉の模様の色が緑色と黄色になったくらいだ。



「もう1回斬ってみろよ!」


そう言ってグラデンは再び鉄の塊を投げつけてきた。俺はそれをさっきと同じように翠闇で斬りつけた。


カン!


「え?」


「ん?」


その塊は斬れること無く、弾かれた。念の為翠光で試しても同じだった。包丁で野菜を切るような感じでやってみても木すら斬れ無かった。


「………」


「………」


つい俺もグラデンも他のドワーフ達も無言になってしまった。俺は無言のまま玉を剣から取り外そうとしたが外れなかった。どんなに力いっぱい外そうとしても無理だった。



「…1度預かって外せないか色々試してやるよ…」


「…ありがとう」


そして剣をグラデンに渡そうとした。しかし、俺の手から剣が離れなかった。そうだ。この玉は俺から離れないんだった。



「……とりあえず今日は持ち帰ります」


「そうか…その玉はこっちでも調べておく。お前は明日の試合に集中しろ」


「ありがとう」


俺は翠闇と翠光を腰に装着して帰った。




「あ、お兄ちゃん。それが新しい剣ですか?どのような性能か明日じっくり見させてもらいますね」


「あ、ああ。そうか」


ソフィにそう言われても曖昧な返答しかできなかった。それから落ち込みながらご飯を食べて風呂に入ってベットに横になった。もちろん剣は常に俺から5m以内にあった。




「せめて翠光に嵌めなかったら…いや、そうじゃないな」


翠闇と翠光は2本で1つなのだ。片方だけであったとしてもしょうがない。でも、ポジティブに考えると、斬れはしないけど俺に馴染む最高の剣だ。

はぁ…何でよく知りもしない謎の玉を嵌めたのだろう。なんて考えながらも明日も試合なので俺はすぐに眠った。






「っな!!!?」


眠っていたのに俺は飛び起きた。なぜなら危機高速感知が激しく反応したからだ。


「ほう…お前の言う通りなかなか良い反応だな」


「だろ?俺が見込んだだけはある」


声の方に目をやると、そこには悪魔王と9つの尾をもつ狐が居た。



「ゼロス、契約しに来たぞ」


悪魔王は俺と目が合うとニヤッと笑いながらそう言った。


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