第223話 勇者とは

「勇者が現れたんですって……」


「そうらしいわね〜〜」


ソフィと共に歩いて練習場に向かっているとそんな会話が周りから聞こえてくる。俺とソフィは勇者について全く話さなかった。なぜなら俺達2人で話すよりもより知っているであろう人がいる時に話した方がいいと分かっていたからだ。




「さあ…詳しく説明してくれるんだよね?」


「ええ。ゼロス達は当事者になると思いますので」


俺は練習場に獣人達とエリーラが集まったのを確認してそう切り出した。昨日に意味深なこと言って、今日こんな事になったのだ。当然説明をしてもらいたい。ちなみにドワーフ達は剣が完成するまでは絶対にここには来ないと思うから先に話し始めている。



「まず、勇者達が生まれたのは今から10年前です」


「10年前?」


「はい。彼らが10年前の5歳の時に教会で勇者の称号を獲得しました」


つまりは…俺よりも2歳年上ということになるのか。


「なんで今の今まで明かさなかったの?」


「それはまだ勇者が弱かったからです。まだ弱い時に勇者が殺されたり、誘拐されたら神聖タグリオンにとって大損害ですからね」


「つまり、もうその心配はないと?」


「少なくても神聖タグリオンのお偉いさん達はそう思っているのだと思いますよ」


もうそんな心配をしなくて良いほどに強く育ったということなのか。


「大事にしてどうやってステータスを上げさせたんですか?」


「パワーレベリングですよ。勇者に遠くから魔法を当ててもらって後は別の人が倒します。勇者はステータスが必ず最大値で上がりますから」


今度はソフィが質問した。何かやっていることが誰よりも勇者らしくないと思うのは俺だけか?



「それでは称号の勇者の効果を説明します。まず、全ステータスが2倍になります。そして経験値の獲得量も2倍です。更に物理攻撃、魔法攻撃の被ダメージを共に半減します。そして武器系スキル2つ、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法の基本属性の魔法のスキルレベルがMAXで取得されます」


もう何でもありだな。でも、最初からスキルレベルがMAXだと成長することがないからつまらなくないのか?


「勇者の効果はそれだけですか?」


「それと、それぞれエクストラスキルを1つ持っています」


ソフィがそう聞くと、クラウディアはそう答えた。エクストラスキル…ということは勇者の称号はあの神が与えたものだろう。



「あれらは勇者がどんな条件で獲得されるかも分かっていないのに、自分が特別な存在だと信じきっています。しかも何の不自由もなく欲しい物は全て与えられて育ったのでかなり自己中心的で生意気です。恐らくろくに戦闘訓練もしてないでしょう」


クラウディアは目のハイライトがだんだん消えていきながらそう言った。



「男の勇者2人にはやれ俺の女になれ、俺の女にしてやるなど……ここに来る直前には襲われそうにもなったし…。女の勇者から泥水をかけられることが日常になっていました」


何かクラウディアは可哀想に思えてきた。そんなところなら国外追放になった方がマシだと言うわけだ。



「私はそんな奴らの自信が打ち砕かれたところを見たいんです。協力してください」


「いや…うーん…」


確かにクラウディアの境遇は可哀想だとは思うけど、だからって協力してくださいと言われてもな…。正直はっきりと返事ができない。それにクラウディアからの意見しか聞いていないからそれが本当に正しいのかも分からない。



「ゼロス達がこれですぐに「分かった!協力する!何をしたらいい!?」何てことを言う偽善者では無くて安心しました」


もしかしてクラウディアは何かを試す為にわざとこんな言い方をしたのか?それだとしたらあんまり印象は良くないな。これは俺がクラウディアのことをあまりよく知らないから思うことなのかもしれないけど…。



「実際に目で見てもらってから決めてもらって構いませんよ。必ず向こうから接触してくるでしょうし」


「見て分かるものなの?」


エリーラがそう質問した。確かに相手の善し悪しなんてちょっと見ただけでそう簡単に分かりそうもない。



「ゼロス達なら分かると思いますよ。その勇者3人はそれぞれ精霊、悪魔、獣と契約させています。そんなまともな人間じゃない勇者達と強制的に契約させられらどんな扱いなのか…想像することは難しくないですよね」


「おい…そいつはどういうことだ?他はよく知らねぇけど獣は獣人しか契約できねぇだろ?」


「言葉のまんまです。神聖タグリオンにいる凄腕の魔法使いが総出になって、無理やりかつ一方的に契約させる方法があります。もちろんやり過ぎるとそれぞれの王にバレしまうので勇者くらいにしかやりませんが……」


「ごめん、ちょっと外す」


「お兄ちゃん!?待って!」


俺はそれだけ言うと教会に走り出した。勇者についてあの神に聞くために…。


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