第222話 正体

「んっ…ん?」


「おはよう。大丈夫?」


「今はどこも痛くない。でもさっきはお腹が痛かった」


「ごめんね?」


「許す」


鎖が解けて10分程でシャナが目覚めた。回復魔法のおかげでどこも特に痛くは無さそうだ。



「…私達は負けたのね」


「俺が勝ったよ」


「勝てると思ってたのに……」


シャナは未だ気絶しているクラウディアをちらっと見てそう言った。



「一応確認しておきます。シャイナ、あの魔法は何ですか?」


「…これはクラウディアから話すべき事だから言わない」


「分かりました」


今度はソフィがシャナに話しかけた。俺はソフィの聞き方に違和感を覚えた。


「ソフィ…もしかしてあの魔法のこと分かってるの?」


ソフィのシャナへの聞き方はあの魔法の属性についてある程度予測できているような言い方だった気がする。


「私は多くの魔法が使えるので、私が使えない魔法であのようなことができる魔法は…と考えると、1つに絞れます」


まじか…ソフィはあの魔法の正体が分かっているのか。



「ちなみに私も分かるわよ」


「え?」


今度はエリーラがやって来てそう言った。


「それが嘘ではないといいですね」


「あら?疑うの?なら私の予想通りだったら、この子がこの国で留学生でも無く、ただの学生をしていることがありえないって言ったら疑いは晴れるかしら?」


「ちっ…」


エリーラの説明を聞いたソフィが舌打ちをした。どうやらソフィの反応からしてエリーラとソフィの予想は同じなようだ。ソフィが舌打ちをしたあとは2人は睨み合っている。本当に仲が悪いな…。



「んぐっ!」


「ん?」


「…あ、おはようございます」


「……おはよう」


クラウディアが変な声をあげて起きた。何かお淑やかなイメージだったのがどんどん崩れていっている気がする。


「あれ?痛みがもう無い!?」


「回復魔法使ったからね」


「そうですか…」


何で残念そうなんだよ!もう完全に俺の中ではお淑やかなイメージから不思議ちゃんみたいなイメージになったよ!



「起きたばっかで悪いけどあの魔法は何?」


目覚めてすぐに聞くのも悪いと思ったけど、すぐに知りたかったので聞いてみた。




「あれは聖魔法です」


「え!?」


「やはりそうですか」


「まあそうだよね」


あの魔法は聖魔法だったの!?というかソフィとエリーラの予想通りだったのかよ。



「あれ?って言うことは……」


「はい。私は聖女の称号を持っています」


「なら神聖タグリオンにいる聖女は?」


俺達はこの前の対校戦で聖女に会っている。あの聖女は偽物だとでも言うのか?



「神聖タグリオンにいる聖女もまた本当の聖女ですよ。ちなみにその聖女は私の腹違いの姉です」


「そうだったんだ…」


「そうですね。聖女が2人居てしまったのです」


「…居てしまった?」


「はい」


クラウディアの言い方的に聖女が2人居ることはあまり良いことでは無いようだ。



「だから私はこの国に追いやられたのです。当時は私の方が聖魔法のスキルレベルが上で周りからの評価も良かったのが疎ましかったのでしょう」


「………」


話が重くてなんて言ったらいいのか分からなかった。それは周りの同じようでみんな黙っている。



「そんなに暗くならないでください!私は国外追放で良かったと思っていますよ」


「良かったの?」


「本当は姉は私の事を殺すつもりでしたよ。でも、これでも私は神に選ばれた聖女です。殺した時に神が自分から聖女を取り上げることを恐れたのです。それで姉は次に幽閉しようとしましたが、何かの拍子に見つかってしまった時に言い訳しようがないので国外追放にしたんです。この2つよりは国外追放の方がマシでしょ?」


「………」


また返す言葉が見つからなかった。ちなみに国外追放ではクラウディアが自分から行きたいと言い出したと言い訳ができるそうだ。でもこれもかなり無理がある気がするけどどうなのだろう。



「でも、そんな大事な事言っていいの?」


クラウディアの話は絶対に聞いてはいけない系の話である。そんな話を口止めも無しで勝手に話して良かったのだろうか?



「大丈夫ですよ。なぜなら私は次の対校戦に出るつもりです。それなら正体を隠したままでは居られません」


「え!?いいの?」


国外追放の聖女ならできるだけ目立たないようにした方がいいのでは無いか?あっ…そういえば俺達が試験でめっちゃ目立たせてしまった記憶があるな。ごめんなさい。



「大丈夫ですよ。なぜなら今の神聖タグリオンには国外追放した聖女を気にしているほどの余裕は無いですから」


「?」


「それよりも今年は対校戦を開催しない、もしくはかなりの制限をつけるのではないかって言われてるけどそれは問題ないの?」


なぜ国外追放の聖女を気にしている余裕が無いのか聞こうとしたが、それよりも早くソフィがクラウディアに別の質問をした。



「開催は必ずしますよ。今年はこのリンガリア王国で開催する年です。それにこの国にはエルフ、獣人、ドワーフの留学生が集まっています。なら前回大活躍したエリーラさん、ベクアさん、シャイナ、ソフィアも出場するでしょう。それに……」


そこまで言うとクラウディアは俺の方を向いてにっこりと笑って話を進めた。


「何よりもこの黄金世代で最強と言われている剣と魔法の両方がトップクラスのゼロスも出場するでしょう。力を民衆に見せ付けるにはこれ以上無い絶好な機会です。それを逃すわけがないです」


まず黄金世代と呼ばれていることを知らなかったし、その中で最強と言われていることも知らなかった。でも、それよりも気になることがある。



「力を見せつけるって何ですか?」


そうソフィが質問したこれが一番気になっていた。



「それは近いうちに分かりますよ」


クラウディアはそう言うと、これ以上言う気は無いとでも言うかのように背を向けた。



「はい!暗い話はここで終わりです。さあ、模擬戦をしましょう?」


そしてくるっと振り返ってからそう言った。そこからはまた模擬戦をやった。さっきまでよりもみんな集中できなかったのは言うまでもない。そして今日は何も無く終わった。ただ、クラウディアの言っていた近いうちというのは明日のことだった。






次の日に神聖タグリオンで勇者の称号を持つ者が現れたという話が国中に広がった。




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