第208話 応用

「っ!」


シャナが急に走り出した。そう思ったら、今度は姿が見えなくなった。



キンッ!



首を斬りかかりにきた見えない鎌を防いだ。やはりこの隠密?は攻撃されるまで見えない。危機高速感知や神速反射がなかったら防げなかっただろう。そういえば、シャナの隠密は魔力高速感知も無効化するようだ。魔力を感知することもできない。

そしてそこからシャナは一方的に攻撃を仕掛けてきた。




「やりにくい…」


攻撃は1度も食らってはないが、こちらの攻撃も一切当たらない。それだけならいいが、俺の攻撃が当たる未来が見えない。全部当たり前のように余裕で躱される。それに姿が消えたり、現れたりと目で追えば良いのか、危機高速感知に頼れば良いのか分からなくなる。

何度剣を振っても、蹴りかかっても攻撃が当たらないので、魔法を使うしかなさそうだ。




「雷弾!」



精霊魔法で雷を剣の先から銃弾のように高速で放った。しかし、それは無詠唱で作られたストーンウォールに防がれた。俺が雷弾を放つ前にもうストーンウォールを作り始めていた。そして雷弾だけをピンポイントに防いだ。どうやら俺の行動は完璧に読まれているようだ。というよりも未来予知に近い気がする。




「雷電ダブルエンチャント」


流石にこのままだとまずいので、雷電エンチャントを雷電ダブルエンチャントに変えた。しかし、それでもシャナに俺の攻撃は当たらなかった。さっきよりは惜しくなったが、まだ当たる気がしない。



「精霊ジール降臨」


今度は精霊降臨を使った。エンチャントをもう1つ増やそうかと思ったが、追加で1つエンチャントを増やしたところで攻撃が当たるとは思えなかった。だから精霊降臨での詠唱無しの高火力魔法連射で終わらせようとした。





「おいおい……まじか」


シャナからの攻撃はほとんど無くなったが、俺の精霊魔法の乱射を全て防ぐか、躱すかしている。そのせいで俺の魔力もどんどんと減ってきた。

どうしようかと考えていた時に、シャナは雷の間を通り抜けて俺の元までやってきた。そして鎌を振りかぶった。



「あっ…時間切れ………」


「お、おおっ!」


そしてシャナは俺の方へ倒れてきた。一瞬それも作戦のうちかと思ったが、目を閉じて完全に気を失っているように見えた。俺は鎌を弾き返す気満々で剣をもうすでに振り始めていたので、慌てて剣を止めて、手放した。そして鎌を手放して倒れてくるシャナを抱きしめるように受け止めた。



「模擬戦終了、勝者お兄ちゃん」


俺がシャナを受け止めると、ソフィの模擬戦終了の声がかかった。そしてソフィはそのまま俺達の元へと歩いて来た。



「んっ…おはよ…」


「あ、起きた」


ソフィがやって来たのと同じくらいのタイミングでシャナは目覚めた。



「…勝てないとは思ってたけど、全く攻撃が当たらないとは思わなかった…」


「あはは…」


もう進化しているのに、進化していないシャナに苦戦しているようじゃまずいからな。でも、高速反射が神速反射に進化していなかったら、攻撃は数回当たっていただろう。



「それでさっきのは何?」


瞳の色が変わってからシャナは明らかに雰囲気が変わっていた。


「あれは心眼の応用」


「心眼?」


心眼とは心を見ることが出来るスキルらしい。ちなみにこのスキルは5歳の頃から取得していたそうだ。



「意識を目に集中して、ゼロスの深層心理まで読み取ってたの」


詳しく聞くと、さっきは俺の心の奥底まで見て、俺の行動パターンを全て熟知されていたらしい。だから未来予知でもしているんじゃないかと疑うくらいに俺の攻撃を躱せていたのか。


「でもまだまだ弱点だらけの発展途上」


「え?そうなの?」


「そう…長時間持たないし、同時に複数を対象とかにできないし、使っている間は複雑な魔法を使えないし、対象から3秒目を離すと効果は切れるし…まだだめだめ」


「そ、そうなんだ……」


シャナの中での自己評価ではまだまだのようだ。でも、もしシャナが進化した時に心眼も進化したら…と思うとゾッとする。そうしたら俺の反射的な動きも読まれるかもしれない。それが可能になったら俺は勝てるのだろうか?



「それにしてもゼロスとソフィアはおかしい」


「おかしい?」


「ソフィアと模擬戦をした時は私が何をしてるかを瞬時に理解して、無心で魔法を放ってきた」


「無心だと深層心理は読めないの?」


深層心理を読むなら無心でも関係ないのでは?と思った。別に上辺で何かを考えていなくても、仮にも戦闘中なのだから深層心理でも何も考えないは不可能だろう。ならソフィの行動も分かるだろう。



「無理。深層心理はほぼ全てお兄ちゃんとやらで埋め尽くされてた。そこから戦闘に関係あるのを抜き出すのは難しい…というか不可能」


「心の奥底を読むなら関係ない情報が大量にあったら読めないだろうと考察しました。だから一番考えやすいお兄ちゃんのことをずっと考えてました」


「………」



ソフィはさも当然という顔をしているが、俺はかなり引いている。戦闘中に戦闘に関係ある思考を隠せるほど俺の事を考えるなんて普通ならできない。




「でもゼロスの方がもっとおかしい」


「えっ…そうなの?」


そんなソフィよりもおかしいって言われると、何だか不安になってしまう。



「そう。まだ上辺が無心で深層心理は別の事を考えるのは、まだやってることは理解できる。でもゼロスはどこでも考えてないことをいきなりする」


どうやら俺は神速反射を使って反射的に動く時は何も考えないらしい。だからシャナはこれで攻撃が当たったということを確信したにも関わらず、攻撃は当たっていないなんてことが多々あったらしい。



「ソフィアにも攻撃を当てることはできた。でもゼロスには1回も当たらなかった。それは流石に悔しい。もう1回模擬戦やるよ」


「え?目はもう時間切れなんじゃ…」


「休んだから大丈夫。早く構えて」


「では模擬戦開始!」


「まだ準備がっ!?」


再び模擬戦が始まった。

そして俺対シャナの模擬戦は目の為のこまめな休憩を挟みながら夕暮れまで続いた…。


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