第167話 限界突破
「雷ダブルエンチャント、雷電鎧」
とりあえずこれでドラゴン魔族を迎え撃った。しかし、これだけでは勝てないのはわかっている。ならどうするか。
「雷掌握」
「ガ?」
俺は精霊降臨中、自分を中心として半径5m以内なら好きに電気を操れる。ただ熟練度が低いので、半径5m以内をピンポイント操ることは出来ない。例えば、俺から前の電気は俺の元へ、俺から後ろの電気は俺から離れて…などはできない。しかし、全ての電気を俺の元へ、俺から離れてなど単調になら操れる。だから俺は半径5m以内の電気を全て停止させることにした。
「オカシイ…」
ドラゴン魔族の動きが明らかに遅くなった。人間は電気信号で動いていると前世で習った気がする。だからそれを止めれば…と思ったが、実力差的に電気信号を遅くするのが精一杯のようだ。今まではこれの危険度が分からなかったせいで試せなかった。でも別にこいつらなら問題ない。
「オラッ!」
「くっ…」
しかしこれにはすこし弱点があった。それは電気を遅くするのにジールの意識が集中してしまうのだ。つまり、これをやっている最中は俺は精霊魔法を自分で練らなければならないのだ。そのため、精霊魔法をノータイムでは使えなくなってしまっている。
「これは精霊がいなくなるのは少しもったいなく感じるな」
イムの声を聞いて思い出した。そうだった。俺はこいつも倒さなければならない。今でもドラゴン魔族に互角程度なのに、こいつに勝てるわけが無い。それに早くエリーラの治療をしなければ…。
「ドウシタ?イイトコロダゾ?」
「ん?」
俺が雷ダブルエンチャントを雷エンチャントに変えて距離を取ったのを見て2匹の魔族が疑問の声をあげた。
『それはダメ!』
「精霊ジールエンチャント…」
ユグの声が聞こえたが無視した。今より強いエンチャントをするには、精霊魔法をエンチャントするしかない。もちろん落ち着いて考えたら精霊降臨中のジールがエンチャント出来るわけがない。それはジールが2人いなければできない事だ。普通はエンチャント失敗で終わったのだろう。だが、幸か不幸か俺には精霊が2人居た。いない精霊の分をもう1人の精霊が補った。
「ガ?」
俺はドラゴン魔族の元へ今までにないくらい速度で移動して、左腕を斬り落とした。そのまま首を落とそうとした。
「これは…本格的に精霊を残したまま魔族にさせる方法を考える必要があるな…」
しかし首への攻撃はイムが手に止められた。こいつは邪魔なので蹴り飛ばした。こいつは身体中がぶよぶよしてるからかは知らないが、斬撃が効かなそうだ。なら打撃はどうだろうか。
「ガ……」
助けに入ったイムが一瞬で消えたことにドラゴン魔族が困惑とした顔をしている。そんなことは俺には関係無いので、再び首を落としにかかった。
「ちっ…」
しかし地面から巨大な漆黒の鱗に覆われている手が俺を掴みに来たので躱して距離を取った。そのタイミングでエリクサーを一気飲みした。なぜMPポーションではなく、エリクサーなのかというと、身体中がボロボロだからだ。今の急激なステータスの増加に俺の体が追いついていない。剣を振るだけでも腕の骨が折れている。それなのにそこまで強い痛みは感じない。あ、折れたと感じるだけだ。そして今のうちにエリーラの治療にいけないかと思ったが、そこにはイムが既にいた。
「それは体に凄い負担かかってるからやめた方がいいと僕は思うよ?」
俺にはそんなイムの言葉は聞こえていなかった。今の俺は肉体的にも精神的にも全く余裕が無い。なんの音も聞こえていない。いらない情報は全てシャットアウトしている。俯瞰の目や魔力感知や危機感知すらも使う余裕はない。でも今このエンチャントだけは解除する訳にはいかない。1回解除したらもうユグはエンチャントさせてくれないだろう。そんなことより、謎の巨大な手が守っているドラゴン魔族よりも先にイムをどうにかすればエリーラの治療に行ける。
「縮地」
「むっ…」
今の俺なら縮地直後にどんな攻撃が来ても躱せる自信がある。そして縮地は急激なステータス増加の影響を受けない。そのため、さっきみたいに床を蹴って走り出す時に足の骨が折れなくて済む。
「縮地縮地縮地縮地縮地縮地縮地」
「それうざい!」
俺は縮地で何度も移動しながらイムを殴り続けている。周りから見たらただイムがフルボッコにされているだろう。見た感じ打撃なら斬撃よりは効果がありそうだ。
「ゔっ…ん゛…」
血を吐き出しそうになったのをどうにか飲み込んで我慢した。今は血を吐いている余裕すら俺にはない。とうとう俺の内臓にも負担がかかり過ぎてきているようだ。でも今ならこの全ての元凶のイムを殺せる。今にも意識を失いそうな体で何とか殴り続けてた。
「え…」
「チャンス!」
しかし、何故かエンチャント、雷電鎧、精霊降臨がパチンっと一瞬で何かに弾かれたように全て解除されてしまった。その隙にイムは俺を掴みにかかった。
「私のゼロ兄様に触れるな」
しかし、イムはその声と同時にドラゴン魔族達のところへ黒い炎と共に一瞬で吹っ飛んだ。廊下を破壊しながら…。そして俺は体の限界で前のめりに倒れそうになったが、誰かに抱きしめられて倒れずに済んだ。
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