第158話 目的

「隠蔽Lv.MAXって鑑定Lv.MAXなら無効化できるんだよ?」


「え…」


「あっ知らなかったみたいだね」


え?隠蔽Lv.MAXなら誰からも本当のステータスを見られることは無いと思っていた。でも全部ステータスが見られているってことは…。


「あ、だからあなたが転生者だってことも知ってるよ?」


「…」


称号に転生者があるからそれはバレるだろう。


「まあ他にもいろいろ知ってることもあるけど、そんなことはどうでもいいから話進めるよ?」


他にも知ってることってなんだよ…。でも、俺としてもステータスの話題を逸らしたいので、頷いておいた。


「今魔族は100人弱くらいいるんだけどさ、僕の伴侶に相応しいほど強い子がいないんだよ。そこであなたに魔族に進化してもらいたいの」


「………」


要するに、結婚相手がいないから他の種族から魔族にさせて結婚相手を作ろうってことか?全く信用することができない。これなら世界征服のためとか言われた方が信じられる。


「人間のまま伴侶になるのはできないのか?」


「え?人間ごときが魔族よりも強くなれると思ってるの?」


すると、きょとん?とした顔でそう言ってきた。何を言ってるの?というような感じだ。


「まず、魔族に進化する利点を話すね」


それに俺が返答をする前に、勝手に魔族に進化する利点をにこにことした楽しそうな顔で語り始めた。


「まず人間なんかでいるよりも寿命が伸びる、次は魔族なら知力以外の全てのステータスの伸びはどの種族の中でも1番だし、魔族は種族の中でも最強だよ。あとは元になった魔物をある程度手懐けて言うことを聞かせることができるよ。そして何よりこの僕の伴侶になれるかもしれない!」


最後のはともかく、他のことは魅力的だ。正直これだけ聞くと魔族に進化したくなるほどだ。


「どう?魔族に進化する気になった?」


「…それで魔族に進化する欠点は?」


俺がそう言うと、イムは可愛らしい笑顔が一変して、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「欠点は、個人差はあるけど破壊衝動や殺人衝動がある、全種族と敵対関係にある、レベルが上がりにくい…くらいかな」


「破壊衝動と殺人衝動の個人差ってどのくらい?」


「平均的には月に一度以上何かを破壊したい、魔物じゃない人を殺したいって思うくらい。酷いやつだとずっと人を殺していたいって思うかも」


この欠点は大き過ぎる。街中でその衝動が発生したらめでたく犯罪者だ。もう人間達の街に入れなくなる。


「あ、安心していいよ?衝動が酷いやつはちゃんと処理するか調教してるから!今いる魔族に衝動がそこまで酷いやつはいないよ!そうしないと魔族同士で殺し合っちゃうからね」


これを聞いて魔族になろうと思うやつはいない気がするのだが…。こいつは俺に魔族になってもらうという気はあるのか?


「でも、私くらいになるとそんな衝動くらい簡単にコントロールできるからね。その証拠に私は普通に街とかに人としていたでしょ?」


「あっ」


そうだ。こいつは普通に街にいた。しかし、魔族を街に入れるとは警備甘くないか?いや…誰が見ても人間にしか見えないこいつが凄いんだ。こいつが他の魔族よりも遥かに規格外なんだ。


「あ、王都にドラゴン来たの知ってる?」


「ああ」


急に話が変わり過ぎだ。だが、とりあえず知っているので頷いた。


「そこでシャイナちゃんの命を助けて、ソフィアちゃんの手助けもしたんだけど知らないよね?」


「え!そうなの?」


「私がいなかったらシャイナちゃん多分死んでたんだよ?」


「…それはありがとう」


「えへへ!どういたしまして!」


こいつがわざわざ何のためにそんなことしたのかは分からないが、そのことが本当なら素直に感謝する。



「じゃあ今日のところはお願いだから素直にこのまま帰るよ。今すぐにはお願い聞いてくれなそうだしね。次はあなたがレベル99になった時に来るよ。その時はお願いじゃなくて強制だから。素直に着いてこなかったら少し野蛮な手段も使うからね。それと、このことをエルフに話したいなら別に好きに話していいから。被害が増えるだけだと思うからおすすめはしないけどさ。またね!あ・な・た♡」


「待っ!」


待ってと言う暇もなく、地面に溶けるように消えていった。そして消えると同時に謎のプレッシャーも消えた。つい俺は崩れるように膝を着いてしまった。仮にも伴侶候補の者に向けるプレッシャーではないだろう。



「ゼロス様!」


そんな俺のところにジュディーさんが少し焦った様子で走って来た。


「急に着いてこなくなったと思って焦ったぞ!何かあったのか!?」


「…とりあえず今は帰ろう…」


まだ震える足で何とか立ち上がって帰るために歩き出した。そして帰る間に3人に今のことを言うかずっと悩んでいた。

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