第138話 別視点1


「それでね!精霊王様はね!」


「うんうん」


今日も私だけの豪華な業務室で仕事をしている時に、契約している最上位精霊のネイが精霊王様の話をする。








「………だからね!すっごく素敵なの!」


「そうだね」


私の精霊は属性が精霊王様と少し似ているせいか、精霊王様を慕っている。いや…崇拝していると言った方がいい。


「精霊王様に私も会ってみたいわね」


「会えるといいわね」


そんな崇拝話を1日最低5時間を数百年聞かされ続けた。すると私もいつの間にか精霊王を崇拝していた。でもこれは仕方が無いと思う。もうこれは一種の洗脳と言ってもいい。


「早くゼロス様と会いたいわ」


「それは私も会いたい!」


だが、少しネイと私で違うところがある。それは崇拝している対象だ。ネイの崇拝ランクの1位が精霊王様、2位にゼロス様となっている。しかし、私の崇拝ランクは、1位がゼロス様、2位に精霊王様となっている。これはエルフの私と精霊のネイだからこその違いだろう。


「なんで私じゃなくてあんな雷野郎が精霊王様のお世話役なのよ……」


この話も3日に1度は必ず聞く。私の予想ではネイは精霊王様が何をしても絶対に許してしまうからお世話役になれなかったのだろう。でも精霊王様が何をしても許すのは当たり前だと思う。むしろそれをおかしいと注意する雷野郎が間違っていると私も思う。でもそんな話を毎日聞いていたから、精霊王様と雷の最上位精霊が同時に契約済みになった時点で、1人に精霊王様と雷野郎が同時に契約したと察することができた。ネイはどこの誰と契約したか分かっているだろう。でも精霊達は他人の契約者を話してはいけないので、どこの誰かは教えてくれなかった。




「それでその時精霊王様は…」


今日も少しでも早くゼロス様と会う日を夢見ながら、いつも通りの日常が過ぎていくと思っていた。




「ネイ!おねがい!助けて!」


急に部屋の中に麗しい少女が現れた。私は咄嗟にひれ伏した。なぜならその少女が誰かがわかったからだ。その少女の特徴はネイの次にによく知っている。なぜなら毎日話を聞き続けた精霊王様なのだから。


「2人ともそんなことしなくていいから!助けて!このままだとゼロ君が死んじゃうの!」


「精霊降臨。失礼します…。案内をお願いします」


「わっ…!あっち!」


どうやらひれ伏していたのはネイも同じようだった。そして私は死んじゃうというの言葉を聞いた瞬間に精霊降臨をした。そして恐れ多くも精霊王様にお姫様抱っこをした。今は何よりもスピード重視だ。


「女王様…お茶が」


「席を外す」


タイミングよくノックをしてから部屋に入ってきたメイドにそれだけ伝えると私は窓から飛び出した。


「…転移出来ずに申し訳ありません」


「いいの!大丈夫…だと思う」


私は自己最速のスピードで空を飛んだ。きっとゼロス様がいるのは人間の領土だろう。エルフの女王である私が無許可で入ったら後々面倒なことになることは確定している。だからと言って時間が無いので、許可を取るつもりはない。後でエリクサーを十数本渡せば許すだろう。


「何があったのですか?」


ゼロス様と契約しているもう1人の雷野郎は一応最上位精霊だ。そう簡単に精霊王様がわざわざ私達に助けを求めるとは思えない。


「…魔族がいたの」


「………」


私は無言でさらに飛ぶスピードを上げた。自己最速を更新した。魔族がいるとわかった時点で勝手にゼロス様の魔力を奪って私達を探して転移してきたそうだ。魔力を奪えるだけ奪っても精霊王様1人で片道だけ転移する魔力しか無かったらしい。ゼロス様に助けを呼ぶためにいなくなることは伝えていないらしい。他人の契約者を話してはいけないため、誰に助けを求めるとかも全て言えなかったらしい。助けを呼んでくるくらいは言えたかもしれないけど、気が動転していてそれどころではなかったらしい。そんなところも可愛らしいと思う。ちなみに勝手に契約者の魔力を奪うなんてことはネイにも不可能だ。さすが精霊王様と言ったところだろう。


「…その魔族の種族は?」


「多分…あれはドラゴン……」


私は再び自己最速を更新した。

魔族は4つの種族の間に巨大な深林の奥深くにいるとされている。数千年前から何百年に一回ほどのペース我々が住む場所に突然やってくる。その時は現れた場所に住む種族達が皆で協力して、多大な犠牲を払って、やっと討伐してきた。魔族の定義は人型で知能がある強い魔物という感じだ。そもそも出現数が少ないせいで魔物が突然変異したのか、進化し続けたのかすらわかっていない。その数少ない魔族出現の歴史上最悪だったのがワイバーンと思われる魔物の魔族だった。魔族はその元となった魔物がいると推定されている。今まではウルフやトレントやゴブリンなど弱い魔物が元になっていた。だが、ワイバーンという強い部類の魔物が魔族になって現れた。その時は全ての種族が手を取り合って戦ったと書物に記されていた。それでも何十万という犠牲が出たらしい。これも数千年前の出来事なのでどこまで正確か分からないので、あまり参考にならないかもしれない。ちなみにその魔族に止めを刺したのは、後のリンガリア王国初代国王らしい。

しかし、ドラゴンが元の魔族いうのはさすがにゼロス様にはまだ荷が重すぎる。


「ゼロス様達は何人で交戦中ですか?」


最悪ゼロス様には人間…いや、何もかもを囮に使ってもいいので無事でいて欲しい。


「…1人なの」


私は今日だけで自己最速記録を何回樹立すればいいのだろうか。







「あと少し……」


精霊王様がそう仰ったとほぼ同時にドンッ!という何かがぶつかる音が聞こえた。そこにゼロス様がいると確信して向かった。

そして念願のゼロス様に初めてお目にかかれた喜びは全くなかった。なぜならゼロス様には片腕がなく、お腹にも深過ぎる傷を負っていたからだ。とりあえず歩いている魔族を殴り飛ばした。


「ごめんね…」


精霊王様は小声でそれだけ言うとゼロス様の中に戻って行った。今の一言にどんなに想いが込められているかなんて私には到底分からない。

私は急いでゼロス様の治療に取り掛かった。



「エリクサーごときしかなくてすみません…」


こんなことならハイエリクサーは常に数本は持っておくべきだった。今すぐに腕が治らないことに謝ってから、体力も回復できるように地面から花のつぼみを出してその中にゼロス様を入れた。


「ガァ!」


「最低でも四肢を全て捥いでから殺す」


魔族が何か叫んでいる。さっきの攻撃のガードの仕方と、吹き飛んでからの受け身を見た感じでは、この魔族は戦い慣れていない。生まれて間もない可能性すらある。私は怒り過ぎて逆に冷静になっている。向かってくる魔族に対して、私は空中に火、水、風、土、氷、雷、光、闇とあらゆる属性を何時でも放てる状態でキープして迎え撃った。



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