第123話 違和感

「……ん?」


「どうしました?」


「どうしたの?」


昨日と同じように後ろにいながら馬車の護衛をしているとシャナがいきなり立ち止まった。


「少し先の地面の中に何かいる?」


「何かって?」


「ごめん、長い何かの魔物…ってことしか分からない」


「いや、それだけ分かればとりあえず大丈夫」


シャナは正体まで分からなかったことに申し訳なさそうにしているが、まだ数十メートルも先のことがわかっただけでも十分だ。俺は急いで御者に事情を話して馬車を止めてもらった。その後、依頼主にも説明に行った。


「すいません、もしかしたらこの先に魔物がいるかもしれないので止めてもらいました」


「それはなんの魔物?」


「地面の中にいて、とても長い…ということまでしかわかっていません」


「なるほど」


「最悪迂回した方がいいと思いますがどうでしょうか?」


「ここから迂回するとかなり遠回りになるから出来れば迂回しない方の選択肢をお願いするよ」


要するにその魔物を討伐してくれと言いたいのだろう。それにしても普通は迂回一択だと思うのだが、ギルド長に何か吹き込まれたのか?


「わかりました」


「ただ、この場の誰かの命が危険になるというのなら迂回を選択してくれ」


「わかりました」


依頼主との話はこれにて終わった。これから作戦タイムといきたいところだが、それよりも僕っ子達にも事情を伝えるのが先だろう。

そして僕っ子達に事情を伝え終わるとほぼ同時にソフィとシャナも前の方までやってきた。2人にも依頼主の要望を伝えて作戦タイムが始まった。


「さて…どうしようか」


「なら僕が囮でその魔物のところまで行こうか?」


「却下。で、ソフィどうしたらいいかな?」


「そうですね…」


もう俺の中で作戦担当はソフィということになってしまっている。俺が下手に考えるよりも先にソフィの案を聞いた方が早いだろう。


「まずシャイナの話から考えると、その魔物は蛇系の魔物でしょう。ただ蛇系の魔物なんてこの辺にいないので、どんな蛇の魔物かということまでは判断できません」


「なるほど…」


確かに蛇系の魔物なら長いことも、地面の中にいることにも納得ができる。


「ただ蛇系の魔物の多くが毒を使ってくるのが厄介です」


一応毒消しとかは買ってあるが、最悪の場合は毒消しを使う暇すら無く即死するほどの毒を持っているかもしれない。まあそこまでの毒を持つ魔物はSランク以上なのでそうそういないだろうが。


「じゃあ俺が行こうか?」


「「「「「え…」」」」」


俺がそう言うと、僕っ子達は皆んな信じられないといった顔をした。まあ俺ならそうそう簡単に毒が当たるとも思えないし、最悪勝てないと思ったら、森の中に逃げ込んである程度したら撒けばいい。これは一応言ってみただけである。こんなことをソフィが許すとは全く思えない。


「魔物は私とゼロ兄様で相手をしましょう。私達よりも強い魔物ならこの距離で私達のことはとっくに気付いているでしょう。そしてシャイナは他の魔物が現れた時のために馬車を守ってくれますか?」


「ん」


「それに私たちが勝てない魔物なら尚更迂回してはいけないでしょう。他の人が多く犠牲になってしまうでしょう」


あれ?なんかソフィにしては大胆な作戦な気がする。大胆というかあまり作戦になってないような気さえする。そしてソフィはあまり他人の心配なんてしない気もする。いつもなら俺の安全第一が最優先みたいな考えの気がするが、なんというか……2人で戦いたい?みたいな感じがする。どうしたのだろうか?


「まず私が魔物がいる地面に魔法を放ちます。恐らくそれだけでは死なないと思います。そこからはゼロ兄様が前衛で気を引いてください。私は後衛としてゼロ兄様をサポートします」


「ああ」


「蛇系の魔物で1番厄介と言われている霧状の毒が来ましたら、すぐに私のところまで来てください。私が霧状の毒を何とかします」


「あ、ああ…」


「あとは臨機応変に対応しましょう。私から指示をする時もあるでしょう。その時は必ず従ってください」


「わ、わかったよ」


「では行きましょう」


「う、うん」


こうして俺とソフィは2人で魔物のところまで歩いて向かった。

それにしてもやはりソフィはいつもと違う気がする。はっきりとこれがおかしいと言える訳では無いが、何だか違和感がある。うーん…ソフィの近くで俺を危険な目に合わせたいとか?まあ…そんなことをする意味が全く無いので、これはありえないだろう。本当にどうしたのだろうか?これが俺の気にし過ぎならいいけど……。

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