第112話 ゼロスvsベクア3
「はぁ…はぁ…痛てぇな…」
砂煙が晴れると膝を付いて丸まっているベクアの姿が見えてきた。
「やりやがったな…!」
そう苦しそうに言ったベクアの両腕は肘の先から無く、血を止めるためだろうか氷で腕の傷を塞いでいる。そして首にも同じように氷を巻いている。なぜなら首も斬ったからだ。だがその傷はそれを致命傷にするには浅かった。あと3cmいや…2cmでも首を深く斬れていればもう勝てていたかもしれない。
「がァ!」
そう気合いを込めるような叫び声を上げてベクアは立ち上がった。立ち上がる元気がありやがった。だがベクアは傷を塞ぐための腕の先と首以外には氷の鎧はない。ベクアももう余力が無いのだろう。あと一撃、あと一撃さえ入れる力が残っていれば勝てるのに……。
「はぁ…はぁ……」
ベクアが荒い呼吸をしながらこちらに向かって来ている。俺は未だ結界に寄りかかって座っているだけで動けていない。だが勝つことを諦めたわけではない。ずっとどうにかベクアに勝てる方法を考えている。しかしもう魔力も無く、立つことすらできない。そんな俺に勝つ方法があると信じて懸命に考えた。すると奇跡が起こった。
『ピコーン!』
「えっ……」
急に脳内にアナウンスが鳴り響いた。そのアナウンスを聞き終わるとほぼ同時にベクアが俺の近く来て話しかけてきた。
「ここまでやるとはな…楽しかったぜ」
「ああ、俺も楽しかっぜ」
ベクアはあと2歩ほど近付けば殴れる距離でそう話してきた。恐らく少し助走をつけて蹴りでも入れて終わらせるつもりなのだろう。そして話したのは息を整えるためなのだろうか。そんなベクアを見ながら俺は座ったまま右腕を掲げた。
「ん?悪あがきか?」
「いや…俺の勝ちだ」
右腕を掲げるのを見て一瞬警戒したがすぐに俺に出来ることは無いと決めつけてベクアは無視した。ベクアは負けたことが少ないのか油断し過ぎることが弱点だ。でもそのおかげで勝つことができる。
「雷鎧!」
「なっ…!がっ…」
腕にベクアを真似た熊の腕を付けて脳天目掛けて振り下ろした。氷と違って雷は固体では無いのでどうなるかと思ったが、しっかり鎧という名に恥じない物理攻撃が出来て良かった。ベクアは不意打ちで頭を殴られて地面に叩きつけられたことにより気絶した。もしかしたら雷の効果もあったのかもしれない。だがこれだけでは今のベクアだろうと殺せる威力はなかった。気絶したことにより氷の鎧は無くなっていて、今の攻撃で首の傷はさらに広がっている。そこから血が流れて行くので、ベクアが死ぬまでにそう時間はかからなかった。1、2分ほどでぼんっ!という音と共にベクアは消えて行った。
「勝者!ゼロス・アドルフォ!」
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
今大会で1番の観客からの歓声が聞こえてきた。
「ゼロ兄様!」
そして俺は慌てながら来たソフィに結界の外に出してもらった。正直ベクアへの最後の攻撃でもう体力は使い果たしたので動けないから助かった。
「轟け!サンダーバースト!」
「轟け!サンダーバースト!」
ソフィが多重詠唱で俺に向かって雷魔法を放ってくれた。一瞬周りは焦ったように見ていたが俺が雷を吸収できるのを思い出して胸を撫で下ろしていた。
「回復エンチャント」
そして俺はソフィから貰った魔力でスタミナも回復できる回復魔法をエンチャントした。
「では!表彰式は今から1時間後に行いますので、選手の皆さんはそれまでに準備をお願いします!」
怪我は無いとはいえこんな疲れてるのに休ませてくれないのか…。でも出来るだけ休憩するためにソフィとシャナに肩を貸して貰って控え室へ移動を始めた。
「おいっ!ゼロス!!」
と、そこでベクアから声がかかった。まあ…そうだろうな…。
「あれはどういうことだ!?」
「疲れてるからまた後でな…」
「表彰式では詳しく聞くからなっ!」
俺は疲れていたのでとりあえず後回しにした。少しでも早く休みたかった。そして何故ベクアがそんなことを言ってきたのかというと、あの時のアナウンスで聞こえた2つのせいだろう。
『獣鎧を獲得しました』
『雷鎧を取得しました』
どう考えても獣鎧の方は名前からして獣人限定の称号の気がする。後で獲得条件と効果は確認しておこう。そしてスキルの方は今までの傾向からして称号とセットで付いてきたものだろう。どうにかベクアから逃げる方法も考えよう。
「あなた!!」
「ん?」
あと少しで控え室に辿り着くというところでエリーラから声をかけられた。
「あなたがなんで雷の精霊と契約しているの!?」
「あ、やべ…」
新しい称号のせいで精霊魔法のことは頭からすっかり抜けていた。
「それもあれは私と同じでしょ?」
「………」
周りに気を使って最上位精霊とははっきり言わなかったようだが、それもエリーラにはバレているようだ。
「今は疲れてるからまた後でな」
「表彰式では詳しく話を聞くから…」
どこかで聞いたようなセリフを言ってエリーラは去っていった。さて…どうにか表彰式をサボることはできないだろうか?
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