第77話 決勝戦 後編
「今回のこともそうだけどソフィはいつもわがままなんだよ!」
「私は別にわがままじゃないよ!」
「じゃあ!いつも俺のそばにいないで離れろよ!」
「やだよ!」
「ほら!わがままだろ!」
「でも私がいて助かった場面もあったでしょ!」
「あったけどさすがに常にいるのは鬱陶しい!」
「兄のために一緒にいてあげたのに文句言うの!」
「じゃあ俺のためにたまには離れろ!」
「やだ!」
1度気持ちが爆発してしまったら今までほんの少し溜めていたものまで溢れてしまった。ソフィに兄なんて呼ばれたのは初めてだ。その呼び方は前世で反抗期中の妹に呼ばれた以来だ。そんな呼び方をするくらいソフィもキレているのだろう。しかしこんなに言い合いをしているのに武器の打ち合いはさらに加速していっている。そして俺が一方的にボコられている。
「私からも兄に言いたいことくらいあるよ!」
「なんだよ!」
「いっつも女にデレデレしないで!」
「してないわ!」
「クラスで力と家の権力なんかにつられた馬鹿な女に話しかけられた時もデレデレしてたじゃない!」
「しない!」
「してた!」
「もしデレデレしてたとしても妹のソフィに関係ないだろ!」
「私が見てて恥ずかしい!」
「ぐっ…」
いい攻撃が顔に入ってせいで黙ってしまった。ちらっとソフィを見てみると勝ち誇ったような顔をしている。なんか無性にムカついてくる。
『ピコーン!』
『魔力操作Lv.MAXになりました』
『魔力精密操作Lv.1を取得しました』
『魔力感知Lv.1を取得しました』
「風エンチャント…」
『ピコーン!』
『ダブルエンチャントを取得しました』
『疾風迅雷を獲得しました』
頭の中で何かが聞こえた気がしたが興味ない。今の俺にはソフィの存在しか感じない。そして俺は一方的にボコられるのも腹が立つので2つ目の魔法を強引にエンチャントした。そしてもう一度ソフィに接近戦を挑んだ。
「やっぱり別にデレデレしたってただの妹のソフィが恥ずかしいことなんてないだろ!」
「ただのじゃない!」
「じゃあなんのだよ!」
「ぐっ…」
そして今度は俺のいい攻撃が入ってソフィが黙った。やり返すようにわざと俺も勝ち誇ったような顔をした。ソフィは悔しそうな顔をしている。そしてそこからは形勢逆転して俺の攻撃だけが当たるようになった。
「私が見ててやだからデレデレしないでって言ってるの!」
「だからなんでやだなんだよ!」
「好きだから!」
「はいはい!ありがとうね!」
「勘違いしてるでしょ!」
「してない!」
「じゃあどういう好きだと思ってる?!」
「家族として!妹としてだろ!」
「だから勘違いしてる!」
「だからしてなかっただろ!」
「私は家族としてじゃなくて!1人の男としてお兄ちゃんのことが好きなの!」
「え……ぐはっ…」
「あっ…」
つい動きが止まってしまった時にソフィのメイスの攻撃が腹にきた。俺が数メートル吹っ飛ばされながら転がっている間にソフィも我に返ったみたいで固まってしまった。
「…えっとつまり俺の事が異性として好きだから、俺にソフィだけを見ていてほしいし、どんな時も一緒にいたいし、他の人なんかでデレデレしないでほしいのか?」
「は、はい…」
「あ、そうなんだ…」
2人とも黙って目を逸らしてしまった。とても今は試合中なんて空気じゃない。
「あっ…」
「ん?」
俺にかけられていた重さが消えた。きっと重力魔法が解けたのだろう。
「もしかしてもう魔力ない?」
「蓄えはなくなったかな」
そして俺の動きが遅くなっていた魔法とソフィの動きが早くなっていた魔法も切れたようだ。
「ゼロ兄様の魔力は?」
「ほぼない」
節約のために重力魔法が解けたタイミングで俺もエンチャントを切っている。俺も2つの魔法をエンチャントするとしたらもう10秒も持たないだろう。もちろん精霊魔法を使ったり、エンチャントする魔力はもうすでにない。
「じゃあ次で終わらせるか?」
「そうですね」
魔力的にももう仕切り直しができる量はない。そして何よりそんな空気じゃない。
「じゃあこれを投げるから地面に落ちた瞬間に始めよう」
「わかりました」
俺は闘技場が欠けてできた石の破片を持ってソフィにそう提案をした。そして都合がいいことに今の俺とソフィの位置は最初に試合が始まった位置とほぼ同じである。
「じゃあ行くぞ」
「はい」
そして俺はその破片を力いっぱい上へと投げた。その破片は上への勢い失うと重力によって落下していった。
ガンッ
「火エンチャント」
「雷エンチャント」
「凍り付け!ブリザード!」
そして地面に破片がぶつかった音が聞こえた瞬間に2人とも詠唱をした。あとから確認するとこの時に俺の頭の中ではアナウンスが流れたみたいだが全く聞こえなかった。俺はソフィに全速力で向かって行ってこの一撃で場外まで吹っ飛ばせるように力いっぱい2本の剣を振った。
ズドンッ!
何かがぶつかった大きな音とソフィの魔法による霧が闘技場中を包み込んだ。あまりの激戦に観客たちももう息を飲んで霧が晴れることを待つことしかできなかった。そして霧が少し晴れてくると場外ギリギリで膝を付いている1人の影が見えてきた。
「じょ、場外!試合終了!今年の園内戦優勝!ソフィア・アドルフォ!」
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