第78話 2人の時間

「ん…ん?」


「お、おはようございます」


俺は気が付くとどこかのベッドで眠っていた。多分きっとここは治療室なのだろう。ということは俺は負けたんだな…。


「あ、ソフィ…」


「はい…」


そしてベッドの横で心配そうに俺を見ていたソフィと目が合ったがすぐに逸らしてしまった。どうやらソフィも治療してもらったようで怪我は全く見当たらない。模擬刀なので斬れることは無いが何度も剣を全身に当てたが今は全く問題なさそうだ。そういえば俺もベッドから起き上がることが億劫になるほど疲れてはいるが体の痛みは全くない。この治療室にいる人の回復魔法の腕がいいのだろう。


「あら起きたのね」


そして俺のベッドの周りを囲んでいるカーテンを開けて白衣を着た女性が入って来てそう言った。


「起きられそう?」


「なんとか…」


「なら今から30分後に表彰式をやるからその5分前には闘技場の控え室に来てね」


「はい…」


「じゃああとは若いお二人で」


それだけ伝えるとその女性は治療室から出ていってしまった。きっと俺の意識が戻ったと表彰式の係の人なんかに伝えに言ったのかな?そしてこの治療室にいるのは俺とソフィの2人だけになった。


「………」


「………」


そして2人とも気まずいのか無言の時間が数分過ぎていった。


「この試合は私が勝ちました」


「そうだね」


未だにお互い別々の方向を向いているがソフィから話し始めた。


「なので私の言うことを3つ聞いてください」


「あ、うん。そ、そうだったね。い、いいよ」


そういえばそんな賭けをしていた。ソフィに何を言われるかドキドキしながら内容を言うのを待った。


「まず1つ目に…試合中に私が言ったことは忘れ…なくていいです。だけどその事は気にせずにいつも通りに接してください」


「え?」


「今はまだゼロ兄様と付き合おうとは思いません。まだ私にはやることがありますし…。(それにまだ本当の私のことを知ってもらってませんし、まだ贖罪も済んでいません…)」


「え?なんて?」


「いえ。なんでもありません」


やることがあるの以降は俺の場所からはどんなに耳が良くても絶対に聞こえない声で話していたので聞こえなかった。ならなぜ言う必要があったのかと思ったが、きっと何かを自分に言い聞かせているようだというのがスキルと称号のおかげでわかった。なら俺が聞いてはいけないことなのだろうとそこはもうスルーすることにした。


「わかったよ」


「ありがとうございます」


まだ賭けでできるお願いは2つある。今度は何が来るのかをさっきよりも軽くなった気持ちで待った。


「そして2つ目ですが…試合の時みたいに私に言いたいことがありましたら遠慮なく言ってください。私はやり過ぎることがあるのでゼロ兄様に私のストッパーになってほしいです」


「わかったよ」


「ありがとうございます…」


確かに俺はソフィに遠慮してちゃんと怒るなんてことはしなかった。それが逆にソフィには俺との距離ができていると感じてしまっていたのかもしれない。これからは俺の気持ちをしっかり言っていこう。


「そして最後ですが…」


「ん?」


そこまで言ってソフィは少し何かを考えていた。そして考えが纏まったのか続きを話した。


「離れてほしい時もあるようですがこれからも私は片時も離れずにゼロ兄様のそばにいますね」


「えーっと…やだって言ったら?」


「これは賭けのことなのでゼロ兄様の意見は全く聞いてません!すでに確定事項です!」


「あははっ!わかったよ!」


「ありがとうございます!」


1つ目と2つ目のお願いがソフィらしくないお願いなのでソフィこそ俺に遠慮しているのかと思ったら全然そんなことは無かった。いつも通りのソフィだった。それにほぼ常にそばにいるのは今までと変わらない。


「それよりも!試合の最後のあれはズルいだろ!」


「ふふっ…なんのことですか?」


「あの闇魔法!」


「あれは作戦勝ちです!」


最後の攻撃ときにソフィの魔法よりも俺の攻撃の方が先に当たった。しかしそれは闇魔法で作った偽物でその1メートル後ろにソフィがいたのだ。なんとか飛び付く形で本物のソフィに剣を当てることができたが、同時にソフィの魔法を食らってしまった。そして俺は無理な体勢での攻撃なので剣の勢いは落ちていた。さらに俺は飛び付いている隙だらけの格好でソフィの魔法を近距離で食らったわけだ。


「いつ、どうやって入れ替わったの!」


「またいつかゼロ兄様とは戦うかもしれないのに手の内は明かせませんよ」


「むむ……」


確かに理由としてはちゃんとしているので言い返せない。


「あと何で最初からあの俺の動きが遅くなる魔法とソフィの動きが早くなる魔法を使わなかったの?」


「それくらいなら教えてあげましょう!あの2つは特に魔力消費が多いです。なので蓄えた魔力の大半をあの2つの魔法に費やしました」


「まじか…」


「それにその2つは常時消費していくので、どちらか一方を使っているだけでストームなどの魔力消費の大きい魔法は使えないです」


「わぁーお…」


「それにあれは集中力も使うのであれをやっていると新しい魔法を使う時に詠唱省略すらできません」


「でもそんな難しい魔法なのに2つも同時にできるの?」


「あれはすごく似た魔法同士なので同時にということなら1つだけど集中力的にはそこまで変わりません」


「なるほど…」


そしてあの重力魔法は使い続けていたがいいのかと聞いたがあれは1度かけるとあとはオートなので問題ないらしい。


「予定ならあの2つはあと一撃で確実に倒せるという時に使う予定だったんですけどね」


「それなのについイラッとして使っちゃったのね」


「あれはゼロ兄様が私をほぼ無視しているような感じで試合をするのが悪いのです!」


試合のことをあーだこーだ言っていると早くも移動しなければいけない時間になってしまった。


「じゃあ行きますか」


「はーい」


そしてベッドから出て立ってみると予想以上に疲れていたのかふらついてしまった。


「あっ…」


「もう…大丈夫ですか?」


そしてソフィに正面から肩を掴んで支えてもらった。そのためお互いの顔がすぐそばにある。少し顔を動かすとキスできそうだ。今までは妹としてしか見ていなかったがあんなことを言われるとどうしても異性としても意識してしまう。


「自分で痛めつけてから労るとはソフィはいつからそんなテクニシャンになったのかな?」


「これはまだ序の口ですよ?これからもっと色々していきますので覚悟しててくださいね?」


「お手柔らかにお願いします」


「いいえ、全力でいかせてもらいます」


そしてソフィに方を貸してもらいながら控え室まで移動した。なんとか闘技場に着く頃には1人で歩けるようになった。なけなしの魔力を使って回復魔法をエンチャントしたかいがあった。


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