第65話 覚悟

「心臓が止まるかと思いましたよ!」


「ごめんなさい」


朝に起こされるとソフィはめちゃくちゃ怒っていた。起きるとベッドの上にいたのでソフィが運んでくれたみたいだ。


「また今回みたいなことをしたら今度は許しませんからね!」


「ごめんって」


でもすぐ傍にいたのに全く俺の事を眼中になかったソフィにも責任はあると思うが余計なことを言って怒られたくないので黙っていた。


「ほら!行きますよ!」


「はーい」


昨日あんなことがあったが今日も冒険者ギルドで依頼を受ける約束をシャナとしているためこれから冒険者ギルドに向かった。


「そろそろオーク以外の依頼を受けようか」


「そうですね」


「ん」


まだ冒険者になってオークの討伐依頼しか受けていないのでそろそろ他の依頼を受けたい。


「ならあなた達はこの依頼を受けなさい」


「うおっ!ギルド長!?」


相変わらずすぐ後ろに現れるのをどうにかしてほしい。そして後ろから差し出された依頼に目を通した。


「盗賊の討伐依頼?」


「まぁ調査と言ってもいいわね」


差し出された依頼は近くに現れた盗賊を殺すという依頼だった。


「今朝に一回だけ未遂の被害が出ただけだからまだ近くにいると思うから見つけられれば殺してほしいの」


「2人はこれでいい?」


「はい」


「ん」


2人はこれでいいと言うのでこの依頼を受けることにした。こちらの世界では犯罪者は容赦なく殺される。犯罪者は魔物と同じという考えだ。ただ俺は人殺しをすることは初めてだ。ソフィも初めてだろう。シャナは…分からないな。だが前世の価値観も持っている俺には少しきつい。


「まだ私の中で整理がついてないからまだ聞かないけど今度詳しく話を聞くわよ」


「あはは……」


そして受付にこの依頼を持っていく途中でそんなことをギルド長から耳打ちされた。もしかしてこの依頼を受けさせることよりもこれを言うのがメインだったんじゃないか?



「じゃあ行こうか」


「はい」


「ん」


人殺しは正直したくない。けどもし殺さないと大事な誰かが傷ついてしまうという時に戸惑って殺せないなんてなりたくない。だからこの依頼を完遂しなくてはならない。


「見つけた」


そして被害にあった場所に向かって辺りを散策して近くの林に入って少しするとシャナがそう呟いた。


「何体いる?」


「5体」


「依頼通りですね」


依頼では盗賊は5体で襲ってきたが返り討ちにされて、2体は重症を負っているらしい。



「見えましたね」


「あれだね…」


小さな洞窟の前に1体が見張りのように立っている。聞いていた顔の特徴とも当てはまっている。


「行ってくる」


そういうとシャナは隠密を使って気付かれないように近付いた。


「大声を出すな」


「っ!」


「盗賊?」


「ち、違う…」


「そ」


「が…」


シャナは盗賊の首にナイフを当てて何かを喋った。しかし小声だったためこちらまで声は聞こえなかった。シャナは何かを言った盗賊の首を斬り、音がしないようにそっと地面に置いた。


「中にまだ4体」


「了解」


そしてまだ中に盗賊はいるので気を引き締めて気付かれないように向かった。


「ウィンドスピア」


「がっ…」


「しっ!」


「なんだてめぇ……ら…」


ソフィが洞窟の奥にいた4体のうちの1体に魔法を放って殺した。それを合図に俺も飛び出して1体の盗賊を刺した。


「後はこの2体ですね」


「ん」


そして残りの2体は雑に包帯が巻いて寝かせられていた。包帯に血が大量に滲んでいるのでこのまま放置しても死ぬだろう。


「ゼロ兄様、少し剣を貸してください」


「ん?いいよ」


「ありがとうございます」


そして俺の剣を貸すとソフィは躊躇なくその剣を寝ている盗賊の1体に突き出した。そして剣を抜くと血を振って落とした。


「貸してくれてありがとうございます」


「ありがとうね」


「なんのことでしょうか?」


「なんでもない」


ソフィは俺のためにわざわざ剣を使って殺してくれたのだろう。ソフィなら魔法でやる方が簡単なのに。妹が躊躇なくやったのに俺が躊躇するのは兄としてかっこ悪いので俺もソフィから返してもらった剣で一思いに殺した。



「ファイアボール」


そして5体の死体を集めて魔法で燃やした。人間の死体を放置しておくとアンデッド系の魔物になる場合があるので燃やさなければならない。魔物の死体はどこからともなくスライムが現れて綺麗に消化してくれるらしい。ただ血の匂いで魔物がよってくる場合があるのでその場に長居する時などは魔物も燃やしたりした方がいいらしい。


「じゃあ帰ろうか」


「そうですね」


「ん」


依頼も完了したので帰った。まだ人殺しに慣れたとは言えない。けど大事な人を守るために殺すという時に戸惑ってしまうなんてことはもうないだろう。


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