第29話 模擬戦

「ふぅ…」


俺は一人で着替え終えた。そして元の場所に戻ってもまだ相手は現れていなかった。相手は同年代なんだろうか?正直同年代の中では俺とソフィは飛び抜けているのは自覚している。なので同年代では俺達の相手になれる人はほぼいないだろう。まぁ夜中に魔物を倒しに行く10歳なんて探しても俺らくらいだろう。周りの反応だとあの第三王子の魔法はすごいのだろう。だが、アドルフォ家は戦争などの戦でエンチャントを駆使して戦果を上げて辺境伯になった。そのアドルフォ家の当主である父が俺の事をとても優秀と言っているのにも関わらず喧嘩を売ってきたのだからもっと強いとは思っていた。それになんらかの王族の英才教育もあると思っていた。


「おっ相手が来たようだ」


「ん?シャイナ様?」


誰なんだろうと見てみると相手はシャナだった。一応周りの目があるので様付けで読んだのが悪かったのか無表情だが、すごい睨んでいる気がする。


「…最後に言ったこと覚えてる?」


「うん」


「そっか…」


最後に言ったこととは、次は俺にシャナが必要だと言わせるというものだったと思う。


「ゼロス、助言をしておく」


「ん?」


「気を抜くと一瞬で負けるぞ?」


「え?」


審判が助言なんてしていいのか?と思っていたがそれよりも助言の内容が気になった。


「両者準備はよろしいですか?」


「はい」


(こくんっ)


「では始め!」


始まったがとりあえずシャナの出方を伺うつもりだった。


「……」


「うおっ!!!」


シャナを見ていたのに見失った。そして危機感知が反応して急いで仰け反るとそこに模擬刀が通り過ぎた。


「風エンty…!!」


飛び下がりながら風エンチャントをしようとしたらいつの間にか足に鎖が巻いてあり、飛んだ瞬間に引っ張られた。というかその鎖はどっから出した!?


「おっりゃー!」


「……」


「まずっ!」


急いで足の鎖を持ってシャナごと投げ飛ばそうとしたが思ったより鎖が長くシャナを投げ飛ばすことが出来ず、さらには今度は鎖を体に巻こうとしていたので急いで抜け出した。


「燃やせ!ファイヤb…」

「ストーンロック」


ファイヤボールで鎖を燃やそうとした。模擬戦用なので鎖は木でできているので燃えるだろうと思っていたがそんなことはさせないとばかりに土魔法で足を地面に縫い付けられた。これで優先順位が鎖よりもストーンロックの方に移った。いや!そんなことよりも木でできた鎖ってなんだよ!オーダーメイドじゃないとそんなの無いだろ!?


「……」


「くっ!」


下半身がほぼ固定されている状態で攻撃を避けるのはさすがに難しい。ストーンロックを魔法斬りで斬れるかと試したが斬れなかった。スキルレベルが足りないのだろうか?


「火エンチャント!」


急いでストーンロックを外して鎖も力ずくで壊して今度こそ一旦距離を取った。


「はぁはぁ…風エンチャント」


前言を撤回しよう。何が同年代で相手になれる人がほぼいないだ。こんなすぐ側にいるじゃないか。どうやら俺も第三王子と同様に少し天狗になっていたようだ。正直シャナが優秀すぎる気もするが…しかもまだこの模擬戦が始まってからまともに剣すら振らせてもらえてない。自分の戦い方ができないのがこんなに辛いことだとは想像もしていなかった。騎士団長の言っていた通りだ。さっきはいつ負けてもおかしくなかった。それに本物の鎖なら負けていたと思う。シャナがどれくらい成長したかな?っと模擬戦が始まる前に上から目線だった自分をぶん殴りたい。ここからは気を引き締めていこう。


「よしっ!」


気を引き締めてシャナに向かって行った。詠唱省略が出来るシャナ相手に魔法戦は不利だろうと判断した。


「っ!」


シャナが懐に手を入れたと思ったら何かを投げてきた。避けることは難しくなかったが一瞬シャナから目を離した隙に見失った。


カンッ!


危機感知が反応した瞬間に剣を振った。するとシャナが持っていた短刀に当たった。そしてまたシャナが見えなくなった。


カンッ!


カンッ!


カンッ!


カンッ!


そしてこれが何度も続いた。危機感知が反応しない限りシャナの居場所が分からない。今は千日手状態なのかもしれない。俺が警戒しているので魔法も鎖なども使えないだろう。シャナにまだ手があるかは分からない。この状況なら俺から攻めたい。どうするべきか…

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