第21話 とある街道
なろうの方で結構読まれていたので、終幕を急遽書きました。
こちらにも投稿しておきますのでご覧ください。
◆
再会のあの日から半年ほどが経った。
1か月後に神託教会の立ち合いのもとで結婚式を挙げて、その後は二人でいくつかのダンジョンを討伐した。
パーティ加入希望者は山ほどいたが、クロエが嫌がったから大体は2人だ。
とは言っても、俺は案内人としての仕事もあるからそういう時は別だったが。露骨に不満そうな顔をするのは止めてほしいところではある。
半年ほどして少し落ち着いたところで、新婚旅行に行きたい、と言われた。
とはいえ、旅行と言っても特にここというところも思いつかなかったから、王都ヴァルメイロに決めた。
アルフェリズよりはるかに大きく、人も多い賑やかな街だ。楽しめるだろう。
ただ、新婚旅行とは何なのか。それが謎だ。
クロエの世界とやらではそういう風習があったんだろうか。
◆
「まだ着かないの?」
疲れた声でクロエが声をかけてきた。
昼の太陽が頭の上で輝いている。日差し程暑くはないのが幸いだな。
はじめは見たことが無い景色の良さや風の気持ちよさが新鮮に思えるが、1日中歩くのが1日半も続けばうんざりしてくるのは分かる。
堅くゲートルを巻き付けた足はそろそろ感覚が無い。
「もう少しでヴァルメイロにつく。今日はいい宿に泊まれるぞ」
まばらに灌木が映えた広々とした緑の草原を茶色に貫くように伸びる街道はまだまだはるか長くて、街なんて全く見えないが。
目的地までの距離は感じる。
「なんでもうすぐ着くって分かるの?」
「
「へえ、その能力、ダンジョンの中でなくても使えるのね。フィールド移動なんてないから知らなかったわ」
クロエが呟く。
「あーもう、ミッドガルド・オンラインじゃ移動はカーソル動かすだけでひとっ飛びだったのに」
「そんな楽な移動手段があるなら是非拝んでみたいね、まったく」
今回は乗合馬車が来るまで間があったから歩きにしたが。
都市の間を飛び回るような魔法やスキルは聞いたこともない。
「それに、いい宿と言っても、ベッドは堅いしエアコンも水道もないもんね」
クロエがぶつぶつと不満をいう……疲れがたまってるな。
「でも、お風呂があるのと、食事の種類が豊富でおいしいのは救いだわ。
この辺に妙に細かい設定があるのは……ミッドガルド・オンラインが和ゲーであることが理由ね。ありがとう、運営」
そう言ってクロエが頷く。
こいつの言うミッドガルド・オンライン、ゲームの中なる概念はいまだに意味不明だ。
というか、もう一つの世界がある、という感覚がそもそも俺にはよくわからない。
神の住まう天界や魔獣が根城にする魔界がある、というのはまことしやかにささやかれている話だが、実証したものはいない。
歩いているとクロエが寄り添うように体を寄せてきた。
「おい、あんまり近寄るなって」
「貴方の為にきたんだから、この位はいいでしょ」
クロエがドヤ顔で言う。
これは、何かあった時のあいつの決め台詞になっている気がする。
この半年を思い出す。
最初はこの世界の常識を知らないことも多くて、神託教会とトラブルを起こしかけたりした。
戦いのときにも妙にぎこちなかったりしたが、この半年でレベル98に相応しい感じになった。
魔獣の知識は
俺の場合は
攻撃パターンを読み切っているように動き、判断にも迷いがない。
ただ。中身はどうも子供っぽかったりすることがあるな。
「もう少しゆっくり歩いて」
「なんでだ?ペースがきついか?」
「一緒に歩けないでしょ」
クロエが言って手を俺の手に触れさせてきた。
「手をつないで?」
「歩きにくいだろ」
「私にとっては大事なの」
「まあ……いいが」
クロエが指を絡めてきた。握り返すとクロエが嬉しそうに笑う。
細い指は前のままだが、豆が出来て少し硬くなっている。戦士の指になってきたなって感じだ。
クロエが俺をじっと見た
「なんだ?」
「格好良くなったなってね」
クロエが言うが……そういうことを真顔で言われても返答に困るぞ。
「……そうか?」
「最初に会った時の疲れーた顔とは大違い」
そう言ってクロエがまた笑う。今となっては懐かしい話だ。握ったままの手を嬉しそうに振る。
しかし。
「これだと歩きにくいし、万が一魔獣が出たら即応できないぞ」
「あたしたちに勝てるモンスターがこの辺に出る訳ないでしょ。いっそ魔獣と接敵すれば暇つぶしになるわ」
実際にその通りではある。もう少し緊張感を持て、と言いたいことろだが。
何がいいのかわからんが、嬉しそうな横顔を見た。
まあいいか。
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