第20話 星空の天幕亭・再会

 星見の尖塔の蒼穹の礼拝堂以外に、クリア報酬トロフィーが願いを叶えるものがあるといわれているダンジョンは見つけた。

 というより80を超えたところで得た能力、万象の辞典エンサイクロペディアで分かったというべきか。

 この能力はダンジョンやモンスターのことを調べられるものらしい。


 トロイアの大灯台の暁の鐘楼がそれだ。

 だが、かなえてもらえる願いは一つだけ、と考えるべきだろう。


 なら一人で行くしかない。あいつのように。

 ソロで行くならカンストの99レベルまで上げておきたい。

 

 今は89……あと2年ほどでなんとなるか。

 案内人ガイドの仕事が忙しくなって自分のレベリングがおろそかになっているのが最近の悩みの種だ。


 手帳を見ると、びっしりと予定が書きこまれている。

 できれば空いた時間に何処かにソロで行ってレベリングをしておきたいな。

 

 いずれこのことも考えなくてはいけない問題だ。 

 少し冷めてしまったスープにパンを浸しながら思いを巡らせる。


「強くなったみたいね……今、レベルはいくつ?」


 パンを口に運んだところで頭上から声が降ってきた。

 皿から顔を上げると黒髪の女騎士が立っていた。



「久しぶり……あたしのこと、覚えてる?」

「……クロエか?」


 前とは少し違う。

 黒髪は同じだが、髪が伸びて、顔立ちも少し違う。前よりも優し気になって、ますます戦士っぽくなくなった。

 ただ、装備品というか震天雷で丸分かりだが。


「何で……ここにいる?」

「ゲームでね、あのダンジョンを抜けたの……そこで願ったら、そしたら来れた……会いに来て迷惑だったかな?」


「あんたは向こうに世界に大事なものがあるんじゃなかったのか?」


 そう言うとクロエがきまり悪そうに目を逸らして黙り込んだ

 しばらくの沈黙の後に何かつぶやく。


「……たかったの」

「なんだって?」


 小声過ぎて聞き取れない。聞き返したらクロエが俯いた。


「向こうの世界にあるものより……貴方に会いたかった」

 

 そういうとクロエが咎めるように俺を見上げた。


「こんなこと言わせないでよ、女の子に。レベル上がって性格悪くなったんじゃないの?トリスタン」


 小さくバカとつぶやくのが聞こえた。


「……なんであんたは変わらないんだ。俺と同じくらいの年だったはずだろ」


 あれから2年たった。

 だが、顔立ちは少し違うが、年を取った感じは全くしない。


「時間の流れが違んじゃないかな。こっちとあっちだと。向こうじゃ半年くらいだったし」


 クロエがしれっという……なんなんだそれは。


「……俺は二年待ったぞ。多少意地悪しても許されるだろ」

「えっ……ああ、そうなの……そうなんだ」


 クロエが少し驚いたような顔で俺を見る。

 こっちも改めてクロエを見た。


「ていうか、なんで見た目が変わってるんだよ」

「一応言っておくとアバターで若作りしてるわけじゃないからね……これは本当よ。これが本当のあたし」


 妙に早口でクロエが言うが。アバターってなんだ。


「相変わらずアンタが何を言ってるのかわからん」

「分からなくていいわ。この件は」


 どうやらこの話は深く突っ込まない方が良いらしい。よく分らんが。

 

「ところで……貴方はいま、どうなの?」


 クロエが何やらあいまいな口調で聞いてくる。


「どうなのって……どういうことだ?」

「つまり……その……恋人がいるか、とか、結婚してるかとか、そう言う意味」


 クロエが俺の指をちらちら見ながら、聞きづらそうな感じで言う。


「だって、貴方に会うために来たのよ……あなたが幸せならOKです、なんていうのは……ちょっとね」

「生憎とそんなことはない」


 レベルが上がって周りの待遇もずいぶん変わったが……何となくそんな気分にはなれなかった。

 クロエがため息をついた。

 

「……俺は意思のないNPCとやらなんかじゃない。あんたとパーティを組みたい。そう思ってきた」


 そう言ってクロエを見る。


「あんたはNPCじゃないよな。顔が似てるだけの」


 そういうとクロエが肩を竦めて笑った。


XRエクストラレアの武器を持ってるLV98のNPCなんていないよ」

「……そういうことじゃないだろ」


 そう言うと、クロエが頷いた。


「証明しようか?あなたと一緒に生きたい。だからここに来たわ」


 はっきりした口調でクロエが言う。

 嬉しい言葉だ……この2年の苦労が報われた気がした。


「2年もあたしのこと、待っててくれたの?」


 クロエが聞いてくる。

 ……追いかけるつもりだったんだよ、とは言わなかったが伝わったらしい。

 クロエが嬉しそうに頷いた。


「でも、せっかく来たんだから……好きだよとか待ってたよとか、来てくれてうれしいとか言ってほしいな。あと」


 そう言ってクロエが一歩進み出て俺の胸に額を当てるように体を預けてきた


「キスしたい……していい?」

「……ここでか?」


 改めて周りを見ると、食堂の全員が俺たちの方を見ていた。

 ……そりゃそうか。自分で言うのもなんだが、俺はアルフェリズではトップのLV89の案内人ガイドだ。

 それが突然戻ってきたLV98星騎士ステラナイトと話しているんだ。注目を曳かないわけがない。


「そりゃあね……恥ずかしくないわけじゃないけど……」


 クロエが俯いたまま小さい声で言う。


「ここでしておけば……皆に分かるでしょ。その……あたしたちの関係が。

あなたは私のもので、私はあなたのもの」


 クロエが俺を上目遣いで見上げた。


「……ここまで来たんだから、誰にも渡す気はないからね」



 これにて完結。いかがでしたでしょうか。


 感想など頂けると幸いです。よろしくお願いします。

 

 





 







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