第22話 幕間・ギルドのホールにてSSR装備の取引
なろうの方でまだ読まれているので、幕間追加です
◆
「なあ、いいか、クロエ」
「なに?」
声をかけると、ガーリックトーストを頬張っていたクロエが振り向いた。
これはこのホールの定番メニューで、カリっと焼かれたガーリックチップと香味油をたっぷり乗せた名物だ。
クロエもお気に入りのようだが……こっちに来て2週間ほどだが、完全に馴染んでいるな。
今日は二人でダンジョンで戦って
夕飯時には少し早いが、ホールは今日の探索を終えた冒険者たちで8割がたが埋まっていてにぎやかだ。
クロエは最初の3日ほどは色々と注目を集めていたが。
しばらくすると周りも何となく馴染んだようで、今はちらちらとみられる程度になった。
「あいつが話があるそうだ。聞いてやってくれるか?」
「いいわよ、何かしら?」
クロエがトーストを飲み込んで口元を布で拭きながら答えてくれる。
合図をしたら、遠くで見ていたアルフレアが整った顔に緊張した表情を浮かべてこっちに歩み寄ってきた。
「初めまして、騎士クロエ殿。お目通りがかない光栄に存じます。
私はアルフレア。クラスは
アルフレアが恭しく名乗ってクロエの前に礼儀正しく膝をつく。
クロエが困った顔で俺を見た。
「あー、あの、そういうの慣れてないから止めてもらえます?」
「しかし、貴方はLV98。国一番の騎士殿です」
顔を伏せたままでアルフレアが言うが。
「いいから」
「アルフレア、本当にこの人は気にしてないらしい」
基本的にこいつはレベルをひけらかそうとしないし、かしこまられるのを嫌がる。
LV98ならもっと偉そうなのが普通だと思うんだが。
ゲームの中で跪く人はよっぽどの気障なやつ以外いないし、リアルではもっといない……んだそうだ。この辺はよくわからん。
そういうとアルフレアが恐る恐るって感じで立ち上がった。
「いいわよね、
支援系の魔法を自分で使えるから援護しなくていいし、火力高いし、防御も硬いし。自己完結力が高いのは助かるわ」
「光栄です」
アルフレアの緊張した顔が少し緩んだ。
トールギルの
ちなみに
クロエはクラスチェンジ・ツリー的に
「雷槌ミニョルを譲っていただきたく……今日はお願いに伺いました」
雷槌・ミニョルや蒼穹の礼拝堂で貰ったSSR装備はクロエに返した。どうせ俺には付けられないし、売る気も無かったから不都合はない。
ダンジョンでガイドをするときにはたまに貸し出していた程度だ。
とはいえ、実際はあまり貸す機会は無かった。
駆け出しの冒険者に貸したこともあるが、武器の性能に頼りすぎて動きが雑になったり、武器に振り回されて戦い方が乱れることがあったからだ。
……まあレベル12で村雨を貰った俺が言うのもなんなんだが。
強い武器を持てば強くなれる、という面は確かにある。
ただ、それを本当の使いこなすには使い手にもそれなりの力量が必要だということが何となくわかってきた。
今の俺は多分前より村雨を使いこなせていると思う。
そして、レベル75のアルフレアなら雷槌・ミニョルを使いこなせるだろう。
「貴方の今の装備は?」
「SRのギガントの大鉄槌です」
「ああ……レベル75でそれはちょっとしんどいね」
「ご存じなのですか?」
クロエが頷く。相変わらずよく知ってるな。
「あれ、SR装備の中では優秀で威力もあるけど……重いし間合いが短いでしょう?」
「その通りです。さすが騎士殿」
「ダンジョンのクリア
「生憎と私が装備できるものは出ておりませんで」
アルフレアのパーティは4つのダンジョンを攻略しているが、クリア
SSR装備のうち1つ、法典・マグナカルタはパーティの魔法使いが使っているが、残りは装備できないから売るしかなかったと言っていた。
「
「……神はまだ私に微笑んでくれておりません」
アルフレアが俯き加減に言う。
苦労して攻略したダンジョンのクリア
勿論売れば大金にはなるんだが、金よりはやはり手元に愛用の武器として残る方が良い。
「ガチャ運無いのね……課金とかは出来ないんだ」
「……カキンってなんだ?」
そういうとクロエが苦笑いした。
「いいわ。譲ってあげる。レベル75の前衛でSR装備なのはちょっと苦しいよね」
「ありがとうございます……お代はいかほどになりますでしょうか」
アルフレアが聞いてクロエが首をかしげた。
「いくらくらいなの?」
「さあ」
SSR装備はそもそも流通していない。
なので価格はつかないというか、売る側が値を付けて買う側が納得すれば取引は成立する。
クロエが少し考えこむように目を閉じた。
「あなたはSSR装備を売ったことあるのよね」
「はい」
「じゃあ、それと同じってことで、どう?」
「勿論、申し分ありません。というか……いいのでしょうか。そちらは雷槌・ミニョルですが」
同じレア度の装備の中でもやはり格差というものはある。雷槌・ミニョルや剣聖・村雨はSSRの中でもかなり上位であるらしい。
心配そうなアルフレアにクロエが気にしないでって感じで手を振った
「いいわ。どうせあたしもトリスタンも使えないし。
昔はレアアイテムコンプリートしようとか思ったり、色々持ってるとなんとなく自慢出来てよかったけど……ここだと使う人が使う方が良いわよね」
そういってクロエがアイテムボックスを開ける。
俺の背丈くらいある赤い長柄と真っ白い槌頭の戦槌と武骨な籠手が現れた。この二つはセットらしい。
柄と槌の部分には雷と雲を象った文様が描かれていて、時々青白い稲妻が周りにちらつく。
雷槌ミニョルは火力やステータス向上効果も高い。それに、雷撃系の攻撃無効化をパーティ全体に賦与する効果もある。
そして何より強烈なのはトールハンマーという特殊能力だ。地面に打ち付けると周囲の敵を雷撃で
最前列に立つから敵に囲まれやすいアルフレアとしては頼れる能力だろう。
雷槌・ミニョルを受け取ったアルフレアが感慨深げに眺めてため息を一つつく。
仲間たちの方を振り返って手を振って、アイテムボックスに仕舞った。
「ではこちらを」
アルフレアがアイテムボックスから金貨の袋を取り出す。
クロエがそれを自分のアイテムボックスに入れた。
「へえ、こんな風になるんだ。便利よね……クレカよりよっぽど楽だわ」
クロエが感心したように言う。クレカとは何なんだ?
変化したステータスの所持金欄を見てクロエがぽんと手を打った。
「どうした?」
「そっか、これがホントの
クロエが 何かに納得するように頷きながら言う。
アルフレアが不思議そうに首をかしげて俺の方に歩み寄ってきた
「なあ、トリスタン……騎士殿は一体何を言っておられるのだ?」
「……俺に聞くな」
アルフレアが小声で聞いてくるが。
再会して2週間。俺だってこいつが何を言っているのか、分からないことがあるのだ
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